表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤンデレ王子に命令されて、悪役令嬢を魔改造してみた  作者: 工藤 でん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/22

19.格好をつける

私が新たに魔法を重ねようと、魔法の杖を構えなおした時だ。


目の前に淡い金髪が割り込んできた。私の顔より高い位置から、軽やかな魔法詠唱が聞こえてくる。私を背に庇って、優美に魔法の杖が振られた。


水の檻(ウォーターケージ)


 大量の水が螺旋を描くようにケルベロスを飲み込み、その黒い巨体を覆いつくした。球状になった水の中に、ケルベロスが閉じ込められていく。三つの頭が苦しげにのたうっていた。


 ルドルフ殿下だ。

 ルドルフ殿下の水魔法だ。殿下のここまでの巨大魔法を見るのは初めてのことだ。この質量の水を操るなんて、さすがの魔力です、殿下。


「セレフィ、これはどうなっている?」

「殿下こそ、なんでここに」

「君がエリザベス姫と喧嘩していると連絡が来たら、私が止めに行くしかないだろう」

「言われてみれば」

「今はそんな軽口叩いている場合じゃないと思うけど?」


 お綺麗な顔をさらしながら、ルドルフ殿下は水球を大きくしていく。さらに質量を増やしていくなんて、どんだけ強い魔法だよ。

私の放つ身体拘束魔法への抵抗が弱くなっていく。殿下の水の檻(ウォーターケージ)が私の拘束魔法より効果があるんだ。私の負担を減らすための魔法ですか、殿下。

 くそ、かっこいいな。


 殿下は私に向けて片頬を上げた。


「聖女アニエスが、魔物を封印した箇所に噴水を設置したんだ。水に意味がないわけがないだろう」

「ケルベロスは水が弱点ってことですか」

「弱点とまでは言い切れないが、得意ではなさそうだな。

 セレフィ、状況説明」

「エリザベス姫様の魔法の杖が暴走しました。姫様の意思に反して魔力弾を乱発し、姫様の手を離れた後、そのまま空を切り聖女像に刺さりました。聖女像が壊れた途端、黒いモヤが出初めて」

「聖女アニエスの封印が解かれたのか。エリザベス姫の杖にも何かあるだろうな」


離れた場所で、エリザベス姫様が青ざめた顔をしているのが見えた。殿下の読み通りのようだ。

かたわらでマリアガさんが杖を構えているのも見えた。エリザベス姫様を守るつもりだ。他に姫様の護衛さんもいるけど、マリアガさんの意思が頼もしい。


 くっと、ルドルフ殿下の表情がゆがんだ。ケルベロスが聖女像から下半身を引きずり出し、全身を表したところだった。モヤを纏っているが、身体は完全に具現化している。三つの黒い犬の頭がこちらにむけて威嚇してきた。ライオンの身体は油断なく殿下に向き、たてがみの蛇は鎌首をもたげ、長い竜の尾は何度も己を囲む水の膜に向けて叩き下ろされていた。大きい、長い尾まで含めば庶民の家一軒分くらいある獣である。

 その巨体が聖女アニエスの封印から解き放たれ、殿下の魔法一つで抑えられているのだ。殿下の負担は相当だろう。


 眉をひそめて魔法を維持する殿下を見て、私は必死に考えた。殿下だってずっと魔法を放ち続けることはできない。どんなサポートをすれば殿下の役に立つのか。殿下の手助けになるのか。考えないと。何とかしないと。

私は手に馴染んだ古い魔法の杖を握りなおした。

早く殿下をお助けしないと!


 殿下の負担をなくすにはどうしたらいい。殿下の魔法はケルベロスを抑えつけているだけで、ダメージを与えているわけではない。魔力過多症とは言え、これだけ大規模な魔法を維持するのは不可能だ。そして、殿下の魔力が途切れた途端、ケルベロスが襲いかかるのはルドルフ殿下だ。あいつはすでに殿下を敵として認識し、殿下に狙いを定めている。殿下から目を逸らしていない。

 

 どうしたらいいんだ。

 ケルベロスの弱点。水は苦手みたいだけど、行動を阻害するくらいでダメージを与えられるわけではない。誰か他の人に水魔法を重ねて撃ってもらっても、おそらく意味がない。

 ケルベロスが火炎放射ができるなら、火魔法も無効。

 同様に毒も効かない。

 氷結魔法は……水から解き放たれて襲いかかってきそうだし。土魔法・風魔法は殿下の水の檻(ウォーターケージ)があっては効果が半減だ。

 いろんな属性の魔法を考えたけど、今有効な魔法が分からない。


 じゃあ、三百年前の聖女アニエスは、どうやって魔族を撃退したんだ。ケルベロスだって封印できてた。どんな手段で魔族を攻撃した。なんの力を使ったんだ。そんな大事なことは魔法史ではやってなかった。授業で聞いたことがない。そこは具体的に伝えとけよ、昔の偉い人!

 聖女の力ってなんだ。聖女だって魔法使いみたいなもんでしょう? 聖女の魔法って何なんだ。

 

 焦った私は、手にした魔法の杖を落としかけた。

 ……が、杖は手に張り付いたまま。私の手にへばりついていた。さっきのエリザベス姫様の杖みたいだ。

 なんだこの杖。だけど手に馴染んだ感覚は確かだ。私は長く、この感触を知っている。それなりにこの杖を信頼している。

 自分の手に張り付いた魔法の杖を、私は呆然と見つめた。


 殿下のくれた私の古ぼけた魔法の杖は、なんだか光っているように見えた。やわらかなアイボリーの、まぶしくない、優しい光だ。なんだかその光に見覚えがある。

 回復魔法を使うとき、アンデッドに対しての攻撃の時、同じような光を杖が発していた気がする。感覚的なもので、本当は光ってないのかもしれないが、私にはそう見える。

魔法の杖が意思を持っているかのように、ぶるりと震えた。

 


 魔族の倒し方なら、(わたし)が知っている。



 杖が私に命じてくる。魔法の杖がルドルフ殿下の傍に寄れという。


私は殿下の傍に寄り添って、殿下の水魔法を維持し続けている杖と、自分の杖を重ねた。驚く殿下に「しっ!」って言って黙らせて、私は魔法の杖に魔力を乗せる。

殿下は訳が分からないまま、二本の杖と私の手を握り込んでくれた。大喜びで魔力を食らう魔法の杖に、私は働けと念じた。そうだ、私の言うことを聞かないこの杖は、とんでもなく魔力食らいだ。ずっと空腹で機嫌が悪くて、コントロールできなかったのだ。

 たらふく魔力を食ったのなら、そのぶんちゃんと仕事してよね。


 わかってるよね。魔法の杖(あんた)の言う通りやってやるから。

殿下の水魔法、その水を――水の質を変えてやる。殿下の作ってくれた水の檻を利用して、ケルベロスへの攻撃に変えてやる。魔法の杖(あんた)がやりたいのは、そういうことでしょう!



聖水になれ(チェンジ・ホーリー)!」



 私はケルベロスを捕らえた水球に、聖なる魔法を注ぎ込んだ。水球の中の水を、聖水に変えてやるんだ。魔属性のケルベロスがただでさえ苦手な水の中、高濃度の聖水にさらされたらどうにもできまい。凄まじい水量だけど、全力でやってやる。聖なる力でねじ伏せてやる。早く弱れ、くたばれ。


 異変に気付いたケルベロスが暴れまくるのを、殿下は真剣な面持ちで制御していた。私だって必死だ。持てる魔力をガンガンつぎ込んで聖水化しているのに、ケルベロスはまだ大暴れしている。どんだけ耐久力あるのよ。

 くらりと魔力切れの感覚がした私を、ルドルフ殿下が支えた。


「顔、よこせ」


 珍しい殿下の焦った声がして、私は殿下に顔を向けた。後ろ頭を抑えつけられておでこがピタリとつけられた。殿下から、いつものように大量の魔力が送られてくる。あ、すごい魔力量。魔力が全身に巡る。気持ちいい。

 殿下がケルベロスから目を逸らさないまま、魔法の杖を握る私の手を強く掴んだ。その真剣な目はいつもの殿下じゃないみたい。なんだか、すごく……男の人。


「コントロールは私がする。セレフィは魔法を続けることに集中しろ」

「殿下……」

「魔力欠乏など起こさせない。私がいる。だから全力で放て」

「殿下のくせに……今日はなんで、おきれいじゃなくて、格好いいんですか」


 いつも、おきれいで麗しい人なのに。

 余裕があって落ち着いていて、慌てたり必死になったりするところなんて誰にも見せないのに。

 今日は男らしくて格好良くて、見ているとドキドキするくらい真剣で。同じルドルフ殿下とは思えないくらいだ。


 ルドルフ殿下は力を込めて額を寄せてきた。

 セレフィ、と聞き取れないくらいの小声が、私の耳に流れ込んできた。


「男はね、好きな女性の前では恰好つけたがるものだよ」

「で、でんか……!」

「特に、本気で惚れた女性が、とてつもなくいい女に見えたときにはね」

「……それって」

「やれ、セレフィ。反論は許さない」



 ……好きな女性。

 好きな女。


 わあ……。

 わあ。

 わ――――――!!!

 ……私、のことですか???


 ルドルフ殿下が好きなのは、私!!!

 殿下の今までの、おかしないたずらやちょっかいが、からかいじゃなくて本気の行動だったってこと。

全部好きから行われた、アレでナニってわけ??


 抱きしめられたり髪をなでられたり、キ、キスとかされたから、うっすらそんな気も、しないでもないかもしれないけど、そうかなあ、ってことにしてたんけど。

もやもやっ、とさせてたのに。ふんわり流していたのに。


 今言うか――――今なのか?

 すべては気付かないふりをし続けた私のせいなのか? もっと他にいいシチュエーションはなかったのか???

ていうか、好きって。ルドルフ殿下が、好きって。本気で惚れたって……ぎゃ―――――!!!


 衝撃でぶっ飛んだ脳のせいだろう。

 私は今までにない最大出力で、聖魔法をぶっ放していた。

 

 



ようやく殿下に、好き、と言わせました。

高貴な方は、奥ゆかしくあらせられていて。

さっさと言えよコノヤロウ!という私の懇願をはねつけて、ようやくだよコノヤロウ……ジレジレだったぜコノヤロウ……

たまたまなんだけど。投稿日がバレンタインデーだったぜ、コノヤロウ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
──魔力欠乏など起こさせない。私がいる。── イヤ~!殿下、カッコイイ!! 普段ちょっといじわるでセレフィちゃんを翻弄してるのに、ここぞという所で頼りがいのある男らしさを見せるとは! 更にはここで告…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ