第22話 劉備 VS ルナール
「なんだ!?」
動揺するルナール。
「劉備さんすごい……。今何をしたんでしょう?」
ハンたちも驚きを隠せずにいる。
「今のはあの時と一緒だな……。」
シェリカがそっと呟く。
「私が大将と一騎討ちをした時、確かに私の攻撃は当たったと思った……。だけどその瞬間、強い力で弾かれ大きな爆風が巻き起こったんだ。今のはだいぶ抑えていたようだが。」
「……攻撃が当たる瞬間に、体内から魔力を放出している?」
シェリカの話からハンがそう推測する。
「ああ、おそらくな。その放出する魔力量によって、ただ弾くか激しいカウンターを繰り出すか、威力をコントロールしているんだろうよ。」
動揺しながらもルナールは何度も攻撃を繰り出すが、ことごとく弾かれてしまった。
「なんだと言うのだ……?こやつ何をしている?」
その直後ルナールは火魔法を繰り出す。
「青炎大吐息!!」
しかしこれも劉備の周りだけ魔法が弾かれ、全て流されてしまう。
「そういえば、其方もマナを扱うと言うのは本当か?あのシレノスの手を吹き飛ばすほどの威力とか。」
劉備が興味津々に問いかける。
「"も"、だと?下等な人間が軽々しく……。誇り高き天狐の末裔、我ら妖狐だから許される神聖な力だ。今では私しか扱えんがな。」
「うむ、ではその攻撃を私が止めて見せよう。」
「死にたいようだな。後悔するがいい……。」
そうしてルナールはマナを溜め始める。
「あの攻撃は……?」
「精霊族にしか出来ないという、マナを利用した攻撃です……。なんでも妖狐族は、かつて存在したという精霊族の一種、天狐族の末裔だそうで、稀にマナに干渉できる個体が生まれるそうです。」
セレーヌがハンの言葉に答える。
「劉備様以外にマナに干渉できる方がいるなんて……。」
グレースも驚いたように戦いを見つめていた。
「いくぞ人間……。貴様の力を示してみよ!!これこそ、この私が天狐の末裔たる所以、マナ砲!!!!」
ルナールから高密度のマナの塊が放出され、地面を抉りながら劉備へ一直線に向かっていく。
「あれはまずい……!」
「さすがの劉備様でも……!!」
皆が瞬間的に不安を感じた瞬間だった。
劉備は初めて剣を抜き、マナの塊を真っ二つに叩き切った。
「…………は?」
切られたマナ砲は劉備の背後上空で爆発、その爆風に乗るかのように目にも留まらぬスピードで移動し、一瞬にしてルナールの真横に立った。
「……な……?」
いまだ動揺して状況を飲み込めないルナールの背中へ、劉備はそっと手を乗せ言葉を放った。
「後で回復させるのでな、しばし辛抱してくれ。」
そう言い放った瞬間、劉備の手のひらで小さな光の玉が発現した。
「マナ……だと……?」
「天からの罰則!」
小さな光の玉がルナールの全身を覆い、そのまま身体へ大きな振動を与えると同時に、地面へと激しく叩きつけた。
「ぐあっ……………………!!!!」
大きな爆音と共に爆煙が立ちこめる。
「き、貴様……、何者だ……?なぜ、マナを……」
ルナールはそう呟き意識を失ってしまった。
「うむ、まだ力の加減が難しいな……。こりゃいかん。」
劉備は急ぎその場で治癒魔法を施した。
「おい……、あれが光魔法ってやつなのか……?」
「いつの間にあんな……。」
劉備の成長に皆が驚き、言葉を失っていた。
「怪我の方は大丈夫だが、目が覚めるまではしばらくかかるだろう。医務室へ運んでやってくれ。」
「はっ!」
突如として始まった決闘は、劉備の圧倒的な勝利で終わった。
ルナールが目を覚ましたのは、翌日の朝だった。
「こ、ここは……?」
「目が覚めましたかルナールさん。」
グレースが劉備を呼びに立ち上がる。
「もう暴れるなよ?こっちはもう争う気はないんだ。」
シェリカが呆れたように声をかける。そこにはホッパーやケイロン、シレノスが厳重に見張っている。
「……そんな気は失せた。あんな力を見せられてはな。」
ルナールが少し力のない声で呟く。
「何者なのだ……?あの人間は。いや、人間にマナを扱うことができるはずはない。気味の悪い男だ。」
「あははは!確かに変な奴ってのは同意だな。」
シェリカが笑いながら言う。
「だが強い。強く温かいお方だ。」
ケイロンがそっと捕捉するように言った。
「貴様たちが奴に従うのは、やはり奴が強いからだろう?」
ルナールが確認するように言うと、その場にいる全員が目を合わせ笑い始める。
「な、何がおかしい?」
「強いからじゃないさ。たしかにここにいる私たちも、どうやったって敵わなかった。だがただの一度も、あいつは"従え"とは言わなかったんだ。」
「我らがここにいるのは、あの方に負けたからじゃない。あの方に魅せられたからだ。」
シェリカとシレノスが言う。
「ふんっ、イマイチわからぬな……。」
「でも君も、もう劉備様のことが気になり始めているんじゃない?」
「たしかにな!!あははは!!」
「な……、貴様ら……!!」
ホッパーの一言で笑いに包まれた。
「ほう?何やら楽しそうだな?」
グレースに呼ばれた劉備が部屋へ入ってきた。
「なんでもねーよ!ちょっとアンタの悪口を言ってたんだ!あははは!」
「おいおいそりゃ酷いな?これでも君主のはずだが?」
シェリカと劉備の会話でまた笑いが起きる。
その様子を、ルナールは黙って見つめていた。