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第8話 秘密の特訓

 戦況は決して良くなかった。

 序盤に敵の半分近くを弓と罠で抑えられたのは予想以上の戦果だったが、やはり個々での実力ではどうにもならない差をハンは感じていた。

 といっても自分は戦闘なんてやったことがないし、正直その場にいるのが場違いだと感じる。目の前の景色に、身体は震えていた。


 「坊主、大丈夫か。」

 そんなハンを見てグラッケンが声をかけた。

 

 「は、はい……。僕のいた国では戦争なんてものはなかったので、まだ慣れなくて……」

 「そりゃ無理もねぇ。命をかけた戦いだからな……、怖くないわけねぇさ。」

 「僕にも戦う度胸と力があれば……」

 「お前さんの作った罠と作戦でどれだけ敵の数を削げたと思う。戦場で剣を振るうのだけが戦いじゃないだろう?」


 グラさんの言う通りだ。今僕にできることを全力でやらないと……。

 


 その頃、ヘンリーとヒューゴを含む第二・第三部隊はシェリカの攻撃により立ち上がれなくなっていた。

 

 「バケモン……だねこりゃ……、一人だってのに、どんな体力してんだよ……。」


 「もうおしまいかヘンリー……ヒューゴ……。僕はまだ……動けるよ……。」

 今にも意識が飛びそうなホッパーがふらふらで立ち上がる。


 「もう諦めなガキんちょ。あんたらは勝てやしないんだよ。」


 「……自分たちの家族は……、自分たちで守る……。」

 「ちっ、しつこいねぇ。恨むなら、時代を恨みな……!!」


 シェリカがホッパー目掛けて飛び上がり、高々と蹴り上げた足を、思い切り振り下ろした。


 「ホッパァァァー!!!!」

 ヘンリーやヒューゴが叫んだ時だった。


 ホッパーの顔寸前で、シェリカの足が弾かれる。

 「!?」


 「遅くなりすまなかった、ホッパー殿。……あとは私がやろう。」


 「りゅ、劉備さん……!?」


 「誰だこの貧弱な野郎は。見かけない種族だな……。ん……? おいおいまさか人間か?」

 シェリカは劉備を見つめ少し驚いたような表情を見せた。この島に人間がいるのはよほど珍しいのだろう。


 劉備は何も言わずホッパーたちの応急処置を始めた。

 「時間があまりないゆえ重傷箇所の処置しかできなさそうだ。皆と共に少し離れていてくれ。」


 (「治癒魔法?それにあれは……、ただの人間ではなさそうだな。」)


 「劉備さん、一人では危険です……。僕らも一緒に……。」

 「案ずるなホッパー殿。その思いは私が引き受ける。必ず其方らの家族や土地を守ると、この劉備玄徳が約束しよう。」


 「舐められたもんだねぇ……。あんた一人で何ができるって言うんだい?」

 シェリカは強い殺気を放ち、身体中からは雷魔法が漏れ出す。


 「あまり戦うのは好きではないのだがな……。しかし守るためなら、いくらでも血を浴びよう。」

 珍しく劉備は殺気を放ちシェリカを睨みつける。


 「へぇ……、よく見りゃ可愛い顔してるじゃないか。あんた自身の血なら、いくらでも浴びせてやるよ!!!」

 次の瞬間、劉備の剣とシェリカの爪がぶつかり合い、空気が揺れるほど大きな打撃音が鳴り響いた――――。


 

 獣人族が攻め込んでくる数日前の夜、グレースは水を汲むため川へ向かっていた。そのとき、森の奥から空気が破裂するような音が聞こえ、茂みの影から様子を確認することに。するとそこでは、劉備が一人汗を流しながら剣を振っていた。剣が振り下ろされるたびに、空気がどよめくような激しい唸りを上げていた。


 「……そんなに見られると恥ずかしいではないか。」

 劉備は茂みからの視線に気付き声を上げた。


 「あっ、す、すみません……!修行のお邪魔をしてしまいました……。私はこれで……」

 「ははは、グレース殿でしたか。逆に脅かしてしまい申し訳ない。そうだ、ちょっと手ほどきをお願いできないだろうか?」

 

 「手ほどき……?わ、私がですか!?そんな戦いについてはあまり詳しくはないのですが……。」

 予期せぬオファーにグレースは戸惑いながら返した。


 「いやいや、『魔法』とやらに関して私はあまり馴染みがなくてな。『マナ』、と言ったか、それを用いた治癒ならなんとか感覚を掴んだのだが、これを攻撃や防御にも応用できるとして、その方法がイマイチわからなくてな。」


 「なるほど……、そうですね。理論上ではマナは治癒魔法だけでなく攻撃魔法や防御魔法としても行使できます。実際、マナを使用すると言われている精霊族は、戦闘でもとても強力な力を持つと言われていますし……。ただその方法が体内の魔力を使用したものと一緒なのかどうか、こればかりはマナを使用できる方にしかわからないところです……。」


 「そうか。では体内の魔力を使った魔法を一度見せていただけないだろうか?ぜひ参考にしたい。」

 「わ、わかりました。では性質ごとに簡単に説明をしながらお見せしますね。」


 グレースは可能なものは実演をしながら、魔法について解説を始めた。

 魔法には大きく分類して5つの基本属性というものがあり、『火』『水』『風』『雷』『土』で構成される。

 また、どの性質も纏わない単なる魔力の行使である『無属性魔法』や、複数の性質を同時に行使する『複合魔法』、複数の性質から新たな性質を作り出す『新生魔法』、異なる場所や世界から物体を移動させる『召喚』・『転移』、その他にも限られた者だけが行使できる『光魔法』『闇魔法』など、様々な魔法が存在する。


 「……このように、この世界には多種多様の魔法が存在しています。私も本でしか見たことのないものもありますし、まだまだ解説しきれていないものもあります……。ひとまず、基本となる5つの属性で、何が最も自分に合っているのか、それを確認するところから始めるのが良いかと思います。私もまともに行使できるのは風魔法くらいなので……。」


 「魔法というのはややこしいのだな……。しかし勉強になった。まずは私に合う属性とやらを見つけてみよう。ところでどのように確認するのだろうか。」

 「それはとても簡単です。ちょっと待っていてください。」


 グレースは一度集落の方へ走り去っていき、またすぐに戻ってきた。


 「すみませんお待たせしました……!この種に魔力を流し込んでみてください。」

 「ほう、種とな……?」

 グレースは小さな種を劉備に渡した。


 「これは『イリスの種』といって、魔力を栄養にして成長する特殊な種なのですが、栄養にした魔力の種類によって咲かせる花の色が変わるんです。例えば火なら赤、水なら青、風は緑で雷は黄色、土は褐色のように。」


 「なるほど。ではここに私が取り込んだマナを入れればいいのだな。」

 「はい……。マナで試したことはありませんが……。」

 「うむ。」


 劉備は種に手をかざし、治癒魔法を行使する際の感覚で魔力を流し込んだ。すると種からみるみる新芽が伸び始め、あっという間に小さな花を咲かせた。


 「こ、これは……。」

 「グレース殿、この色は……?」


 グレースは驚いた様子で口を開いた。

 「……は、初めて見ました……。『白い花』なんて……。」


 

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