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光属性の魔王  作者: 八海クエ
第1章 越境
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第11話 断絶と退学

 その決断は、静かだった。

 怒りも、悲嘆も、表に出る前に、すでに整理されていた。


 ティアは、自分の周囲から人を遠ざけることを選んだ。


 最初に、エミリア=ハイデルグ・アウレリウス王女殿下に伝えた。


 場所は、学院内の応接室。形式ばった席ではない。


「……私にできることは、すべてします」

「ティア様、どうか、お守りさせてください」


 エミリアは、真っ直ぐに言った。やはり、王の格。


「父に、再度掛け合います。冒険者ギルドにも、必ず圧をかけます」

「あなたは、何も悪くない」


 その言葉に、嘘はなかった。

 だからこそ——ティアは、この正義を断らなければならない。


「ありがとうございます。でも……それは、殿下にとって危険です」


「危険でも構いません!」

「ばかにしないでいただきたい!」


 エミリア王女は、おそらく、生まれて初めて声を荒げた。


「友人が、理不尽に命を狙われているのです」

「それを黙って見ているなど、王族たる資格が——」


——友人と言ってくれた。なんて、ありがたい。


 ティアは、少しだけ目を伏せた。


「調査中とはいえ……これは、公式な討伐依頼です」

「これに背けば、国家反逆罪に問われます」


 エミリアは、言葉を失う。


「それは、殿下のお立場を、この国そのものを危うくします」

「敵の思う壺です。正しいものを失脚させるのが、狙いです」


 しばらくの沈黙の後、

 エミリアは小さく息を吐いた。


「それでも、私は——」


「エミリア=ハイデルグ殿下。しつこい」


 ティアは、はっきりと呼びかけた。


「ここから先は、私の問題です」


 それは、拒絶だった。

 だが、最大の敬意を持った、理解のある拒絶だった。


 次に、シオンに告げた。


 場所は、いつもの図書館の裏。

 人目につかない場所。


「……お一人で、行くおつもりですか?」


 シオンは、低い声で言った。


「ええ。ごめんなさいね、シオン」

「でも、一人じゃない。レインがいてくれます」


「冗談ではありません」


 即座に返ってくる。


「私は、あなたのおそばにいると決めたのです」


 ティアは、胸が少しだけ痛むのを感じた。


「シオン……とても、嬉しいです」


 正直な言葉だった。


「でも、シオンには危険すぎます」

「ご実家にも、ご迷惑をおかけします」


 当然、シオンは、食い下がる。


「危険なのは、今に始まったことではありません」

「そもそも生きるとは、危険なことでしょう?」


 シオンは、さらに一歩踏み出す。


「私には、戦う力があります。逃げる術もあります」

「ティア様。よろしいですか? 私にも——」


 そこで、声が震えた。


「こんな私にも、プライドがあります!」


 ティアは、思わず目を見開いた。

 シオンの目に、涙が溜まっている。


「……それに、一人でいることに」


 声を絞り出すように、続ける。


「それに、慣れてはいけないと……」

「私に言ったのは、ティア様ではございませんか!」


 ティアは胸を、強く打たれた。

 それは、確かに自分が口にした言葉だった。


 ティアは、しばらく黙っていた。


 そして——ゆっくりと、答える。


「シオン=アカリ殿……おっしゃる通りです」


 微笑む。痛みを隠すように。


「でも、今の私では……」


 声が、少しだけ低くなる。


「あなたや、殿下のような大切な人を守る手段が」

「これしか、ない」


 シオンは、歯を食いしばった。


「……それでも!」


「ごめんなさい」


 その一言で、会話は終わった。

 断絶は、言葉だけでは終わらせなかった。


 ティアは、文書を作成した。

 簡潔で、冷静な文章。王の文章である。


 ここに宣言する。


 私、ノクティア=ヴェリタス・アル=セリオンは、

 王立アウレリウス魔術師範学院において、

 特定個人との私的交流を、すべて断つ。


 本決定は、当該個人を危険から遠ざけるためのものであり、

 圧力、脅迫、強要によるものではない。


 魔王国アル=セリオン、第一王女たる、私の意思である。


 日付。署名。


 それを、学院の掲示板に貼り出した。

 ざわめきと憶測、無駄な解釈が、広がる。


「……そこまで、する?」

「自分から、孤立を選んだ……?」


 ティアは、何も言わない。

 ただ、背筋を伸ばして、いつも通り歩いている。


 学院内は、戦闘禁止区域に指定されている。冒険者は来ない。

 それでも間抜けな生徒が、ここ数日、ティアに戦闘を挑んでくる。


 初めは、学院内でも許されている生徒間の決闘として。

 次第に、その手口は卑劣な不意打ちになった。


 ティアは素手で、剣や魔法に対応した。

 相手に怪我をさせないよう、細心の注意を払って。


 レインは、こうした戦闘に、関与しようとさえしない。


「おい、私の主をばかにするなよ」

「そんな攻撃が、当たるかよ。身の程を知れ!」


 それでも、レインの口ぶりはいつもよりも荒い。

 明らかに、レインも苛立っていた。


 しばらくして、ティアへの攻撃の手口は、変化した。


 生徒たちは、授業中にも関わらず、ティアに石を投げた。

 もちろん、授業がない時も。


 ティアの堅固な身体に、投石ごときのダメージはない。

 しかし、どうしても心には、嫌な傷を負ってしまう。


——私は、強くない。強さとは、なんだろうか。


 返り討ちにあい、軽い怪我を負った貴族が、学院長に詰め寄る。

 その貴族の家族が、学院に対して、さらなる圧力をかけた。


 そうしてティアは、学院を正式に退学となった。

 ティアが十四歳のとき、中等部2年の終わりのことだった。


 そして、ティアが退学する日。

 ティア討伐の報奨金は2,000万ギルダにまで、増額されている。


 学院の門外には、多数の冒険者たちが待ち受けていた。

 退学の日が今日であることも、確実に伝わっていた。


 学院の外であれば、戦闘行為が禁止されていない。

 皮肉にも、いまは、誰もがルールを守っていた。



お読みいただき、ありがとうございます。

次で、第1章の終わりです。サビになります。

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