14.お姫様の学校案内
ぬるっと、タイトル変更しました。ほんのちょっと削っただけですが。
毎週土曜日、八時に予約投稿しています。九話の予定。よろしくお願いします!
同盟国の第三王女、エリザベス・フローレン・ディア・ルイス・リュクスブルク殿下が魔法学校の見学にいらっしゃる。
そう言われたのは、ルドルフ殿下の執務室だ。
呼び出された私が執務室に入ると、執務机にいる殿下は先日魔法局から教わってきた魔力凝固の技術を使って、造花を作っていた。
造花と言っても安っぽい紙細工のようなものじゃない。殿下が作っているのは、透き通った氷のように透明な素材感で、本物の花のような繊細なタッチで作り上げていく美術品みたいなものである。しかもガラスと違って非常に丈夫で弾力性すらある。殿下のこの魔力造形の技術は高く、工芸品として売りに出せば非常に高値の価格が付くそうだ。本人は余った魔力を使っての娯楽みたいにとらえているけど。
「セレフィ、女の子は花をもらうと喜ぶというのは本当かい」
「私はどちらかというと、王都名物の王都まんじゅうの方がうれしいですね。花はどうやったって、食えないじゃないですか」
「……きっと私は聞く相手を間違ったのだろうね」
「そうですね。女子としての一般論を私に求められても困ります。
そういうのはマリアガさんが担当でしょう」
ルドルフ殿下は軽く眉をしかめた。
あんなに改造したってのに、殿下はまだマリアガさんのことが苦手なようだった。
マリアガさん、かわいらしい女の子っぽい女子に仕上ったのにな。
マリアガさんは今では魔法学校のクラスにもかなり馴染んでいる。それどころか、一定の女子たちの中心人物だ。休み時間は主に恋バナで盛り上がり、男子のこれが良い悪いだの、女子としてはこんな努力をすべきだの、平民貴族入り混じった集団できゃあきゃあしている。そばにいても、私は入れない集団である。
ルドルフ殿下は何本か完成していた造花を無造作に束ねて、大きめの白いリボンで結んだ。無造作に束ねてたくせに絶妙なバランスの美しいブーケが出来上がった。美的センスが半端ないな。
「陛下に頼まれて作ったんだけど。エリザベス姫へ、今日の歓迎式典の時に渡すらしいよ。女の子はこんなもので喜ぶの?」
「私としては、このブーケの時価総額の方が気になりますが」
「こんな、原料費タダ同然のもの渡して、失礼に当たらないのかな」
「売ればそれなりの資産ですよ、殿下」
「たかだか私の魔力なのにね」
魔力過多症のルドルフ殿下は自分の魔力に悩まされている。それゆえに自分の魔力で作った造形物に全く価値を感じていない。まあ、気持ちも分からなくはないが。
「魔力造形を始めてから、殿下は魔力をよく使うようになって体調は楽になったでしょ。ありがたいことじゃないですか」
「私にはセレフィがいるから、そこまでガツガツ作るつもりはないけど。
ところでね、エリザベス姫がこの学校の見学を希望されているんだ。私が案内することになったのだが」
「なんでまた、魔法学校の見学なんて」
「エリザベス姫自身が、豊富な魔力の持ち主らしいね。私と違って魔力貯蔵もしっかりとできる。ゆくゆくは、かの国の魔法機関を束ねる立場につけたいんじゃないのかな。
そこで、きちんと魔法を学べる場所を探し始めたんだろう。我が国の魔法技術は近隣諸国の中ではトップクラスだからね」
我が国は魔法技術の応用については、群を抜いて最先端にいる。元々魔法使いの待遇が悪くなかった歴史がある。そのために魔法使いの人口も他国に比べて多いせいだろう。
だから、その基礎を学べる魔法学校も注目されているということか。
「王族を案内するから、王族の殿下は適任ってことですね」
「別に学長でよかったんだけどね。私が王族の身でありながら魔法学校に在籍しているという噂は、諸国にも流れているみたいで」
「変わり者な王族ってことですね」
「……セレフィ、ヴィクターが睨んでくるから、もう少し口を慎みなさい」
「すいません。
でも、あれでしょ。殿下の顔を見てからの、学校案内はぜひルドルフ王子に、とかいう流れじゃないんですか」
「うーん」
「エリザベス姫様はいくつ……十一歳ですね。残酷なまでに男を顔で選ぶ、美意識走り始めの年頃ですね」
「……セレフィのそういう知識はどこから来てるの」
「マリアガさんです」
正確にはマリアガさんとその周辺の人々の雑談からです。
殿下はげっそりとした顔をなされた。げっそりしたってお美しいが。
「ものすごく、やりたくなくなってきた」
「公務ですよー、殿下。
じゃあ、エリザベス姫は来年以降、ここに留学してくるかもしれないということですか」
「可能性はあるが。この国の魔法学校は独特の雰囲気があるから、合わないようなら辞退されるんじゃないかな」
「『魔法の下において我らが生徒は平等である』ですね。殿下は特別扱いされているとはいえ、最低限の扱いですもんね。体調さえよければダンジョンだって生徒みんなと潜るし」
「意外と楽しいものだよ。
ただ、王族の誰もがそうとは限らないからね」
王族の方々は気位が高くなるように育てられてしまう。国の権威と威信を担う人たちなんだから当然だ。
ルドルフ殿下がかなり気さくだから私もこんな態度で許されているのである。本来なら私なんか不敬罪で、二桁以上は首ちょんぱされているはずだ。本当に気をつけなければいけない。
「とりあえず、予定では明日から一週間。私はエリザベス姫と共に過ごすことになると思う」
「はい」
「場合によっては説明の延長や追加が入るかもしれないから、今のように授業終了後の、夕方の魔力譲渡が予定通りにいかない可能性がある。なのでセレフィには朝早めに、ここに来てほしいんだが」
「朝早く! ただでさえ忙しいってのに、女子寮から男子寮へ朝からダッシュして来いと」
「……セレフィ」
護衛のヴィクターさんの低い声がした。
剣をいじるガチャリとした音がした。
わかったよ不敬だってんでしょ。魔力譲渡は私の仕事なんだから、文句言うなってことだよね。わかったから、剣とかいじらないでよ、おっかない。
ルドルフ殿下がくすりと笑われた。
「セレフィには申し訳ないから、朝食はここで私と取ることにしよう」
「うえー、殿下と一緒に朝ごはんですか! マリアガさんとかにバレたら怒られるやつじゃないですか」
「一週間なんだから、バレないようにね」
「まあ、朝飯を食いそびれることがないのはありがたいのですが。
明日から早起きかあ。何時起きだろ」
殿下はさらにクスクス笑われた。
「セレフィは、私の魔法属性は知ってたか?」
「殿下は水と氷ですよね。しかもめっちゃ強いやつ」
「魔法薬学的に、水魔法に適した食べ物は魚介類と言われているが、もう一つある。知ってる?」
「うわあ、座学でやるやつぅ。えーと、なんだっけ」
「水分の多い果物を取るといい。ということで、寮母が気を使ってか、私の朝食には必ず果物がついてくるのだが」
「マジか! 果物なんてついてきたことないよ!
なんだよ、殿下。平等なふりしてちゃんと依怙贔屓されてんじゃん!」
「セレフィ、果物好き?」
「めっちゃ好き!」
「いる?」
「いります!」
買収成功、と殿下は機嫌よく小粒の魔石を手にした。
殿下は魔石を媒体にして、魔力を凝固させ造形物を作っていくのだ。殿下の手の中で透明な塊が生まれて、それがみるみる複雑な形に変えられていく。
出来上がったのは、小ぶりなバラだ。透明なのに花弁だけがほんのり赤く染っている。
すごーい、綺麗。小さくて可憐で、とても繊細な細工の小物。これって色までつけられるの? 殿下すごいなあ、器用。
これはおまけ、とその透明で小さな魔力のお花を、殿下は私に渡してくれた。
心底うれしそうな殿下の笑顔が、目に沁みる。姫様の学校案内は嫌そうだったのに、私を買収するのはなんでそんなにうれしそうなんだ。変わってるよね、殿下。
「ではセレフィ。明日から頼むね」
買収されたせレフィwww
細かく書けなかったのですが、殿下の作る魔法造形はそれなりに高額になります。芸術作品でもありますが、魔力の塊ですので魔道具の動力としても利用可能。後に各国への贈答品として重宝されていきます。
セレフィがもらった色つきの造形物は、さらに高額。作れる職人が数人しかいないのです。ひとつでもそれなりの資産になります。
セレフィは気づいてないけどね!
なんていう、裏設定でした。




