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第3話 秘境の島

 何もない海上には、波の音と鳥の声だけが響く。

 二人の漂流旅は、飲まず食わずのまま既に数日が経とうとしていた。



 「さすがにまずいですよね……これ。」

 頭痛は和らいだが、体力の限界だったハンは生気のない声で嘆くように問いかけた。

 小舟を選んだとき以来、鑑定の能力は発動されていない。


 劉備はしばらくジッと空や水面を眺め続け、ゆっくり口を開く。

 「天候に変化がありそうだ。それもかなり大きく……。」

 

 その言葉通り、まもなく濃い霧が周りを覆い尽くし、突然波が大きく荒れ始めた。

 「何が起きているんでしょうか!?」

 「私にもわからぬ……。ただ、今までいた海とは全く別物のような……。」


 みるみる波は大きくなり、嵐のような大雨が降り始めた。

 「なんなんだよこれ……!」


 二人は小舟にしがみつき、海へ放り出されないようなんとか耐え忍んでいた。

 しかし、激しく荒れ狂う波に小舟は耐えきれず大破、二人は深淵の大海へ飲み込まれてしまったのだった。


 「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」――――。




 ………………。


 ハンは心地の良い暖かな空気と、ほんのり漂う甘い花のような香りを感じ、ゆっくりと目を開ける。


 ……今度こそ、あの世か…………。


 すると目の前で、息が止まるほど美しく、透き通るような蒼い瞳がこちらを覗いている。


 「……わっ!!!!」

 「ご、ごめんなさい……!お気づきになられたのですね。」


 滑らかに輝く金色の髪に、きめ細やかな白い肌、吸い込まれそうな蒼い瞳、そして何より目がいくのは長く尖った耳、もう眩しすぎて全身が透き通っているようだ。

 ハンは静止し、しばらく目の前の女神に見惚れていた。


 「あ、あの……、大丈夫ですか?」

 「……あっ……!だ、大丈夫です……!こ、ここは、天国ですか……?」


 蒼い瞳の女神が首を傾げていると、部屋の奥から劉備がやってきた。

 「ハン殿寝ぼけているのか?ははは!しかし目が覚めてよかった。我々は彼女に救われたようだ。」


 どうやらハンと劉備は、海岸に打ち上げられ倒れていたらしい。そして彼女の住む集落に運ばれ、看病をしてもらっていたとのことだった。

 

 「本当に助かりました……。ありがとうございます。」

 「いえいえ、お二人がご無事でよかったです。しばらくゆっくりしていってくださいね。」


 すると突然、勢いよく少年が二人入ってきた。

 「グレース!人間が来たというのは本当か!?大丈夫なのか!?」

 「まさか吸血鬼(ヴァンパイア)たちにここが見つかったんじゃ……!?」


 「ホッパー、ヘンリー落ち着いて。大丈夫、この方々は悪い人たちじゃないわ。それに、あなた達もまだ安静にしていないと。」

 「グレースは誰に対しても無防備すぎるから心配なんだ。」

 その少年達は怪我しているように見える。二人はハンと劉備をチラチラと見ながら、少し不安そうな表情を浮かべている。


 突然やって来た見知らぬ奴らを警戒するのは当然だろう。しかしそうか、彼女はグレースというのか。覚えておこう。

 

 その後も続々と少年や少女たちがハンたちの様子を見にきては、何やら騒がしくしていった。しかし気になったのは、そのうちのほとんどが怪我をしていたことだった。


 「ごめんなさい……この島では人間は本当に珍しくて……、私も初めて見たくらいなので。」

 「ということは、やっぱり皆さんは人間では……?」

 「は、はい私はエルフで、あの賑やかにしているのは皆んなハーフリングです。」


 やっぱりそうか!北欧神話では端正な外見に聡明な種族として語られるエルフに、人間の半分ほどの大きさである小人種族として語られるハーフリング(この世界のハーフリングは半分ってほど小さくはないようだが。)ファンタジーでは聞き馴染みのある種族たちだ。

 

 「それにしても、お二人は何をしにこちらへ?」

 「あっ、実は僕たちも何が何やら……。」


 ハンはこちらの世界へ来てからのことを、順を追って全て話した――――。


 

 「……それで突然大嵐に襲われて海に放り出されまして、目が覚めたらこちらに……。」

 「大変だったのですね……。でも、ということはお二人は、転生者ということなんでしょうか。」

 

 グレースの口から『転生者』というワードが出たのには驚いた。


 「転生というのは、こちらでは一般的なことなんですか?」

 「あっいえ、稀にそういった方が存在すると本で読んだことがありますが、お会いするのは初めてですし、本当だったんだと正直ものすごく驚いています……。」

 

 ということは僕や劉備の他にも、この世界へ転生している人がいる可能性があるってことだ。

(劉備はハーフリングたちとすでに意気投合し、何やら楽しそうに盛り上がっている……、さすが劉備玄徳。)


 「そうか、あんたらは転生者だったか。」

 するとそこへまた一人、白髪・白髭のおじさんが現れ声をかけてきた。


 「グラさん!?もう起きて大丈夫なの?」

 「大丈夫だよグレース。俺はドワーフのグラッケンだ、よろしく頼む。」


 おー!今度はドワーフ!味のある渋いおじさんだ。しかしなぜ皆んな怪我をしているんだ?

 

 「あ、あの……、答えられる範囲でいいのですが、どうして皆さん怪我をされているんでしょうか?」

 「あぁ、まあその辺の話はまた後でさせてもらうよ。目が覚めたばかりだってのにすまなかったな。ホッパーたちが騒ぐもんだから、ちょっと挨拶に来たんだが。とりあえずあんたらは何か食ったほうがいい。特に坊主、顔色ひっでぇぞ?」


 言われてみれば、この世界に来てからまだ何も食べていなかった。グラッケンに促され、グレースが食べ物を取りに立ち上がった。


 「あ、あのグレースさん……!」

 「どうされました?」

 「えっと、何から何まで、本当にありがとうございます……!」

 「もうお礼なんていいですから、楽にしていてください。ふふふ。」


 ハンは少し顔を赤らめ、部屋から出ていくグレースを見つめていた。その様子を見ていた劉備が、ニヤニヤしながら口を開く。

 「ほう、ハン殿。其方も隅には置けぬな?ははは!」

 「なっ……!そ、そういうんじゃないですよ……!!」


 

 しかしこの後、グレースやグラッケンたちが窮地に陥っていることを、劉備とハンは知ることになるのだった――――。



キャラデザ出来てるのでどうにか公開します。

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