13.敬意を表する
魔法学校男子寮、ルドルフ第四王子殿下の私室にて。
無事、魔法の杖を取り戻した私は、マリアガさんと共にルドルフ殿下の前に立っていた。
丁寧にお辞儀しているマリアガさんの隣で、私はドヤッと杖を掲げてみせた。ほら見て! 杖、帰ってきたんだから!
得意げな私を見て思わず吹き出す殿下の声と共に、部屋の温度がどんどん上がっていく。殿下、笑いの沸点は低い方なので、こんな時ありがたいものである。
護衛の皆さん、お待たせしました。無事ですか? 鍛え上げているとはいえこの寒さはきつかったですね! みんな顔白いもんね!
のどの奥でくつくつ笑っている殿下に、私は事の次第を報告した。
杖を発見した管理用務員さんのところに行って魔法力学の先生のところに行って。学長のところ行ったら魔法局に送ったと言われ、馬車でもって魔法局へ行ったら、私の魔法の杖を前に、有識者会議が行われていたこと。なんだかすごく長い旅だった気がするよ。
終始楽しそうに話を聞いている殿下に、私はちょっとイラっとした。こっちはすごく大変だったんだからな。分かってないよなあ。
チロリとトゲを刺してやる。
「ところで殿下。この杖ってかなりヤバい杖なんじゃないですか」
「どうして?」
「魔法力学の先生も、学長も、すごい珍しい素材でできてるって言ってたし。魔法局に至っては偉い人集めて会議始まってるし」
「そうだね」
「殿下から説明は何もなかったですよね。
いったい、なんつーもん持たせてくれてんですか。今すぐお返ししたいんですけど」
「ダメ。私がセレフィに向いてると思った杖だから」
「だってこれ、どっちかっていうと学術的でお宝的な杖でしょう? 博物館で保管するクラスとか言われましたよ」
「そうなんだ」
「で、どっから持ってきた杖なんですか。ちゃんと元ある場所に返してきなさい」
「嫌だね。ちゃんと裏工作してバレないようにしてるんだから。魔法局が誤魔化されたのなら、あとはなんとかなるって」
「分かってますか? 綺麗な顔して、今めちゃくちゃ王族らしくないこと口走ってますからね、殿下!」
あはははと殿下が声を上げて笑っている。珍しい光景だ。
マリアガさんなんかポーっと見惚れちゃっている。素で怒った殿下も珍しいが、素で笑っている殿下もそう見られない。そんで、笑顔の破壊力がすごいのだ。美しすぎる笑顔は本当に目が離せなくなる。全部持っていかれる。なんなら背後の護衛さんたちも今現在持っていかれてる。殿下、恐ろしい顔面だ。
そうだ。まだ報告がある。
私はマリアガさんの腕にぎゅっと抱き着いた。マリアガさんは会議室での功労者だ。
我に返ったマリアガさんが、驚いて私を見返してきた。ちゃんとマリアガさんが活躍したことも、殿下に話しておかなきゃ。
「魔法局で杖を取り戻せたのは、マリアガさんのおかげなんですよ」
「そんな、あたくしは……」
「魔法局では、いきなり偉い人たちの前に出されてしまったんです。私は委縮して全然話せなかったんですけど。
マリアガさんは社交界っていうんですか、パーティとかで慣れてるでしょ。偉い人と堂々と渡り合っていました」
「へえ」
「魔法局の調べで、これがすごい杖だってことになってしまって。こんなすごい杖を誰からもらったんだって追及されたときに、マリアガさんがうまいこと流してくれました。だから、殿下の名前は出てません」
「そうか」
「そりゃあもう、見事なものでした。魔法局の偉い人達から一言も言葉出ませんでしたから。マリアガさん、すっごい格好良かったです」
マリアガさんは恥じ入って俯いてしまった。やだもう、かわいいわあ。どこからどこまでも女の子らしいんだから。
わかるかな殿下、このかわいさ。
あの悪役令嬢をここまでかわいくした私の手腕をほめてほしい。悪役令嬢の改造、成功ってことでいいよね?
ルドルフ殿下はすっと立ち上がって、マリアガさんの前に立った。スラリとした殿下と女の子らしいマリアガさん。傍から見てるととてもお似合いだ。
殿下はそのままマリアガさんの細い手を取ると、にっこりと微笑みかけた。輝かんばかりの神々しいお顔で。
「マリアガルテ嬢、自分の失態を自分で挽回したあなたに、敬意を表する。
セレフィを助けてくれてありがとう」
「ルドルフ殿下……!」
「今後ともセレフィと仲良くしてやってほしい。
今日は疲れただろう。帰ってゆっくり休むといい」
「……はい」
「セレフィは残れ。魔力の取り込みを頼む」
「承知しました」
ルドルフ殿下の、真正面にっこり爆弾を食らってぼんやりしているマリアガさんを、護衛さんの一人に託した。無事家まで送り届けてほしい。マリアガさんは、あのぼんやりが解けた瞬間に、狂喜的な感情爆発がやってくると思う。なるべく見ないでやってほしい。
殿下の指示で護衛さんたちも交代で休憩に入ることになった。なんせ緊張感のある数時間だったから。ぜひ温かいもでも食べて自分をいたわってほしいな。殿下のいないところで、殿下の愚痴を大いに語らってきてほしい。今日の護衛は大変だったね!
室内は、殿下の名指しでヴィクターさんが護衛に当たっている。ドアの近くでビシッと立っているヴィクターさん。最近よく見る光景だった。
他の護衛さんが出ていって、室内の護衛がヴィクターさんだけになったことを確認すると、殿下は座っているソファから私を呼んだ。呼ばれるままそばに寄ると、私はそのまま腕を引かれて殿下に向けて倒れこんでしまった。
おい、ちょっと。
文句を言う前に、ピタッと額が塞がれた。おでこペタンの魔力譲渡である。途端に流れ込む殿下の魔力。目の前には至近距離の、疲れた表情の殿下がいた。
それを見たヴィクターさんが、若干うろたえている。おでこペタンを護衛さんの前でやるのは初めてだ。
「殿下、これはいったい」
「ヴィクター、これは他言無用」
「あの、自分はいったい、何を見せつけられているのでしょうか」
「魔力供与だ。手でやるより額の方が効率がいい」
「そうなんですか。しかし、この状態は……」
「未婚の男女がやるなって話だろう。もう七年前に女官長からガミガミ言われてるよ。なあ、セレフィ」
「ガミガミされたのは私だけで、殿下は怒られてないじゃないですか」
殿下は大切にされすぎて怒られないんだから。箱入り王子め。
殿下は私の腰に手を回して、軽く抱きしめてきた。これは七年前にはなかった、最近の悪いイタズラだ。何か、一線越えてるやつだ。
殿下これは、めっ、ですよ!
「本当に、あの悪役令嬢どうにかしてやろうかと思った……」
「殿下、今までになくお怒りでしたね」
「あの杖が紛失したら、これまでの私の……まあ、戻ってきたからいいんだが」
「あのう殿下。もしかしてなんですけど。あの杖を使って、何かしらとんでもないことを企んでるん」
「なんでもない」
「食い気味の即答否定」
「とりあえず今日中に解決した事だし、不問には処すよ」
「あー、それはようございました」
マリアガさんが。
というか、ルドルフ殿下は気づいてないのかな。マリアガさんのかわいい変化に。
もう今日なんて、女の子女の子してて、かわいくてかわいくて。涙するところなんていじらしくて切なくてたまらん。恋する乙女は最強よねーと、私なんかは堪能していたんだけど。
「殿下、マリアガさん、いかがでした?」
「いかが、とは?」
「めちゃくちゃかわいくなったと思いません? すごーく、女の子らしくて。悪役令嬢というより、完全に恋する乙女」
「それは前からだろう」
「ちがーう。表面だけの好き♡じゃないんですよう。分かってないなー。
好きだからこその深い悲しみとか。好きだからこそのオノレからの脱却とか。もう今日のマリアガさんはそういうのの、オンパレードだったんですから」
「セレフィの杖を失くした傲慢で非道な、いつもの悪役令嬢だったが」
「殿下の視点がブレてない!」
いやまあ、確かに。マリアガさんがやらかさなければ、今日のバタバタはなかった訳だけど。
マリアガさんがたくさん成長した日では、あったんだけどなあ。
私はもぞもぞと身動ぎした。額が熱い。かなり魔力は取り込んでるし、もういいかなと。
「……殿下。魔力譲渡、そろそろよくないですか」
「まだだ。あと少し」
「いつもより多めにいただいている気がしますが」
「あとちょっとだけ」
「でも、額が熱くて」
「だめ」
「だめって、殿下」
「ほんの、もう少しだけだよ」
「……わかりました。あとちょっとですよ。
もう、わがままだなあ」
私を抱く殿下の手に、きゅっと力が入ってくる。あんなに冷え冷えした空気を出していた殿下が、今はとても温かい。満足そうに目を閉じる殿下が、かわいく見えてしまった。
……いや、殿下がかわいいって、なんだ?
ヴィクターさんのひそやかな呟きが、微かに耳に入ってきた。
「……あの殿下が、甘えている……」
甘えっ子殿下、かわいかろ?
なろうチアーズプログラム「連載投稿チャレンジ」に参加します。なので次回投稿は一月十日、毎週更新しますね。チャレンジ中に完結しますよ。
つまり、この話は完結保証となりました!あれやこれやが全部明らかになります……!




