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ヤンデレ王子に命令されて、悪役令嬢を魔改造してみた  作者: 工藤 でん


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15.魔法制御

同盟国の第三王女、エリザベス・フローレン・ディア・ルイス・リュクスブルク殿下は、小さなマリアガさんのような方だった。見かけからして、緩い癖のある赤毛に濃いめの緑色の瞳で、ルドルフ殿下の肩にも届かないほどの身長なため、コンパクトなマリアガさんに見える。

ルドルフ殿下を、きらっきらな顔して見上げてる姿も、マリアガさんのようだった。


ルドルフ殿下は公務用の穏やかな笑顔を貼り付けて校内を案内しているため、どのような心境でいらっしゃるかはわからない。遠目で見る分には、お仕事モードの殿下はスマートで隙がないなあ、くらいのものだったのだが。


なぜだか、私は早々に殿下に呼びつけられてしまった。授業中だってのに、ヴィクターさんが呼びつけに現れたのだ。殿下に急な魔力過多の症状でも出たかと思いきや。



「姫様、魔力を制御する教育を受けてない?!」


ソファでぐったりしているルドルフ殿下の手を取りながら、私は叫んだ。殿下はちょっと血の気が引いていて青白かった。魔力過多の起こりかけによく見られる顔だ。


ヴィクターさんが苦々しげに説明をしてくれた。


「もともとエリザベス姫の魔力値は高い。魔力値の高い人間は、周囲に魔力を撒き散らさないよう、幼い頃から訓練をするものだが」

「そうですよね。私も怒られて育ちましたよ。魔力が漏れると棚のものが勝手に落ちたり、ロウソクの火が急に強くなったり、家中がパキパキ鳴ったりしますから。セレフィ魔力!って何度も怒鳴られましたね」

「我が国は魔法使いの多い国で、魔力の強い子供もそれなりに見かける。だから魔力の強い子供に魔力を制御する術を教えることは当然のことなのだが」

「エリザベス姫様のお国は、あまり魔法は盛んではない?」

「あの国は、大昔は魔法使いへの弾圧があったような国だ。今ではさほど偏見もなくなっているようだが」

「王族で、あれほど強い魔力を持って生まれてきたのは、初めての事らしいな」


ルドルフ殿下が会話に入ってきた。まだ調子は完全には戻っていない様子だ。

気だるげな様子が大変色っぽい。衝動的に押し倒したくなるような雰囲気、と言ったら伝わるだろうか。免疫のない人が見てはいけないお姿である。お色気殿下を目にして本能のままに行動を起こした日には、ヴィクターさんに容赦なく切り捨てられるか、不敬罪で即刻牢獄行きになってしまうだろう。


 そんな色気むんむんの様子に反して、殿下の内部は魔力が暴れてしんどい状態になっているはずだ。色気を振りまいているのは不可抗力だ。殿下のせいではない。ムラっ、とかしてる場合ではない。

 人目がなければ、おでこペタンしてさし上げたいよ。


「王族の教育に、魔力制御の項目がそもそもないんだろう。それゆえに魔力をダダ漏らしながら今まで生きてきたと」

「周りは迷惑だったでしょうね」

「エリザベス姫の幼少期の苦労話が始まったあたりで、私の体に限界がきた」

「……姫様の溢れ出た魔力を、取り込んでしまいましたね」

「魔法使いの身体はやっかいだな。魔力欠乏を起こさないよう、自然界の魔力を吸収するようにできている。私には必要ないというのに」


ルドルフ殿下は過剰な魔力を貯蔵する器官の弱い、魔力過多症だ。余分な魔力は殿下の身体を痛めつける。ただでさえ魔力過多で困っているのに、魔力のダダ漏れた人のそばにいると、漏れた魔力を吸収して魔力過多症を発症してしまう。

なんて殿下と相性の悪い姫様なんだ……。


「殿下による魔法学校案内は、遠慮させてもらってはどうですか」

「すぐに申し立てたが、エリザベス姫サイドから却下の返答があった」

「そんな、無茶な」

「魔法使いの王族同士でなければ、語り合えない事があるのだと」

「殿下、そんなもんあります?」

「私には無い」

「無いんじゃん。ヴィクターさん、速攻断ってきてください」

「できるなら、とっくにそうしてる」


ヴィクターさんが苦々しい面持ちでそっぽを向いた。姫様から「ルドルフ王子じゃなきゃ、絶対だめ!」くらい言われてそうだ。ミニ・マリアガさんなら言いそうだもん。


「殿下、もうちょっとブサイクに生まれてきてくれれば、こんなことにはならなかったのにね」

「セレフィ、君ね……」

「……ルドルフ殿下、今すぐセレフィを手討ちにすることをお許しください」

「職務に忠実な上での発言だとは思うけど。

 ヴィクターはすぐにカッとなるの、抑えようね。

セレフィは自分の言動には責任を持ってね」

「「 すいません…… 」」

「仲良いよね、君たち」

「良くないです! 私はヴィクターさんがちゃんと性格悪いこと知ってますし!」

「自分は面食いですし!」


私とヴィクターさんはガチンコで睨み合った。誰が性格悪いだこのやろうV.S.メンクイのお眼鏡に叶う顔じゃなくて悪かったなこのやろう、である。殿下の呆れたような視線でお互い引き下がったが。


ルドルフ殿下がさりげなく私の手を握り直した。指を絡めた恋人繋ぎにしてくる。皮膚が接する面積が多くなるので魔力も多く流れるけど……微妙に恥ずかしいのはなんだかな。これも殿下の質の悪いイタズラのひとつだよな。


ヴィクターさんが気を取り直すように咳払いをした。


「殿下と姫様の接触を控える対策として、女子目線からの魔法学校案内に切り替えることにした」

「なんすか、女子目線て」

「女子生徒として魔法学校を過ごすリアルを、女子生徒からお伝えする。

 今のままでは殿下は半日耐えられないからな。もちろん魔力を制御する方法を姫様にもお伝えしていくつもりだが」

「そうしてください」

「その女子の案内係で名前が上がったのが、マリアガルテ公爵令嬢だ」

「マリアガさん?!」


ヴィクターさんは黙って頷いた。


「エリザベス姫を前にして、礼儀正しく振る舞える、最適な人物と判断されたんだ」

「……マリアガさん、実はちゃんとした公爵令嬢ですもんね」

「午前中はマリアガルテ公爵令嬢について校内を案内してもらい、午後はルドルフ殿下との魔法談義とする。魔法談義の際は、殿下の負担を考え、セレフィも同席してほしい」

「わかりました」

「なんだかんだでセレフィもエリザベス姫と接する機会があるかと思われる。

いいか、くれぐれも。くれぐれも、粗相のないように」

「分かってますって」


ヴィクターさんはギラりと私を睨みつけてきた。私の鼻先に指を突きつける。まったく私を信用していない様子だった。


「お前の分かってるほど、信ぴょう性に欠ける言葉はない。お前、根本的に無礼でできているからな。

できるだけ姫としゃべるなよ。何か聞かれたら『別の者がお答えします』って言って逃げろよ。間違っても庶民丸出しで、スラスラと非礼ワードてんこ盛りでしゃべるんじゃないぞ」

「当たり前じゃないですか。私を誰だと思ってるんですか」

「俺の脳内で、無礼討ちした回数二桁を超えるセレフィだ」

「私、十回以上ヴィクターさんに殺されてるの?」

「二十回以上だ、バカめが」

「殿下、ヴィクターさんて、性格悪くないですか」


ルドルフ殿下は片手で額を覆って震えていた。淡い金髪が小刻みに揺れている。堪えた笑いが震えに出ていた。笑ってんじゃん!

くそう、めっちゃウケてる。私がやらかすと思ってるな。


殿下の様子を見て、ヴィクターさんが再び咳払いした。素を見せすぎたと思ったのだろう。殿下の前では猫被ってるからな。


「予定が大幅に変更となる。

だからセレフィ。明日から朝はいつも通りでいい。午後からのエリザベス姫さまとの談話により、魔力譲渡に時間がかかる恐れがある。だから帰りの方が遅くなると思ってくれ」

「はあい」

「夕食は私と取っていくか」


にこりと優雅な笑みを刻むルドルフ殿下。この麗しの殿下のお誘いを、どうやってお断りすればいいのだろう。殿下とディナーするなんてマリアガさんにバレたら、グーパン事案に発展するよね。


しかもヴィクターさんに、私は無礼でできてるとか、非礼ワードてんこ盛りとか言われてるのにさ。私みたいな礼儀のなってない人間が、殿下とディナーを共にするなど……


「私の夕食には、必ずフルーツとデザートがつくのだが」

「ほんと、依怙贔屓ひどいよな、魔法学校! デザートってどういうことだ。おばちゃんたちデザートなんて作れるのかよ?! そんな技術すら諦めてたわ! 作れるんならこっちにも作って寄越せってんだ!」

「セレフィも食べる?」

「食べる!!」


……またもや殿下の買収工作に、まんまと引っかかった私であった。


激しい依怙贔屓が発覚!

おばちゃん、デザートは何作ってんの?

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