20.降臨
操作を失敗して、三話まとめて投稿になってしまいました!三話まとめてどうぞwww
巨大な聖魔法をぶっ放した後のことは、実はあまりよく覚えていない。なんだかものすごく周りが騒がしかったことは覚えている。右往左往というのはこの事かと、目の前の人の行き来を眺めていた。
私はよく見えてなかったが、ケルベロスはどうにかなったようである。あれだけの水量が全て高濃度の聖水に変わったのだから、ケルベロスの体力を根こそぎ奪い取ったのだろう。
ケルベロスの姿が見えなくなり、ルドルフ殿下が水魔法を収めた時には、魔法学校の先生たちも集まってきていた。先生たちは聖女像に刺さっていた魔法の杖を見て、魔族由来の素材でできた杖だと断定した。エリザベス姫様の杖は、魔族の角や牙などを使って作られた杖だったらしい。すぐに解析できるんだから、さすが魔法学校の先生たちである。
魔族由来の杖は、魔力を吸い上げる効果があるという。エリザベス姫様は溢れる魔力をその杖に吸い上げさせることで、何事もなく日常生活を送れていたようだ。そうじゃなきゃ魔力制御のできない姫様の周りは、溢れた魔力のせいで物が落ちたり壊れたりと、大変なことになっていたはずだ。
ただし、魔族由来の魔道具は、暴走したり制御できなかったりとトラブルが多い。そのため特別な機関でもない限り使用は制限されているはずだ。
どうやって手に入れたか謎である姫様の杖は、噴水に閉じ込められていた魔族の気配で目覚めてしまった。もしくはケルベロスが魔族由来の杖を引き寄せた。おかげで聖女像を突き壊す事件に発展したのだと、あとで聞いた。
私たちが勝負した場所も悪かったんだね。
ケルベロス騒ぎが一段落して、殿下の周りに護衛さんたちが駆け付けてきた。と思ったら、殿下の「こうりん」という言葉で、護衛さんたちは青い顔をして急に慌ただしくなった。伝言が飛び交い、伝令がどうのとか報告急げとか焦ったようにバタバタしていた。「こうりん」とはなんだ?
私は軽く魔力切れを起こしていたので、ルドルフ殿下に魔力供与として手を握ってもらいながらベンチに座っていた。人前では、殿下から一歩離れて膝をついて殿下のお手を取るようにと言われているので、なんで今日は隣に座っていいんだろう、とは思っていた。おかげでずいぶん楽はできた。
そのうちに八頭立て(!)の白い馬車がやってきて、殿下と共にひょいと乗せられてしまった。馬車の行き先は王宮で、私はルドルフ殿下と手をつないだまま、真正面から(!)お城に入った。
裏口じゃないんだ、正面なんだよ。おかしいんだ。
あれよあれよという間にお城の深奥部に連れていかれ、ものすごく偉そうな大勢の貴族のおじさんたちが注目する中、私は玉座の階段の下に立たされた。玉座にはもちろん国王陛下(!)、と王妃殿下(!)が座っておられたのだが、私の到着と共に階段を下りて来られた。
私の目の前に、ルドルフ殿下のお父さんであらせられる国王陛下と、ルドルフ殿下の義理のお母さんであらせられる王妃殿下がいらっしゃる。国王陛下はルドルフ殿下みたいな淡い金髪の、背の高いおじさんだった。
きらびやな陛下たちの衣装に対して、私とルドルフ殿下は学校の制服である。場違いも甚だしい。ここは多分、謁見の間とかいう国の一大行事の時に使われる空間だ。学生が紛れ込んでいいはずないし、悲しいくらい私はしっかりと浮いている。ルドルフ殿下は持ち前の豪奢な美貌で、事なきを得てるけど。
国王陛下と王妃殿下は、おごそかに私の前に立った。そして、そのまま優雅に、私に一礼した。私に至高の頭を下げたのだ。
……これはありえない事だ。絶対に起こらないことだ。
この国の至高の存在である王様と王妃様が、庶民に頭を下げるなんて!
王族は誰に対してもへりくだる必要のない存在なんだから。至高の存在というのは、それ以上の存在はいない、ということだ。
なのにどう見ても王様が私に頭下げてるんですけど! なんじゃこれ! 何が起こってるの?
ちょっとルドルフ殿下、これなんのイベント?! 私厄介なことに巻き込まれて、大袈裟に騙されてない?? そんでもってこの後の私の行動次第で罪に問われるパターンじゃないの?! 命に係わる件ですよね!
打ち首とか! 獄門とか! 市中引き回しとか嫌なんだけど!
頼りのルドルフ殿下は、つないでいた私の手を放して、こちらも私に優雅に一礼してきた。はうっ! 何してんのよ!
国王陛下が厳かにお言葉を述べられた。
「二百二年振りの聖女の降臨、まことにめでたい」
「……はっ???」
「我が国に聖女が降臨いたしたこと、心より感謝申し上げる。
我が国は貴方の身の安全を保証し、貴方の価値を敬うことをお約束する。今後ともこの国のためにご助力を賜るよう、お願い申し上げる。
聖女の清浄なる光にて、この国に暮らす民の平穏と幸福をお導き下さいますよう」
「はい? ええ? ……はあ?」
「聖女セレフィ、我が国に祝福を」
……おーい。もしもーし。
誰か教えて。
ねえ、この豪華な衣装着た金髪のおっさん、何言ってんだ?
不敬に当たらないようにとか慇懃にせねばとか、そういうのの一切が私の中で蒸発していた。うっかりぽかんと口を開いて王様を見返してしまった。もう少し理解できる言葉で喋ってくれや。
ルドルフ殿下が私の限界を悟ったのか、こそっと耳打ちしてきた。
めちゃくちゃ笑いをこらえている気配がするのは、気のせいだろうか。この場を百パーセント楽しんでいるのは、ルドルフ殿下だけだろう。真面目くさった顔が、崩壊寸前ですよ、殿下。
殿下に言いたいことはたくさんあるが、テンパっている私は余計なことなどできなかった。何も考えず、ただ殿下の言われた言葉をそのまま口にした。
「しゅぷ……祝福あれ」
めっちゃ、噛んだ。
とたんに偉そうな貴族のおっさんたちが一斉に跪いて頭を垂れた。
謁見の間と思しき空間で、偉そうなおっさんたちの後頭部を見る。しかもすんごい数の後頭部を見せつけられる。
もうここまできたら、完全に思考を停止するしかないじゃん。
私は白目を剥いたまま、黙ってそれを眺めるふりをしていた。
◇ ◇ ◇
豪勢で広い、王宮のルドルフ第四王子殿下の私室にて。
私は笑い上戸に陥ったルドルフ殿下の、笑いが治まるのを待っていた。殿下はソファに蹲ってずっと笑っている。時々苦しそうな声が漏れている。
その傍らに座らせてもらいながら、私はやはり戸惑いまくっていた。
ただの魔力調整係に、お茶とお菓子が提供されていた。侍女さんが当然の顔して二人分のお茶の用意をしてくれたのだ。
侍女さんって言っても、ルドルフ殿下お付きの侍女だからね。ほぼ確実に貴族のご令嬢だ。行儀見習いで王宮に上がっていらっしゃる、身分の高い方たちだ。実際に、かつて王宮で殿下の魔力調整してた頃は、私は侍女さんたちから、かなりぞんざいに扱われていた。
そんな方々に丁寧にお茶をいれてもらうなんて……はうっ。
しかも、このお茶を飲んでいいらしいのだが、綺麗な模様の入った薄い茶器なんてどうやって触っていいかわかんない。何かが層になって粉砂糖かかってるお菓子なんて食べ方がわからない。あれは手で持っていいのか? 掴んでバクってやるのが正解なのか? たぶんだけど、そんなことしたら部屋中から軽蔑の視線がやってくる。誰か、王都みやげ定番の、王都まんじゅう用意してくれないか。
そう、なんだか人はたくさんいるのだ。殿下の私室には殿下の護衛さんたちと、侍女さんたちがいる。さらに私の護衛だと名乗る、配属先を失敗してしまったと思しき残念なお兄さん達が何人かいる。そんな大人数が壁にズラっと並んで、私たちを注視しないようにしながら存在していた。
落ち着かないことこの上ないし、頼みの殿下は笑いっぱなしだ。
でも、さすがにもうよくないか。何がツボにハマったか知らないが、そろそろ状況を説明してくれ。
私は恐る恐るルドルフ殿下の肩をつついてみた。笑いすぎて涙目の殿下が私を見た。潤んだロイヤルブルーの瞳がお美しいですよ。夜空の星の瞬きのごとしですよ、殿下。でもまずは、とにかくこの状況の説明を!
ルドルフ殿下は涙を拭いながら、もう片方の手をひと振りした。この場の護衛筆頭以外は下がれ、というハンドサインだ。
侍女さんたちと護衛さんたちが、丁寧に一礼して退室していく。私もいつもの癖で退こうとして、すぐさま殿下にとっ捕まった。ぐいっと腕を掴まれて隣に座らされる。やだ、私残るの?
残ったのはヴィクターさんと、私の護衛筆頭にさせられた運の悪いお兄さんと、私だけだった。
ルドルフ殿下はいつもの麗しい笑みを浮かべて、私に声をかけてきた。
「聖女セレフィ」
「なんすかそれ。いい加減やめてください」
「やめようにもね、君は聖女になっちゃったからね」
「だからそれがよく分かんないんだって。殿下、何かしらの計略、ぶっ込みましたよね」
「そう思う?」
「思います。絶対殿下の策略です。
もしかして、魔法局の開発部に働きかけて、さっきの偉い人たちが頭おかしくなって私にお辞儀しちゃう魔法でも開発しました?」
私の言葉にルドルフ殿下は言葉を失った。そのまま下を向いて声を殺して笑っている。また殿下の笑いのツボを押してしまったようだ。
私の護衛筆頭だと名乗らされているお兄さんは、私とルドルフ殿下の会話に目を見張っていた。あまりに私が不敬だからだろう。私とルドルフ殿下の事情は説明されていたが、実状は説明されていなかったらしい。王族相手にこんなぞんざいな口調で話している、私がおかしいのだ。
ヴィクターさんがお兄さんに何やらこそっと耳打ちしている。お兄さんの表情がみるみる険しくなっていっている。おそらくだけどヴィクターさん、今、余計なこと言ったよな。
泣き笑いのルドルフ殿下は、私に魔法の杖のありかを聞いてきた。
お城に入る前に衛兵さんに預ける決まりなのでそう言うと、殿下は頷いた。
「今頃魔法局長が、大喜びで鑑定をしてるんだろうな」
「あの杖ですか? なんのために?」
「結果を出した杖だからね。今頃セレフィの魔力で満たされているだろう。
聖なる魔力で満たすことにより杖を持ち主の支配下におく。そういう効果が付与されていたようだし」
「んんん? どういうこと?」
「だってあの杖、聖女アニエスが使っていた魔法の杖だからね」
「……は?」
「セレフィもあの杖のコントロール、難しかっただろう。三百年前から、聖女アニエスしか使えないとされてきた杖だから」
さらりと聞きなれない単語が混じっていた気がする。
ルドルフ殿下は、おごそかで穏やかな表情を浮かべて、私を見返した。
どう見ても、ずっと裏で糸を引いていた悪い男の顔には見えなかった。
「聖女アニエスの……なんだって?」
「あの杖は、三百年前に聖女アニエスが実際に使っていた、魔法の杖だから」
「は? はあ? はああああ???」
「聖女アニエスしか使えない魔法の杖を、使いこなした現代の聖女。
それが、聖女セレフィ。聖女のご降臨」
……何だって?
昔の聖女が、実際に使っていた魔法の杖?
聖女アニエスしか使えない、魔法の杖って言ったの?
そんな、貴重でレアな価値のある魔法の杖を、ただの魔法学校生でしかない私に渡していた、ってか。
ルドルフ殿下。
……なんつーもん、ぶっこんできたんだよ!
私の衝撃が伝わったんだろうか。
ルドルフ殿下はそれはそれはお優しい表情のまま、にっこりとお笑いになられた。
聖女アニエスの杖も、魔族由来の杖です。なので人一倍魔力を吸い取ります。出力が高いので悪用されることのないように、聖女アニエス本人しか使用できない加護が付与されていましたが、経年劣化で使用者と似た魔力であるせレフィも扱えるようになった……なんて設定です。
本編で書ききれない設定ってありますよね。書き込んじゃうと、本編の方が重たくなっちゃって。




