4.脳内お花畑
翌日、寝不足の目をこすりながら教室に入ると、女子たちにぐるりと囲まれた。みんな目が爛々としている。しかもなんだかうずうずしている。
なんだよ。なんのイベント発生だよ。爛々とした目の光が、寝不足の私の目には眩しくて痛いよ。
私を取り囲んだ女子たちは、さらに一歩踏み出してきた。おおうっ……やたらと近くないか?
「セレフィ、いつの間に彼氏つくってたの?」
「恋愛なんか興味無いって顔してえ」
「もう、早く言ってくれたらよかったのに」
「しかも身分違いの恋なんでしょ。お相手の方は本気なんでしょうねえ」
「平民相手だからって、遊びなら私たちが許さないわ」
「そうよ。私たち、セレフィの味方よ」
「身分を超えて掴んだ真実の愛。熱いじゃない」
「いつから付き合ってるの?」
「デートってどこ行くの? 何するの?」
「もう大人の階段登っちゃったってこと?」
「まああ、そんなこと聞くの? 破廉恥な」
「でも興味あるしぃ」
「どんな人? 優しい? ツンデレ? 俺様?」
「俺様いい、推せる!」
「セレフィは俺だけを見ていろ、とか?」
「お前には俺が必要だろ、とか。きゃあ!」
「見た目は? お顔はどうなの? ねえ、教えて~」
「待て、待てい! みんなそろって、ちょっと待てい!」
私はあわててストップをかけた。
昨日の放課後に続いて、お花畑脳の会話だ。キレイなお花が咲きほこる花畑を、スキップしながらあははうふふしている男女を頭の中で飼っている人たちだ。すべての言葉が恋愛的な意味合いに変換されてしまう、恐ろしい脳みそ集団の会話だ。
どうして私に向けてこんな質問が飛び交ってるかなんて、分かっている。昨日私を迎えに来たヴィクターさんを、私の彼氏呼ばわりした人がいるもの。私は元凶のふんわり赤毛を探した。
ふんわり赤毛さんは、女子たちの輪の向こうで、知ったかぶりドヤ顔を展開中だった。
「マリアガさん! この人たちになんて話したの!」
「そのまんま、ですわ」
「嘘だ!」
「あたくしの見立てでは、セレフィのお相手は子爵以上の年上男性。おそらく魔法隊のなかでも精鋭の、魔法剣士を目指していらっしゃる方だとお見受けしました。ほっそりして見えましたが、あの体格はいわゆる細マッチョというものではないかしら」
「いいね!」
「見た目より鍛えてるとか、いい!」
「セレフィ、羨ましい!」
「お顔のほうも、爽やか系で森林の香り属性でしたわ。あれでセレフィのこと本気なら、安心してあたくしのバディを任せられるというものです」
ほう、すごいな、マリアガさん。ヴィクターさんは子爵家の三男で年齢は二十四歳。近衛隊所属で王族のそばに控えられるくらいには顔の整った魔法剣士だ。マリアガさんの見立てはドンピシャ。
……じゃない!
肝心なところが全く違う。そこは絶対に認める訳にはいかなくて……
「あの人は彼氏じゃないって、言ったでしょ、マリアガさん!」
「まあ、照れちゃって。可愛いわね」
「違うんだってば、話聞けよ!」
「あの方、春のそよ風のような爽やかな顔をしながら、セレフィに愛の言葉を囁いてますのね。それを考えるだけでドキドキしてしまいすわ。
セレフィのどこを気に入ったのかは皆目わかりませんけれど。セレフィだって男性から見たら、どこか一箇所くらいは魅力的なところが見つかるのかもしれませんね」
「ちっとも褒めてねえな!」
「いずれにしても、我がクラス公認のカップル誕生ですわ。これからも遠目から静かに、しかし詳細に見守らせていただきます」
「やめてよ! そんでカップル言うなよ!」
「皆様、今度セレフィの彼氏を見かけましたら、すぐにお伝えいたしますわね!」
「よろしく、マリアガさん」
「絶対だからね!」
セレフィの彼氏って何年生かな年上なら一個上の六年生でしょどこで出会いがあるのかなセレフィって見かけによらずやり手よね私も彼氏ほしい……などという会話が遠ざかり、私はふらふらしながら机に突っ伏した。非・脳内お花畑の友達が、私の肩を叩いて「お疲れ。だけどあの調子じゃ災難はまだ続くな」と言ってきた。おおう。
……殿下の護衛のヴィクターさんと私が、公認カップルにされてしまった。
「おーほほほほ! あたくしに何でも聞いてくださってかまわないわ」というマリアガさんの高笑いが聞こえてきている。
マリアガさんを遠巻きにしてたクラスメイトが、マリアガさん中心にして世間話に花を咲かせていた。昨日までクラス内で浮きまくってたくせに、恋愛脳を武器にクラスでの居場所を勝ち取ったマリアガさん。
ルドルフ殿下、お聞きください。私とヴィクターさんが恋人という大いなる誤解から生じた尊い犠牲のもと、悪役令嬢の改造については成功した模様です。
……この結果、お気に召していただけるでしょうか。
あとは、ヴィクターさんは彼氏じゃないって、どうやって誤解を解くかだけが問題だ。あの、こちらの言うことまともに聞けない連中相手に。
腹の底から深いため息が漏れてきた。
しかもこの後一時間目、バディと実習だ。マリアガさんと実習だ。
はあああぁぁぁぁと長い息を吐いたら、友達がもう一度肩を叩いて、よしよしと頭をなでてくれた。
同情、ありがとう、友よ。友の優しさを糧に、放課後まで頑張る。
でも放課後ルドルフ殿下に、これを報告するんだ。その現場を思うと……
「セレフィ? ちょっとセレフィ? あんた、白目剝いてるよ! 生きてる?
マリアガさーん、セレフィこれじゃ実習無理だよ!」
「まあああ、何やってますのセレフィ! この後あたくしと『耐熱実習』じゃありませんの! 回復防御系は任せろ余裕だしって言ってたのセレフィでしょう? シャキッと起きなさい!
実習で一瞬でもあたくしの身体に傷を負わせたら、一生許しませんからねっ!!」
……悪役令嬢の改造って大変だ。
そんでもって、王族のわがままって災難だ。
悪役令嬢の、魔改造成功!
……かな?




