第12話 出立
荷物を抱えたレインを連れ、ティアは学院の中央道にいる。
門外には、武装した冒険者たちがいる。二十人程度か。
ティアが、校舎を振り返った。
その額からは、今日も血が流れている。
「聞け!」
「私、ノクティア=ヴェリタス・アル=セリオンの言葉である」
念話の補正がかかっている。
教職員、全校生徒の頭に、ティアの声が響く。
「お前たちは、魔族だから殺すのか。人間だから生かすのか」
「盗賊だから殺し、聖職者だから生かすのか」
レインが、ティアの隣で姿勢を正した。ティアが続ける。
「では問おう」
「この世界に、死すべき属性、生きるべき属性など、存在するのか?」
「それを決めているのは誰だ?」
「血か。種族か。肩書か。それとも——数か」
「私は、それを当然として受け入れるこの世界を、認めない」
「正しさを、属性で決める者を。命の重さを、自らの都合で量る者を」
「覚えておけ」
「今日、お前たちは私を追い出すのだ」
「危険だから。異質だから。そして、都合が悪いからと」
「だが、世界は必ず同じことを繰り返す」
「いずれ——お前たちが『貴族だから』と殺す者が現れる」
「力を持つから。富を持つから。邪魔だからという理由で」
「そのとき、お前たちは今日の私を思い出すのだ」
「そして知るがいい」
「お前たちの正しさとは、せいぜい」
「多数派の顔をしているだけの偽物である、と」
「私は、決して忘れない」
「近寄ることさえ危険なこの私から離れず」
「私のそばに一人、仕えた者がいたことを」
「激痛を引き受け、一人で私を育てた者がいたことを」
レインが静かに膝をつき、ティアに最敬礼を捧げる。
下を向きながらもレインは、どうしても笑みを隠せないでいる。
「だから私は、その高潔なる者の主として宣言する」
「私は、種族で裁かない。肩書で救わない」
「そして、属性で赦さない」
「私に石を投げた者よ。ただ、それを見ていた者よ」
「私を追い出すことで、楽になろうとする者よ」
「それを悪という。それを——悪というのだ!」
生徒の一人、黒髪の少女シオン=アカリが、ティアに走り寄る。
跪き、ゆっくりと深く敬礼した。
それから右手で長い髪をおさえ、自らの細首を露わにする。
シオンの手は、微かに震えていた。
シオンと同じように走り出そうとした第二王女のエミリアは、複数の近衛に抑えられている。
「ティア様! ああ、ティア様!」
「どうか、どうかお許しください!」
ティアは、続ける。
「善悪とは、属性のことではない」
「お前一人の中で、そのように共存するものである」
「お前の中のその悪を、しかと噛み締めよ」
「私は、それを決して赦さない」
「いずれ、世界が大きく間違えるとき……」
「覚えておくがいい」
「お前たちを救うのは、今日、こうして追い出した」
「この怪物——そう。私だ」
「私は、お前たちを憎まない」
「その代わり、お前たちの中にある悪は、必ず正す」
「それが——王の責務だからだ」
静寂。
エミリアの泣き声だけが、校舎の壁に木霊する。
その泣き声を背景に、レインが、膝を叩きながら立ち上がる。
レインは、隣で首を差し出していたシオンの震える手をとり、
シオンを立たせながら、声をかけた。
「黒髪の少女よ、見事である」
「忘れるな。そなたのような者のことを」
「英雄というのだ」
誰も、身体を動かせないでいた。
そこでティアが、笑顔で叫んだ。
「ありがとうございました!」
彼女の身体からは、光の粉がたくさん舞っていた。
その姿は、この場にいた誰もが、忘れられないものになる。
学院が失おうとしているものの大きさが、理屈なく伝わる。
もはやこの学院に、権威と言えるものは残されていない。
「それではみなさま、ごめんあそばせ」
これにて、第1章が終わりとなります。
お読みいただき、ありがとうございました。
リアクション、☆評価、ご感想、コメントなど頂戴できたら、
続きを書くモチベーションとなります。
続く第2章も、どうか、よろしくお願いします。




