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第二話:天使の友達全国行脚 in 出雲

武藤我竜が立ち上げた「雀荘:天使の友達」は、美濃で繁盛していた。新しい娘や男の子たちも採用していたが、戦争孤児が多かった。その店を佐藤、加藤、伊藤の三人に任せて、我竜と四人娘たちは西国方面を巡業していた。播磨(兵庫県)、安芸(広島県)、長門(山口県)、石見(島根県)、そして出雲へ辿り着く頃には、それぞれの娘たちの得意技も増えていた。


 「面白いよ~、楽しいよ~、遊んでってよ~、カワイイよ~、ステキだよ~、まぶしいよ~」即席で作られたであろう小屋の前で、いつものように客引きをしていたのは旅芸人に扮した武藤我竜だった。小屋の前で歌っていたのは、色村葉月(いろむらはづき)だった。その隣で三味線を弾きながら伴奏していたのは四元(しげん)(どう) 冬美(ふゆみ)だった。

「〽ステキなひととき、あなたといたい。出せ、振れ、掴め! 楽になれ~

 夢見るあなた、支える私、居ろ、来い、自摸れ! つかみ取れ~

 もしも貴方に乗らぬなら、私が乗せます、ドラ三つ~

 もしも私に乗らぬなら、和了ってください、三倍満!」『ドラドラ夫婦 愛の小唄』

「はっはっは、何だ? 変な歌だな~」

「何か、耳から離れないね~」

「ん? 新しい遊びかな? 何? 麻雀って?」

「お! 可愛いね。ちょっと遊んでいくか!」通りを行き過ぎる人々の反応はまちまちだった。

「〽必死に倍満 てんぱって~ (テンパッテ~)(テンパッテ~)

 対面(といめん)リーチに、気押されて~ (気押されて~)(気押されて~)

 崩して 回して 裏目って~ (うらめって~)(うらめって~)

 流局迎えて ザンクノーテン (対面リーチは、カラ聴だ~)」『倍満戦歌 ヘグリ魔道』新曲を惜しげもなく披露しまくった。合いの手を冬美が入れた。

「ある、ある」

「ねーよ」

「ビビり過ぎ~」喰いつきも概ね好評だった。


小屋から少し離れたところで、夏風秋葉(なつかぜあきは)は、踊りを披露していた。能の動きを早くした独自の舞は、聴衆に新鮮な感動を与えていた。当時流行していた「ややこ踊り」(少女による小躍り)も披露した。冬美と葉月の手が空いているときは、太鼓や笛の伴奏があった。秋葉が踊っていると、小さな女の子が隣に来て、見よう見まねで踊っていた。

「お! あの小さい女の子、一生懸命じゃないか!」

「かわいいね~、ふたりとも」

「姉妹なのかな? お姉ちゃんの真似をしてるの~?」即席のコラボは意外にも受けが良かった。ひと通り踊ると、おひねりが頂けた。一緒に踊った女の子も、母親からお金をもらいおひねりをくれた。

「おねーちゃん、すてき! カッコイイ!」

「ありがとうね~。おねーちゃん、嬉しいわ~」

「あたしも、大きくなったら、おねーちゃんと、もっとおどりたい!」

「い~よ~。早く大きくなって一緒に踊ろうね~。今いくつ?」

「いちゅつ」

「あ~ら~、カワイイわね~」頭をなでなでした。この子が後に「歌舞伎踊り」で一世を風靡した出雲阿国であった。

 ある程度の行列が出来ると、即席小屋で麻雀接待が始まった。一宮(いちのみや)かれんは「天使の友達」の主将(エース)に成長していた。かれんを倒した客には似顔絵の大和絵が贈呈された。噂が噂を呼び「天使の友達」は、武将の接待にも呼ばれ多忙を極めた。そのため情報が集まりやすく、その情報は蒼龍によって地下で捌かれ「天使の友達」を潤した。もちろん碧竜にも届いていた。


巡業中に、回転資金を整理していた我竜が訝しがっていた。

「何だ? 何だ? この金は~?」

「どうしたの、おとっつぁん」冬美が我流に尋ねた。

「毎月、毎月、訳の分からない金が振り込まれるんだ。気持ち悪い!」

「あら? いいじゃない。きっと、お客様の好意よ」

「誰だか分からんが、気持ち悪くて仕方ないよ。こんな端金(はしたがね)は、すずめの(よだれ)だ。こんな金額じゃ、飴も買えないよ!」

「雀の涙でしょ? 気にすることないわよ」冬美は、碧竜からの仕送りであることを隠していた。

[回想シーン]冬美が、近くまで来た碧竜に呼び出されていた。

碧竜「冬美さん、あの、こ、の、これ・・」碧竜がたどたどしい手つきで、封筒を冬美に手渡した。

冬美「・・? 何ですか? これ」

「そんのぉ~、兄者に迷惑ばかりかけたから、少しですが、これから、毎月、払います」

「はい。ありがとうございます」冬美は、とびっきりの笑顔で受け取った。

「すこし、ですが・・・」

「額は、関係ありません。」碧竜は興奮が止まらなかった。

「もう少し、出世するまで、兄者には、内緒にしててください」

「はい。碧竜さん。最近、おとっつぁんが、碧竜兄さんの心配をすることが減りました。安心している証拠です。頑張ってください」

「はい、頑張ります! それでは、任務に戻ります」碧竜は照れながら、逃げるように走っていった。それを冬美以外の三人娘は、陰から覗いていた。

葉月「碧竜の兄さん、最近すっかり逞しくなったね~」

秋葉「昔は、食って寝て、おならばっかりしていたよ」

かれん「ずいぶん、(しご)かれているみたいね~」

「今、何してんの?」

「厳島神社にいるみたいね~」

「ここから、ちょっと近いよ」

「忍者なの?」

「あのひと、もともと忍者でしょ?」

「あんなに太っていたのに~」

「今はやせているよ。顔つきも厳しい感じがするよ」

「冬美姉さんにメロメロね~」

姉姉(ねぇねぇ)、最近綺麗になったからね~」

この仕送りは、碧竜が黒脛巾組の頭領になると、我流が伊達藩で働いていた頃の俸給の一カ月分に増えた。碧竜が、伊達藩の侍大将の一人になると二カ月分に増えたのだが、それは後々の話である。我流が仕送り主の正体が分かったのは『関ヶ原の戦い』の前日の病床でのことだった。


西国方面の巡業が終わり、我流たちが美濃に帰って来ると武家への訪問接待営業が中心になった。その日は、朱雀派の特別稽古の慰労会で道場内に呼ばれていた。酒席で、秋葉の「創作舞い」が披露され、門弟たちの心を鷲掴みにした。続けて、冬美の三味線と葉月の歌が門弟の心を癒した。かれんは、別室で朱雀派の副師範・鵡川(むかわ) 六郎(ろくろう)()に呼び出されていた。既に昼の接待麻雀で鵡川から、役人の俸給の半年分をカッパいでいたが、延長料金を支払うという約束で夜の部に呼ばれていた。

鵡川「おぬしは、麻雀が強いの~」助平ったらしい猫なで声で、酒臭い息を吐きながら迫って来た。

かれん「それほどでも、ございません。配牌と自摸に恵まれただけですわ。日を改めたら、お殿様の足元にも及びません」と、軽くあしらった。

「ワシと契約を交わさんか?」

「お殿様と、契約なさっても良いのですが、お殿様の不在の日が多いと寂しいですわ」

「なぁ~に、ほんの少しの間じゃ。伊賀と甲賀を巻き込んだ戦があるが、それが終われば暇になる」

「(!) それで、皆さん稽古なさってるのですか?」

「伊賀衆など、取るに足らぬ存在じゃ。蹴散らしてくれるわ」

「いつ頃、始まりますの?」

「来年じゃ(第一次・天正伊賀の乱)」

「それでは、お忙しいですわね~」と言うと、女将が部屋の外から呼びかけた。

「失礼します。師範代より、指名が入っております。移動してください」

「は~い」と言って、かれんは消えた。

「(くっ。師範代からの指名ならば仕方ない)」股間を膨らましながら、鵡川は悔しがった。鵡川は、剛掌霧笛が女遊びをしない禁欲的(ストイック)な性格だったことを後で思い出した。

「あの情報が欲しかった。これで全員役目を果たした。裏口から逃げろ」と、女将に扮した我流の指示で逃げた。

宴会場では、我流の手筈通り、全員が冬美と葉月に薬入りの酒を飲まされ潰れていた。美濃から安芸(広島県)に逃げる段取りは、蒼龍が全て整えていた。抜群の統率力で、佐藤、加藤、伊藤に指示を出し、我流が遠征時に目を付けていた場所に移動した。天正伊賀の乱をきっかけにして、再び乱世がやってくることを知ったからだ。醜態をさらした朱雀派だったが、金銭を盗まれた訳でもないので、我流たちの追跡をすることはなかった。


凶之介は、讃岐(香川県)の白峯陵にいた。

「ここに一体、何があるってんだよ」頓証寺へ向かう参道で、庭掃除をしていた和尚に出会った。

「熱心じゃの~。崇徳上皇への参拝かえ?」凶之介は、つかなくていい噓をついた。

「冗談じゃねぇ。俺は、ただの俳句好きだ。西行法師のファンなんだ」

「そうかえ? ならば一句よんでみよ」

「いいぜ、 背をはやみ、岩にせかるる 滝川の われても末に あわむとぞ思ふ」

「たわけ、それは崇徳天皇の句じゃ。つかんでいい嘘をつくもんではない」

「わりぃ、わりぃ。核心を突かれると嘘をつくのが癖なんだ」

「面倒くさい、癖じゃの~」

「それはそうと、ぼーさん、『覇裟羅』って知ってるか? 調べに来たんだよ」和尚は、掃除の手を止め、虚空(こくう)を見やった。そして感慨深そうに、

「時期じゃの~。天承の世の恨みが、天正の世で、天承によって晴らされるのじゃ」

「天正って、今じゃねぇか! 今は、天正5年(1577年)だ!」

「天承の名を持つ者を、誰か知ってるのかえ?」

「あぁ、友人だ。戦国の世を逞しく勝ち残りそうなので、何としても親友にするつもりだ」

「ならば、話は早い。その者が、崇徳上皇の恨みを晴らしてくれる。欲にまみれた権力者どもを一掃する『覇裟羅』の化身じゃ!」

「えぇ! あいつがか!」

「権力は、己や己の身内だけが肥えるために濫用されるものではない! 当たり前の話じゃ!」

「坊さん、興奮しすぎだ。坊さんが、覇裟羅に見えて来たわ」

「その者を、助けよ。その者につき従って、世を権力まみれの俗物どもから救うのじゃ!」

「それは、構わねぇが。戦国の世は、まだまだ続くぜ~」

「世に平和が訪れたとき、お主はどちらに居たいんじゃ? 当然、勝ち組よのぉ」

「坊さんの台詞とは思えねえけど、違いねぇや」凶之介は、妙に納得した。

「(雀悟が、崇徳上皇の子孫なのか? よく、分かんねぇな。それじゃ、一馬の野郎は何なんだ。双子か? もう少し、調査が必要だな)」凶之介は、白虎流派の本陣へ飛び込んだ。


〔第三話:満貫組手 in 広島〕


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