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ヤンデレ王子に命令されて、悪役令嬢を魔改造してみた  作者: 工藤 でん


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1.悪役令嬢

新連載始めます。

魔法学校のドタバタもの。

よろしくお願いします!

「あたくしを誰だと思っているの?

ローエンハイド公爵家長女、マリアガルテ・フォン・エスト・ローエンハイドよ!

 あなたとは身分が違いますの。控えなさいっ」

「ふーん」


私のひと言で、マリアガ……なんちゃらさんは、喉の奥でひって言ったまま、顔を真っ赤にして黙り込んだ。ふんわりカールした赤毛が目を引く、美人さんである。ややキツめのライムグリーンの瞳が信じられないと私を見返していた。


そんな目で見られてもなあ、と私、セレフィは軽くため息をついた。


 そもそも身分がどうの、とか言われても。


 ここは王立魔法学校である。

 学校の理念に『魔法の下において我らが生徒は平等である』と明記されている魔法学校であり、我々はそこの在校生だ。その魔法学校のクラスのど真ん中で「身分が違うのよ!」とか言われてもねえ。


 確かに、私はど平民。

 平民を代表して恥ずかしくない堂々たる平民ぶりだ。どこにでもいそうな茶色の髪と目と、平均的な女子の身長と、見るからに物足りない、まっっっすぐなラインの身体を持つ、どこもかしこも目立つことのない私である。


 だけどね。

平均以上の魔力量と尋常じゃない魔力貯蔵量を見込まれて、魔法学校へ入学を認められている、ちょっと珍しい平民なわけだ。就職活動でも始めれば、魔法関係の職からは引く手あまただからね。そんな私が魔法学校で控えなさいとか、言われる筋合いなくない?


「ちょっとあなた、あたくしの話聞いてますのっ? あたくしの前で馬鹿みたいな顔さらしてぼんやりするなんて、なんて失礼なっ!」


 マリアガ……んん……さんはキンキンと高い声で喚いている。

 そんな喚かなくても聞こえてるってば。私が恐れ入ることもく、ぼやあっと佇んでいるのが気に入らないんだろう。


 申し訳ない。私はとあるやんごとなき方とお知り合いなので、身分に対して恐れ入る習性が希薄なのだ。形ばかりのお辞儀とかは得意なんだけど、マリアガ……ガ……さんに礼を尽くす必要性をあまり感じない。


 しかしこのご令嬢、なんか既視感があるな。初対面なはずなんだけど、似たような言動に覚えがある。


 ああそうだ。 


 今、巷で流行っている女子向け小説。『おんぼろ屋敷の令嬢は、氷の侯爵騎士様に溺愛される』の、悪役令嬢にそっくりなんだ。貧乏でか弱いヒロインを苛め抜く、金持ちで高圧的で居丈高な悪役令嬢。身分を盾に周囲の人を見下して、自分は尊ばれて当たり前と思っている、いけすかない女の子だった。

あの令嬢も赤毛に緑の目だったしさ。小説の中の悪役令嬢にガチ似なんだこの人。


 そっかー、この人悪役令嬢か。八割がた人格を掴んだ気がするわ。


悪役令嬢は、私を完全に見下しながら顎を上げた。もうその姿勢が完全に悪役令嬢だった。


「ということだから、あなた。前期はあたくしとバディになるのよ」

「はあ……………

 はっ??」

「あなた、人の話を聞いていないわね! 

 この学校では、新学期が始まったらクラス内でバディを組むのが決まりなのでしょう。あなたは今朝、用事か何かで遅れてきたみたいだけど」

「そう、だけど。

 バディ決めだってわかってたら、用事ぶん投げてでも来たのに……」

「このクラスでは高貴なあたくしとバディを組みたい身の程知らずはいなかったようなのよ。あたくしとしても、伯爵家以上だったら考えてあげてもいいかと思っていたのだけど。

 ここは王侯貴族も通う、聖ノーブルクリストフ学院と違って、貴族の子弟が少ないことを失念していたわ。あたくし、聖ノーブルクリストフ学院からの、転入生なの」

「ああ、聖ノーブル……金持ち学校」

「そう。我が聖ノーブルクリストフ学院では、あたくしの周囲にいる御学友は侯爵家以上しかいなかったから。仕方ないわよね、王立魔法学校風情じゃあたくしと釣り合う御学友は、ほんの少数でしかないし。

そういうわけだから。あなたをあたくしのバディとして随従することを許可するわ」


 マリアガ……んんさんの言葉を受けて、私は静かにクラスのみんなに目を向けた。クラス全員が、私とマリアガさんから、じんわりと目を逸らせた。

 ……やっぱ、そういうことかい。

 マリアガさん(あんた) 、クラスの残り物じゃん。

 誰が好き好んで、魔法学校初心者の悪役令嬢とバディ組みたいとか思うかな。絶対大変じゃん。誰もが避けて通りたい相手だもん。

 そんでたまたま遅刻してきた私に押し付けた、と。

 ……コノヤロー!!


 マリアガさんは華やかな長い赤毛をさっと払った。金色の大きなピアスがちらりと見え、高そうな香水の香りがあたりに漂った。

 強気そうなライムグリーンの目が高圧的に私を見下ろしていた。


「で、あたくしのバディになる栄誉を与えられた、あなたのお名前は?」



     ◇    ◇    ◇



「セレフィ、なんだかいつもより疲れているね」


 くすくす笑いながら、殿下がソファで私を出迎えた。長めの淡い金髪にロイヤルブルーの瞳の殿下は、見た目からしていかにも高貴な方だ。造形も美しいが、洗練された所作が美しい。やんごとないよ、ってオーラが出ている。

 私は生徒のふりしてる護衛さんの開けたドアをくぐって、彼のそばに近づいて一礼した。これ以上にない仏頂面で。


 魔法学校の男子寮にもかかわらず、この部屋は広い。応接室と執務室とベッドルームが備えられている。何ならトイレもシャワールームも完備だ。一般生徒は、二名同室な上に共同浴場共同トイレだっていうのに。


 なにせこの部屋を使われているお方が、我が国の第四王子、ルドルフ・ヴァリアエル・フォン・ゴールデンガイヤ殿下だからだ。

 魔法の下に生徒は平等……という建前も、王族の前ではかき消されてしまったらしい。我が国の王子様に何かあったら、国を挙げてのオオゴトになってしまうからね。

魔法に集中したい、という殿下の要望で王族なのに寮住まいが決定したと聞いている。王宮に比べたら内装も調度品もごく質素なものだが、これだけ広い空間を占有してるんだから、充分破格の待遇である。


 私は上目遣いで殿下の表情を探った。


「ルドルフ殿下。今日の朝、唐突に私を呼びつけましたよね。それって」

「今朝から、魔力過多で体がきつくてね」

「いつもより顔色いいのになー、と思っていたんですけど」

「セレフィが来て治療してくれたおかげだね」

「殿下。今日のうちのクラス、一限目にバディ決めだって、あらかじめ知ってたんじゃないですか?」

「なんでそう思うのかなあ」


 ルドルフ殿下は確信犯の顔でにっこり笑った。お美しいわ。きらびやかで目の保養だわ。そのせいなのかな、ますます忌々しいわっ。

 

 殿下が手招きするのでしぶしぶ近づく。一礼してからソファの隣に座らせてもらい、ルドルフ殿下の手を取った。殿下も慣れたもので、そのまま私に手を預けてくれる。

 私はあふれ出た殿下の魔力を取り込んだ。



 ルドルフ殿下は魔力過多症という病気だ。魔力過多症というのは、体内で生成される魔力が多いのに、魔力を貯める器官が弱くて、余分な魔力が身体を痛めつけてしまうという難病である。多くは発熱やめまいや頭痛・倦怠感を引き起こし、歩行も困難になる。さらにそのまま魔力の暴走が進めば、本人の心臓や脳に重大な疾患を残す恐れがある。大変危険な病気である。


 私は特異体質のようで、魔力をいくら貯めこんでも体に異変が起こらない珍しい人間だ。今のところ魔力超過で限界を感じたことはないからね。


 この能力を見出した王室の関係者が、私に目をつけた。彼らに連れられてルドルフ殿下に初めて会ったのは、私が十歳のときのだった。ルドルフ殿下は当時十一歳で、その頃は寝たきりでもう長くないと思われていた。王子様に会うんだ、ってんでビビり散らしていた私だが、ベッドに横になった殿下の、細くてはかなげな姿が痛々しかったのを覚えている。


 あれから七年。あのガリガリで壊れそうだった金髪の坊ちゃんが、今や私の背を超えて立派な青年になり、その高貴で品のある佇まいと美々しい顔面で、周囲に王族としての存在感を示している。つまり、殿下を目にした女子たちが、思わず二度見せずにはいられない存在になっていた。


しかも生きるか死ぬかを乗り越えて成長された殿下は、王室の皆様から大変に愛されておいでである。王様、王妃様はもちろん、本来なら王位継承とかでギスギスしそうな三人のお兄様も、お嫁にいかれた二人のお姉様も、ルドルフ殿下のためなら何も惜しまないっ! ……ってくらいの愛情を注いでおられる。


つまりルドルフ殿下という人は、この国においてほぼ無敵な人なのである。ルドルフ殿下の敵に回るやつでもいたら、すなわちそいつは国家の敵認定となる、くらいには権力者である。


権力を傘にきてワガママを撒き散らすようなダメ王子に育たなくて、本当によかったよね。


「それで、セレフィのバディは決まったのかな」

「殿下やっぱり今日のバディ決め、知ってたでしょ。

私のバディは、マリアガさんです」

「まりあが……それ、本名?」

「もっと長い名前だったんですけど、立て板に水みたいに自己紹介されたんで忘れました」

「……くっ」

「笑ってないで、殿下。バディ決めでマリアガさんがクラスで売れ残ると予想して、今朝私を遅刻させたんでしょう」


ルドルフ殿下は魔力調整のために、今でも平民の私をそばにおいている。

私は魔力過多を起こさないよう、毎日殿下の魔力を吸収している。今も授業終了後に殿下の護衛さんに連れられて、男子寮にあるルドルフ殿下の私室に潜り込んでいるのだ。


 毎日私が魔力を取り込み、さらに授業で魔力を放出しているルドルフ殿下は、最近体調はかなりいい。だが時々、唐突に魔力量が上昇することもある。こればかりは誰にも予測ができない。今朝のように急遽呼び出されて、殿下の魔力を取り込むこともあるのだ。


殿下は魔力を取り込んでいる私の手を軽くつついた。


「マリアガルテ・フォン・エスト・ローエンハイド。君のバディはそういう名前じゃなかった?」

「うん、確かそんな感じです」

「彼女は私の婚約者候補の、今のところ筆頭の人だね」

「ほうほう。確か公爵家長女とか言ってた気がします。身分も申し分ないですし、年齢もちょうどいいですし。ルドルフ殿下は、このままあの赤い髪のご令嬢とご婚約ですね」

「国王陛下はそのつもりのようだけど。

……セレフィはあの女性をどう見る?」

「あー……ぶっちゃけ、こう言っちゃなんですが、悪役令嬢みたいだなと」

「セレフィもそう思ったんだ。

私に本性は隠してるつもりみたいだけど、そういうのってわかっちゃうんだよなあ」


 ルドルフ殿下は、それはそれは優しい顔をなされた。

 目が笑ってないけど。


「実はね、ひと月ほど前に、マリアガルテ嬢と形式的に挨拶する場をセッティングされてね。おまけにダンスを踊らされたんだよね」

「王族の方は社交とか大変っすね」

「ほんとだよ。

 私は見た目がこうだろう。様々なご令嬢が私に恋に落ちる瞬間というのを、何度も目の当たりにしているんだが」

「勝ち組殿下は気にもしてないでしょうけど、モテない男の前では絶対言わないでくださいね、そのセリフ」

「手を取った瞬間に、典型的量産型テンプレートそのまんまの反応を、彼女がしてくれたわけなんだ」

「目キラキラ系の、お口ポカン系の、お花ひらひら飛ばし系な感じですかね」


 ルドルフ殿下は思い出したのか、くすりと笑われた。鼻で、だけど。


「しかも去り際に、『お父様、どうしてルドルフ殿下は我が聖ノーブルクリストフ学院にいらっしゃいませんのっ?』とか叫んでて」

「マリアガさん、声でかいですもんねえ。

殿下は体質的に魔法を使い続けなければいけない必要があるから、魔法学校に通ってるんだって。そういうのは伝わってないんですか」

「人の話を聞くとは思えないご令嬢だからね。まさか、私を追って魔法学校までくるとは思わなかった。

魔力の数値が基準値を超えなければ、魔法学校に入学できないから、高をくくっていたんだけど。彼女、入学できちゃったんだよね」

「思わぬ誤算でしたねー」

「つまり、私は今後あの悪役令嬢に付きまとわれることが確定したわけだが」


 ルドルフ殿下は魔力を取り込んでいる私の手を両手で優しく握った。じっと私を見つめてくる。

 見た目も良くて性格も温厚そうな王子様だもの。恋する乙女なら、とくんと胸を鳴らすところだろう。シチュエーションは完璧です、殿下。


だが私は、不穏でしかない。良くも悪くも、殿下とは長い付き合いなのだ。行動が優しい時ほど疑いの目を向けていたほうがいい。経験が警鐘を鳴らしている。

恐る恐る顔を上げると、それはそれは輝かしいお顔の殿下が、鋭いロイヤルブルーの瞳で私を見据えていた。


「私はね、悪役令嬢と一生を共に過ごすなんて、まっぴらごめんなわけだよ」

「うっ」

「彼女が苦手なんだ。

 セレフィ、なんとかしろ」

「うわー、王族らしい唐突かつ無謀な命令」

「せめてまっとうに世間話ができるくらいには、あの悪役令嬢、改造してこい」

「んな、無茶な」

「私が長い時間あの令嬢と過ごせると思うのか」

「思えません。

マリアガさんて、身分を笠にきて不遜に振舞うのは当然の権利、とか思ってるご令嬢じゃないですか。殿下、そういう人嫌いでしょう」

「嫌いだねえ」


綺麗な顔をしかめる殿下。しかめたって綺麗なんだから、この顔面はどうかしている。


「しかも殿下は我慢の限界を超えると簡単に全部ぶっ壊したくなる人だから」

「ひどいな。セレフィは、そんな目で私を見てたの?」

「殿下なら、マリアガさんの手を蕩けた笑みで取りながら、絶対零度の氷結魔法で瞬時に凍結させちゃいそう……」

「まさか。私はそんなことしないよ」

「自分でしなくても、誰かを使ってやるんでしょうが。殿下は自分で手を下さずに誰かに任せるの得意ですよね。

この前臨時でやって来た護衛さんなんて、殿下の不興を買って気づいた時には一族郎党……」


 んんっ、と後方から咳払いが聞こえてきた。剣をいじるチャキンという硬質な音もした。「わきまえろ、セレフィ」という声なき声も聞こえた気がした。

 護衛さんが、それ以上ルドルフ殿下の行動を口に出したら不敬罪に処すぞ、と言っている。


 ……あぶねえ。これは思っても言っちゃだめなやつだった。これだから殿下の前では気が抜けないぜ。気安くてもルドルフ殿下は王子様。おふざけが過ぎると簡単に命に関わってくる。学生服着て若く見せてるけど、護衛の人達全員、近衛騎士の精鋭だし。


 私はつないでいた殿下の手を外して、うやうやしく胸の前に手を置いて一礼した。


「……仰せのままに」

「期待してるよ、セレフィ」

「具体的にはどのようにすればいいですか」

「手段はまかせる。セレフィのやりやすいようにすればいい」


 ルドルフ殿下が極上の笑みを浮かべて、再び私に手を差し出した。

 はい、まだ魔力譲渡は終わってませんね。終わるまで帰さないぞってことですよね。ちゃんとやりますって。


目の前には悪魔すら惑わしそうな美美しい殿下がいる。うっかり時々「きれい♡」とか思っちゃうことがある。

そこら辺に転がってる美形相手だったらまったく問題ないが、お相手は愛されるべくして愛されている、我が国の第四王子様である。平民がそんな舐めた態度を見せたら、そのまま罪になってどうにかされるかもしれない。毎日自分の進退を試されているようなもんだ。


だからさあ、殿下。

 魔力譲渡で手を取るたびに、美しい顔面で優し気に笑う、とかしないでほしいんだよ。毎度心臓がざわめいておかしな気持ちになる。大変危険である。


 ほらー。今も、高貴な風情でにこりとかしてくるー。お美しいー。やめてくれー。


殿下におかれましては、どうかほどほどにしておいていただきたい、と常々思っているのだ。



 私は殿下のなめらかな手を取って魔力を取り込むことに集中した。そんなにうれしそうな顔してこっち見んなよ、と心の中で毒づきながらも、私の鼓動が早くなったことは誰にも内緒だ。




 


この前書いた学校ものが、思いのほか楽しかったので。

学生生活って、あの時しか無かった時間の流れが独特ですよね。そんな学生気分が表現できたらなー


評価★★★★★、ブックマーク、リアクション、感想など頂けると、作者は喜んでクルクル回ります。どうぞ、お気軽に回してみてください。


五話をまとめて予約投稿してみました。毎日朝八時に投稿します

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