第6話 開戦
劉備とハンが陣営に加わり数日、ハーフリングの集落では皆忙しそうに動き回っていた。劉備の助言で、集落の防衛をより強化することになったからだ。
まずは防御壁の増設。すでにいくつか施されていたようだが、前回の妖狐族の攻撃で大半がその機能を失っていた。
急いで修復を行い、さらに高く頑丈な壁へ手を加えていった。
また、ハンのアイデアにより複数の罠も仕掛けた。敵の負傷を狙った落とし穴や吊し上げて動きを止める捕獲トラップ、高所からの落石トラップなど、かなり原始的なものだが案外こういうのが有効だったりする。
次に武具や防具の準備だ。鍛治職人であるグラッケンは建築などにも精通する万能ぶりを見せているが、やはり武具・防具を打たせれば右に出るものはいなかった。これまたハンの提案により、あるだけの素材で弓を作れるだけ作ってもらった。
さらに、戦闘が可能なハーフリングたちを対象に、複数で戦う際の連携について劉備から指導があった。今まではそれぞれの考えで自由に戦っていたそうだが、劉備が指揮をすることでその動きは著しくまとまり始めている。さすがは大軍を指揮してきた武将である。
それに加え、ハーフリング達それぞれの能力や性格もある程度知っておくため、一人一人と積極的にコミュニケーションまで図っていた。
そしてもう1つ重要なのが情報だ。周りの敵軍がどのような動きをしているのか、最低限知っておく必要がある。戦はすでに始まっているのである。
幸いハーフリングの中に隠密が得意なピノという者がおり、情報収集を任せることになった。
そうしてある程度の防衛が整ってきていた頃、ハンは夜遅くに小屋を抜け出す劉備を見かけた。実は少し前から毎日、劉備はどこかへ出かけているようだった。
どこへ行っているんだろう?
気になったハンだったが、近頃は鑑定の特訓のため、自身も一人でいることが多かった。偶然発動されることはあったが、未だ意識的に発動させることができず苦戦していた。
「今は人のことより、1日でも早く皆んなの役に立てるように自分が成長することを考えなきゃ。」
そうして数日が経った頃、隠密のピノから周辺種族が騒がしくなってきたと報告があった。しかし動き出したのはなんと、妖狐族ではなく獣人族とのことだった。妖狐族との戦いでこちらが消耗していることを知ったのだろう。
ピノが集めてくれた情報によると、獣人族は約100名で構成されており中心となっているのは女族長のシェリカ、その妹のセレーヌ、そして末っ子のサラ、この三姉妹が獣人族を牽引する要のようだ。その戦闘力は凄まじく、他種族も容易に手を出せない好戦的な種族とのこと。数で劣っているため、策を練り守りの戦いをするのが得策だろう。
劉備はすぐに細かく部隊を分け、それぞれ統率する隊長を次のように選出した。
第一部隊:ホッパー
剣や弓の技術、その身のこなしは中でも随一だった。風魔法も操り、リーダーと慕われているのはダテではない。
第二部隊:ヘンリー
自らをハーフリングの貴公子と自称するナルシストだが、剣・弓術に加え土魔法も操る確かな実力者。
第三部隊:ヒューゴ
頭がキレ、冷静な判断ができる知略家。戦闘能力に関しても上記二人に引けを取らず、特に水魔法を駆使した戦闘を得意とする。
第四部隊:ハンナ 副長:ピノ
男勝りな強気な性格、類稀なる戦闘技術に、慕われるその人となりはホッパーに次ぐリーダー格。隠密でもある頼れる弟ピノと共に仲間を率いる。
第五部隊:ホイットニー 副長:ハイル
めんどくさがりで、どこか飄々とした彼だが、戦闘スキルは中でもトップクラス。ホッパーたちの弟分ハイルと共に仲間を率いる。
「皆の者!所定の位置につき敵を待つのだ!ハン殿の作戦通りにやれば問題はない!」
少し強張っていたハーフリング達は、劉備の声により神経を研ぎ澄ました。事前にハン考案の簡単な戦略を伝えていたのだ。
空気が張り詰める中、いよいよ獣人族達がその姿を見せる。
「おい小人共!お前らにはもう戦う気力がないことはわかってんだ!大人しく降伏すりゃ殺さずうちの下僕として使ってやる!武器置いて出てこい!!」
獣人族長 シェリカが叫んだ。
「姉さん、なんだか聞いていた様子と違わないかしら?妖狐の子達と相当激しくやり合ったって聞いていたのだけれど……。」
次女のセレーヌが驚いたように呟いた。
三女のサラは無表情で集落の方を見つめている。
「まあいいさ。やることは何も変わらない。……野郎共ぉぉ!!皆殺しだぁぁぁぁ!!!!!」
シェリカの掛け声で、獣人達は勢いよく突撃してきた。
「聞いていた通り血の気の多い者達だな。よし、もう少し待機だ。ギリギリまで引きつけよ!」
劉備は落ち着いた様子で、合図のタイミングを待っていた。
「…………今だ!全隊放て!!!」
劉備の合図で防御壁に隠れていたハーフリング達は一斉に弓を放った。
「なっ……、壁の裏にあんな大勢……!?」
動揺が走る獣人族たちへ間髪入れずに弓を放ち続ける。
ハーフリング達の弓の技術はかなりものだった。狩りのため幼少期から相当な特訓をするのが伝統のようだ。
「一度左右に分かれる!的を絞らせるな!」
シェリカの指示で獣人族たちは2隊に分かれ両脇に寄っていく。
「よし!思っていた通り脇に寄り始めた!」
ハンが声を上げた時、仕掛けられていた罠が次々と作動。獣人族の一部は罠によって完全に身動きが取れなくなってしまった。
「なんだと……!?随分豪華に歓迎してくれるじゃねぇか……!」
「姉さん!離脱者が多いわ!一旦引いた方が……!」
セレーヌが弓を避けながら声を上げた。
「ちっ……こんなことで下がれるか!私が活路を開く!動ける者は私の後ろに続け!!」
シェリカの身体から雷のような魔力が漏れ出し、弓を弾き飛ばした。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
叫び声をあげ、雷を纏ったシェリカが今までとは比べ物にならない猛スピードで突っ込んだ。
「おいおいなんか来るぞ……!!逃げないt……」
ハーフリング達が避けようとした瞬間にはすでに、シェリカが防御壁を砕いていた。
ハーフリング達は次々と吹き飛ばされていく。
「またあんな力ずくに……。でも敵の矢の数は減っているようね。姉さんが切り拓いた道を進みます!動ける者は付いてきなさい!」
セレーヌと半分以上に減った獣人族たちは一斉に雪崩れ込み、まもなくハーフリングたちと乱戦が始まった。
その頃、集落へ向かって突き進むシェリカの前に、ホッパーが飛び出した。
「死にたくなきゃどきな、ガキんちょ。」
「ここは僕たちの土地だ……。もう二度とあんな思いは……、大切な家族を奪わせやしない。」
「……悪く思うな。そういう時代なんだよ、私らが生きてるのは!」
シェリカがホッパーへ向かって走り出した。
「あと、僕はガキんちょじゃない!そこそこ大人だぁぁぁ!!!」