第4話 聖なる力
グレースが食事を準備してくれている間、ハンはなんとなく部屋の外に出てみることにした。するとそこは、いくつかの簡易的な小屋が立ち並ぶ、主にハーフリングたちが暮らす小さな集落のようだった。しかし皆どこか活気がなく、かなり疲弊している様子。
怪我をしている人も多いし、やはり何かがあったのだろう。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんの名前はなぁに?」
突然、服を引っ張られる感覚と同時に声が聞こえた。視線を下へ向けると、その声の主はハーフリングの中でもひときわ小さな、そして少しぽっちゃりな男の子だった。その子はハンの顔を見つめもう一度続ける。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんの名前はなぁに?」
「お兄ちゃんはハンって言うんだ。君は?」
「ふーん。僕はボノボ。ねぇねぇ、なんでハンなの?」
「え、えっと、本当は叛沢って言うんだけど、劉備さんがニックネームを付けてくれて……」
「ふーん。」
聞いといてリアクション薄いな……!でもこの子なんだろ、ふわふわしてて可愛い。癒し系である。
「ボノボったら、ハンさんに興味があるのね。」
食事を持って戻ってきたグレースが微笑みながら声をかけてきた。
(あまり興味があるような反応ではなかったですが……!)
さらに一緒に食事を運んできたハーフリングの女の子が、続けて声をかけてくる。
「お口に合わなくても全部食べてくださいね!栄養たっぷりですから!」
「ふふふ、ハンさん劉備さん、こちらはベルです。いつも私たちの食事を作ってくれているんですよ。どれも美味しいのでぜひ食べてください!」
見た目は若いが、食堂のお母さん的な優しい雰囲気のある子だ。面倒見が良さそうで、見ていて少しホッとする。
「あ、ありがとうございます。大切にいただきます!!」
「ほう!これは素晴らしい。ベル殿、グレース殿、有り難く頂戴致す。」
ハンと劉備にとって、この世界へ来て初めての食事である。
芋のような穀物を蒸しすり潰したもの、山菜のスープ、焼き魚、決して多い量ではないが、どれも堪らなく美味しい料理だった。
「ご馳走様でした!!!!」
二人は目にも留まらぬスピードで完食してしまった。しばらく目を閉じ至福の余韻に浸っている。
「ふふふ、そんな急いで食べなくても。でもベルの料理は美味しいから仕方ないですね。」
グレースとベルは二人の食べっぷりを見て嬉しそうに笑っていた。
その時、何やら騒がしい声が集落中に響いた。
「グラさん!グラさん大丈夫かい!?」
急いで駆けつけると、群がる人の中でドワーフのグラッケンが倒れていた。
「ははは、大丈夫だ……。ちょっと傷が開いちまったみたいだな……。」
「グラさん!凄い血じゃない!だから安静にしててって言ったのに……。」
グレースが心配そうにグラッケンに声をかける。グラッケンの右足からは相当の量の血が流れていた。
その時、突然劉備の手の平で何かが発光し始めた。
「なんだ……?」
劉備自身も驚いたが、その光は劉備の手を離れグラッケンの傷口へと溶けるように入っていく。
「つっ……」
「劉備さん何を……?」
驚くグラッケンとグレース。しかしその瞬間、グラッケンの傷はみるみるうちに治癒されていった。
「なんてこった……。」
驚く一同。そして、まもなく歓声が上がった。
「す、すごい!奇跡の力だ!!」
「劉備さん!その力は……?」
ハンは劉備へ問いかけた。
「私にもわからないが、何かできないかとグラッケン殿を見ていたところ、突然温かい光が手に集まってきて……。私も驚いている……。」
これはチート能力というやつだろうか。
「劉備の旦那、良ければ他の怪我人も見てやってくれねぇだろうか。見ての通り、俺以外にも酷い怪我を負ってるのがたくさんいるんだ。」
グラッケンが必死に頼み込む。
「この力が何なのか、まだ扱い方もわからぬのだが、皆には世話になった。できる限りやってみよう。」
そうして、怪我を負ったハーフリングたちが劉備のもとへ集まり、一人一人傷を見ていくことになった。
片目に傷を負った者、片腕を失った者、足に傷を負い歩けない者など、怪我の具合は皆それぞれだったが、そのほとんどが鋭い何かで切りつけられたような傷だった。
劉備は感覚を頼りに少しずつ治療を進めていき、しばらく経った頃、その力をある程度自由に扱えるようになっていた。
治療中、グレースが何やら真剣な眼差しでその様子を見ていたのが印象的だったが、日が暮れた頃、劉備は怪我人全員の治療を終えたのだった。
「劉備さん大丈夫ですか?かなり消耗してるんじゃ……。」
ハンが心配そうに聞くが、劉備はそこまで疲れた様子はなかった。
「どういうわけか、私自身はそんなに消耗した気はしていなくてな。言葉で表すのは難しいのだが、自分ではない誰かの力を借りているような感覚なのだ。」
「だ、誰かの力、ですか……。」
その会話を聞いていたグレースが口を開いた。
「あの、これは憶測でしかないのですが……。あの力を見ていた感じ、おそらく劉備さん自身の魔力ではなく、外界の魔力を使っていたような気がして……。」
「外界の魔力……?」
ハンと劉備は何の話なのかさっぱりだった。
「おいおい、そりゃつまり『マナ』を使ってるってことか?」
グラッケンが驚いたように声を上げた。
「あの、その外界の魔力?とかマナ?とか、ちょっと詳しくご説明いただいても……?」
「そうですね、転生者のお二人にはその説明が必要ですよね。まず、この世界に生きるすべての生命体は、魔力をその身体に宿し誕生します。そしてその魔力を源として魔法やスキルなどを行使しますが、私たちの身体以外にも魔力は存在します。この大気中、魔力はそこらじゅうに存在していて、これを『マナ』と呼びます。同じ魔力と言えど、膨大な自然界のエネルギーとも言えるマナは、生物が持つそれとは規模や質がまるで違います。そして本来、私たち生物は"ある例外"を除いてこのマナに干渉することができません。」
「例外……?」
「精霊族です。この世のあらゆる力を司ると言われている精霊族は、唯一現存する種族の中でマナに干渉することができ、強力な魔法やスキルを行使できるのです。」
「ちょっと待ってください……。それってつまり……、」
その場にいた全員が劉備に視線を向ける。
「あくまで仮説ですが……、劉備さんはマナを使い治癒魔法を行使できた。つまり、あなたは精霊族なのではないでしょうか……?」