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第2話 剣と魔法と英雄

 目の前にいる青年は、確かにそう名乗った。自分が 『劉備玄徳』 であると。


 「ちゅ……?び……?げん?…… ごちゃごちゃとした名前だな……。」

 独特なその名乗りに男はポカンとしていた。


 馴染みのない人間からすれば当然の反応だろう。

 しかし、異世界へ転生した上に、目の前にあの三国志の英雄 劉備玄徳……?いや……もう何が起きても不思議ではないか……。


 秀一郎は目の前で巻き起こる状況を飲み込もうと必死だった。


 「まあどうでもいい。邪魔をするなら貴様も殺す、それだけだ。」

 男はゆっくりとこちらへ歩き始めた。


 「に、逃げないとまずいです……!」

 

 「うむ、では童よ。私が合図を出したら海の方へ迷わず走るのだ。絶対に振り向くでないぞ。」

 劉備はそう言いながら、倒れている兵士の(しかばね)から剣を2本拾い上げた。


 まさか戦うつもりなのか……?いくら劉備でも無茶だ、相手は魔法を使うんだぞ……?


 「ほう、向かってくるか。」

 男はまた赤い光を手の上に発現させ始める。


 劉備が剣を構える。

 「では行くぞ。」

 「ふぇっはっ……はい!」

 「3、2、1……」

 

 もうどうにでもなれ……!!!

 

 

 「今だ!!」

 劉備が男へ向かって真っ正面から突っ込んでいく。それと同時に秀一郎も海の方向へ全速力で走り始めた。

 

 「ふっ、ガキを逃がすつもりか。」

 男は赤い光を秀一郎の方へ放とうとした。

 その瞬間、劉備が1本の剣を男目掛けて鋭く投げつける。


 「ちっ……」

 男は秀一郎への攻撃を即座に止め、飛んでくる剣を避けた。

 その一瞬の隙に間合いを一気に詰める劉備。

 

 「速っ……!?」

 思っていたより素早い劉備の動きに少し動揺しながらも、男も手に発現させた赤い光を、殴るように直接劉備へ繰り出す。

 

 紙一重の一手だった。

 ギリギリのところで男の攻撃を避け、空いた脇腹へ劉備は迷わず切り込んだ。

 「ぐぁ……!!」

 

 男は倒れ込んだ。

 「最初から……攻撃を狙っていたのか……」


 「すまないが殺しはせぬゆえ、これ以上追わないでもらえると有難い。」

 「調子に……乗るなよ……。ぐっ……。」


 

 秀一郎は劉備のことを心配しながらも、がむしゃらに走っていた。

 しかしそんな心配をよそに、すぐに背後から声が聞こえた。


 「童よ、このまま海へ向かって走るぞ。」

 「わっ!りゅ、劉備さん!?えっ、倒しちゃったんですか!?」

 「運が良かったようだ、ははは!」


 さすが劉備玄徳だ!!剣で魔法使いを倒すなんて……!


 秀一郎は劉備の姿を再度見たとき、自分が少し安心していることに気が付いた。


 「童よ、そろそろ海が見えてきたぞ。」

 「は、叛沢(はんざわ) 秀一郎です!ぼ、僕の名前!」

 「そうか、まだ名を聞いていなかったな。失礼した。はん?しゅ、しゅ~……ろ、すまない、ハンでもよいか?」

 「あっ、だ、大丈夫です!ハンで!」


 僕の名前は覚えにくかったようだ。しかし今は、あの劉備玄徳にあだ名をつけられたことを喜ぶとしよう……。『ハン』、ちょっと格好いい……!

 

 「ハン殿、海岸に小舟が何隻かあるようだ。あれでここから距離を取ろう。敵だらけのこの更地より、まだ逃げやすいはずだ。」

 「わかりました!」

 

 二人が小舟へと辿り着いた頃、ハンは強い頭痛に襲われていた。

 「ぐっ……!」

 

 「どうしたハン殿?」

 「少し前から頭が痛くて……」

 実は微かな頭痛をしばらく前から感じていた。ちょっとした偏頭痛だろうと思っていたが、何かが視界に入るたびに痛みは強くなっていくようだった。


 「船に乗ったら少し休むといい。」

 劉備が目の前の小舟に乗り込もうとした時、ハンの視界に突如文字が浮かび上がった。



 ・小舟

 材質:木(腐敗)

 状態:劣悪

 定員:1~2名

 


 なんだこれ!?

 視界を動かしても、浮かび上がった文字は小舟に固定されたように動かない。


 「ハン殿どうしたと言うのだ?早くここから離れなければ。」

 「待ってください……!あの、なんと言うか……、他のにしませんか?」

 ハンの言葉に少し戸惑う劉備だったが、これを了承し小舟を降りた。


 おそらくこれは、いわゆる「鑑定」というやつだろうか。

 なんとなく雑な情報だけど、ここまではっきり文字が見えると無視はできない……。


 「どれがよいのだハン殿?」

 ハンは痛む頭を抱えながら、別の小舟に目をやった。



 ・小舟

 材質:木(腐敗)

 状態:超劣悪

 定員:0名

 


 定員0ってなんだよ!!

 

 その後も何隻か確認したが、まともに乗れそうなものが見つからない。

 焦り始めていた時、ひときわ小ぶりな一隻が視界に入った。

 「これが最後か……。」

 


 ・小舟

 材質:サイプの木(軽い上に腐りにくい、耐久性に優れた上質な樹木)

 状態:良好

 定員:2名



 これだ!!


 「劉備さんお待たせしました。これにしましょう!」

 「この小さいのであるか? ……わかった、其方を信じよう。」

 

 二人は小舟に乗り込み、しばらく陸から離れた頃だった。


 「いたぞ~!!あの船だ!!」

 数人の追手が海岸まで来ていた。劉備に切り伏せられた男が、後を追うよう命令していたようだ。

 

 「絶対に逃すなよ!皆の者、一斉に爆撃魔法の準備だ!」

 そう掛け声があった直後、海岸に複数の赤い光が発現した。


 「放て!!」

 一斉に赤い光の玉が劉備たちの方へ迫ってきた。


 船の周りで次々と爆発が巻き起こり水飛沫が上がる。


 「うわぉぉぉぉ……!!!!」

 爆発により起きた波が襲いかかり、小舟は何度も宙を舞った。しかしそのおかげか、ものすごい勢いで前進もしていた。

 

 「おい!何をしている!当たってないどころかどんどん離れていってるぞ!」

 焦り始めた追手たちは海岸にあった小舟に乗り込み、沖へと漕ぎ始めた。

 

 「おいなんだこのボロ船は!くそ!!!」

 陸を離れてほんの数分後、その小舟は次々と崩壊し始め、間も無く追手たちを海へと放り出した。


 「もう大丈夫そうですね。」

 「すごいではないかハン殿。まさか船の目利きに明るかったとは。あっぱれだ!」

 「い、いえ……。」


 

 こうして劉備とハンは陸から目視できないところまで離れ、追手から逃れることに成功したのだった。

 今は無事逃げられたことと、英雄劉備に褒められたことを喜ぶとしよう。


 二人はホッとひと息をつき、果てなき水平線を見つめていた。

 


次回からファンタジーキャラが登場いたします〜。

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