第13話 学院門外の戦い
それは、戦いと呼ぶには静かだった。
学院の門外。
街道が開けるその場所に、冒険者たちが集結していた。
名のしれた高ランク冒険者ばかり。その数、二十三。
標的は、一人の少女。
ノクティア=ヴェリタス・アル=セリオン。
「……少なすぎますね」
レインが、低く呟く。
ティアは、門に向かいながら、数を数え終えていた。
「いい、レイン。手を出さないでね?」
それだけ言って、ティアはレインの数歩先を歩く。
光が、広がった。だが、それは攻撃ではない。
球状の、結界。
ちょうど学院の門の外。
冒険者たちを、丸ごと包み込んだ。
「結界だと!?」「外部遮断か!」「大きい!」
冒険者たちが、ざわめく。
本来、結界とは、外部からの攻撃を防ぐためのものだ。
だがティアの結界は、違った。
衝撃も、魔力も、恐怖すらも、
この内側で完結させるためのもの。
そんな結界の使い方を、誰も、知らない。
「中に! 中に、私も入れてください!」
結界の外から、シオンが叫ぶ。
「私も戦えます! ティア様、戦わせてください!」
シオンが、結界に拳を打ちつける。
小さな拳に、血が滲む。
「……やめなさい」
レインが、優しくシオンの肩を掴む。
「ここは、英雄の出番ではない」
「ですが——!」
「見なさい」
レインは、シオンの目を逸らさせなかった。
「これが、私たちの主の戦いだ」
結界の中心。ティアは、ほとんど動かなかった。
剣も、抜かない。詠唱も、ない。
ティアはただ、抑えていた膨大な魔力を解放した。
身体から光の粒子が零れ落ち、結界内を満たしていく。
次の瞬間。
冒険者たちが、全員、膝をついた。
「……っ?」
息切れ。力の喪失。だが、外傷はない。
冒険者たちが、次々と倒れる。
ただ魔力に当てられただけで、動けない。
それだけの差があった。
「何が……?」
これほどの差を、経験したことがない。
だから、理解が追いつかない。
「やめろ……!」
誰かが叫ぶ。
「降参だ! もう——十分だろ!」
ティアの表情には、怒りも、喜びもない。
ただ、平然としている。
「ちゃんと。礼儀、正しくです」
殺さない。壊さない。
ただ、戦えなくする。
その行為が、冒険者たちの心を深く折った。
「……も、申し訳ありませんでした」
「す、すみませんでした……」
理解したのだ。
「脅威度、王国にとって危険って……」
「そんな、そんなレベルじゃない……」
結界が解かれた。外の風が流れ込む。
それからティアは、申し訳なさそうに言った。
「装備品を……あと、お金もすべて置いて行ってください」
「あ、大切な方の形見とかは、そのままお持ちください」
冒険者たちが、ざわつく。
「……なぜ?」
ティアは、少しだけ考えてから答えた。
「王国法第18条2項」
「合法的に討伐した相手の所持品等は」
「それを討伐した者に所有権が移管される」
冷静なティアの表情が、ここで少し不安そうになる。
「私の討伐依頼は、その正当性に疑義があります」
「国王も、調査中とのことでした」
「つまり、討伐依頼が合法的なものか、現時点では不明です」
「ですから、私には正当防衛が成立……しますよね?」
ティアは腕組みをし、顎を上げる。
それから、自分に言い聞かせるように言った。
「私は、合法です」
小声で続けた。
「装備品は、売らせていただきます」
「これからは……路銀も、必要なので」
冒険者たちは、逆らわなかった。
ティアの慈悲により、命拾いしたのだ。
剣。鎧。魔導具。
地に積まれていく。
「す、すみません。これは、父の形見なので……」
「結構です。そのまま、お持ちになってください」
「きちんと、お墓参り、するのですよ」
シオンは、ただ茫然と立ち尽くしていた。
そんなシオンに対して、レインが言う。
「用務員の方に、台車を、借りてきてもらえないだろうか?」
「あれだけの数の装備品だ……」
我に返ったシオンが、返事をする。
「え、えっと。貸していただけますかね?」
「もう私たち、学校関係者ではありませんし」
レインは、ニヤリと笑って答えた。
「黒髪の英雄よ」
「あなたは……まだ、退学していないだろう?」
第2章の始まりです。
お読みいただき、ありがとうございます。




