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第2話 ある花火大会のお話。

 パパパンッ


 空砲のような音が聞こえる。

 今日は会社の近くで花火大会があるのだ。


 「先輩っ。今年は1人なんでしょ? わたし、友達と花火大会を見に行く約束してるんだけど、定時あがりして、合流しませんか?」


 話しかけてきたのは、隣の席の後輩だ。

 勤務中なのに、頭には髪飾りをさして浴衣を着ている。


 (分かりやすい子だな。いくら自由な職場でも、浴衣で勤務はどうかと思うぞ?)


 俺は、後輩が高卒で入社したばかりの頃、この子の指導役だった。その関係で、今でも何かと相談に乗ったりしている。



 だが、この誘いは。

 正直、全く気が進まない。


 俺には少し前まで、長い付き合いの彼女がいたのだが、先月、別れてしまった。去年までは、毎年、彼女と行っていたが、今年は1人。


 思い出の場所だし、今年の花火大会に行く気は全くなかった。だから、断ろう。


 「いや、俺は……」


 すると、後輩は言葉を被せてきた。


 「あの、これ内緒だったんだけど、その友達、先輩のこと好きみたいなんですよ。花火も有料席で見れますし、絶対に来た方がお得だと思うなぁ……」


 後輩はニコニコ……というより、ニヤニヤした。


 俺のことを好きとか、ホンマかいな。


 俺はルックスもよくないし、そんな見ず知らずの子に一方的に好かれるようなナイスガイではない。


 たぶん、後輩は俺のことを気にかけてくれているのだ。前に「先輩、元気出して」っていう付箋をPCに貼ってくれたし。後輩なりの恩返しのつもりなのかな?


 いや、でも。

 気乗りしなすぎる。


 俺が迷っていると、後輩は俺のスーツの袖の端をチョコっと掴んだ。


 「先輩……」


 瞳をうるうるさせている。


 「ったく。しょうがないな。分かったよ。行かせてもらいます」


 後輩は笑顔になった。


 この後輩、身長は小さいのに、胸が大きくてスタイルがいい。顔も可愛いので、実は同僚の間では、実はかなり人気がある。


 「じゃあ、バリバリがんばりますかっ」


 そう言うと後輩は、浴衣の袖を捲り上げて、椅子の上にあぐらをかいて、顧客との契約更新のための書類を作り始めた。


 (せっかくの浴衣が台無しだぞ?)


 ……可愛い後輩なのだけれどね。

 こういう雑というか、男っぽいところがどうも苦手で。俺はこの後輩を異性として見れない。


 すると、後輩が手を止めた。


 「今日、与党の総裁選なんですって。先輩、ちゃんと選挙いってますか?」


 「いってるよ」


 「ふぅん。先輩っ。誰が当選すると思いますか?」


 「当選じゃなくて選出な。まぁ、なんだかんだ言っても、あの女性候補はないんじゃないか? 女性で優秀だと、きっと爺さんに妬まれるし、難しいよ」


 今回の総裁選には、女性の候補がいる。人気のある人だが、難しいのではないか、とテレビ等で言われていた。


 「ふむふむ。先輩の考えは分かりましたっ!!」


 いきなり何なんだ? こいつ。



 俺たちは仕事を定時に上がり、花火会場に急いだ。待ち合わせ場所にいくと、まだ後輩の友達は来ていなかった。


 (俺のことをを好きとか、どんな子なんだろ)


 俺はまだ失恋を引きずっているが、やはり気にはなる。


 「なぁ、俺のこと好きって、どんな子なの? 可愛い?」


 すると、後輩は顎に指をあてて悩み出した。


 おいおい。

 そんなにオススメできない子なのか?


 「うーん。可愛いかは分からないけれど、一途な子ですよ。ずっと先輩のこと好きだったみたいです」


 そうなのか。

 変わった子もいるものだ。

 

 それから20分ほど待ったが、後輩の友達は来なかった。そろそろ花火大会が始まってしまう。


 「どうする?」


 「うーん。席代も勿体無いし、先に行きましょう。席も決まってるし、後からでも合流できますよ」


 花火大会の会場は、大混雑だった。


 右も左も人、人、人。


 川下りの激流のようで、どこかに連れて行かれてしまいそうだ。すると、袖に重みを感じた。


 「先輩……迷子になりそうだから、ここ掴んでていいですか?」


 俺が頷くと、後輩は笑顔になった。


 有料観覧席は全席指定で、花火がよく見える場所だった。毎年、もみくちゃになって見ていたけれど、こういうのも良いものだ。


 露店で買ったビールとつまみを手に取って、後輩と乾杯する。 


 「「かんぱーいっ」」


 思えば、こいつとの付き合いも早3年か。最初はオドオドしていたけれど、辞めないで続けてくれて嬉しいよ。


 目の前で、ドーンという音がして、少し遅れて花火があがる。何発か続けてあがると、小休憩になるらしい。


 何度か目の小休憩の時、俺は言った。


 「友達来ないな。何かあったのかな?」


 すると、後輩は時計を見た。


 「なにか急用ができたのかも。大会終わったら、連絡してみますよ。あの、先輩……」


 「どした?」


 「さっきの総裁選の話。わたしは、先輩が無いって言っていた女性候補さんがなると思うんです。もし、わたしの予想が当たったら、一つだけ、お願いを聞いてみませんか?」


 後輩は俺とずっと一緒にいたから、2人とも、まだ投票の結果を知らない。


 女性候補にはガラスの天井があると言われている。それくらいに難しいことなのだ。


 だからまぁ、あの人がなることは無いだろう。


 「わかった。一つだけな」


 「どんなお願いもですか?」


 「俺に聞けることならな」


 すると、ひゅるひゅるーという音がして、大きな花火が打ち上がった。


 花火はここ数年で、さらに綺麗になっている気がする。今年の花火は見たこともないような鮮やかなピンク色で、キラキラと余韻を残して、夜空に消えていく。


 後輩の方をみると、うっとりした顔で花火を見上げていた。


 (こいつ、こんなに綺麗だったっけ) 


 最後に、「どーんっっ」と一際大きな音がして。少しだけ遅れて、大きなハートの花火が打ち上がった。


 挿絵(By みてみん)



 花火大会が終わり、人がどんどん捌けていく。

 そのうち、席には俺と後輩の2人だけになった。


 後輩は、花火の余韻が残る夜空を見上げながら言った。


 「2人だけになっちゃいましたね」


 「そうだな」


 「あの、こういうのズルいのかもだけど」


 「ん?」


 後輩を見ると、手をギュッと握り合わせていた。せわしなく動いている指先は、小刻みに震えている。


 「あの……、わ、わたし。ずっと先輩のこと……好きでした。先輩と後輩の関係も気に入っていたけれど。明日からは、わたしとの関係を更新して、恋人になってくださいませんか……?」


 更新って……。

 なんのビジネストークだよ。


 でも、まぁ。

 更新も悪くないのかもな。

近所で花火が上がっているので、写真をつけてみした!! ドンドンいってます。

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