第19話 妖狐の誇り
「軍を分断して、妖狐・魔河童、両種族を同時に討つというのはどうでしょう?今の我々の戦力なら、それが最も迅速かつ効率的に戦えると思います。」
「うむ、こちらの隙を見せることなく、万が一にも2種族の連携をも取らせないと言うわけだな。」
自分に聞く前から劉備も同じことを考えていたのだろうと、ハンは劉備の表情から察していた。
「それでは早速、妖狐と魔河童それぞれへ攻め入る部隊を振り分け、編成していこう。」
間も無く、以下のように部隊が振り分けられた。
対妖狐族 シレノス隊
総大将:シレノス
副官:セレーヌ
第一部隊長:ヘンリー
第二部隊長:ヒューゴ
第三部隊長:ホイットニー
第四部隊長:ハイル
対魔河童族 シェリカ隊
総大将:シェリカ 補佐:ハン
副官:ホッパー
第一部隊長:サラ
第二部隊長:ハンナ
第三部隊長:ピノ
第四部隊長:ポロス
それぞれの部隊には各種族混合の戦闘員たちに加え、新入りのゴブリンたちも編成されている。
またシレノスから推薦があり、ポロスという半人半馬族の最若手を第四部隊長として任命している。なんとシレノスの実の息子で、その戦闘センスはやはり血筋を感じさせる。しかし性格は礼儀正しく真面目で、内面では父の要素を一切引き継いでいないようである。
シェリカの補佐にハンが入ったのは、ハン本人の希望である。魔河童はどんな攻め方をしてくるかわからないため、同行したいとのことだった。
「其方たちなら難なく完遂できるだろう。無事に勝利し、共に北へ向かおうではないか!全軍出陣だ!!!」
「おぉぉぉぉぉ!!!!」
劉備の掛け声により、両隊はそれぞれの目的地へと進軍を開始した――――。
まずシレノス隊が妖狐族の支配する地へと辿り着いた。
妖狐たちは匂いでこちらの動きを感じ取っていたようで、すでに臨戦体勢で待ち構えていた。
「ほう、やる気満々であるな!ガハハハハハハ!!!!」
シレノスが大きな笑い声を上げる。
「ハーフリング如きに敗れ、終いにはその軍門へ降るとは。獣人も半人半馬も落ちたものだな。」
そう返答をしたのは妖狐族長ルナールである。
「随分言ってくれますわねぇ。私たちは共に戦い抜くと誓ったのです。あなたたちもいつまでも野良犬なんてしていないで、こちらへいらしたらどうかしら?」
セレーヌが微笑みながら煽り返す。
「ふん、減らず口が。あの怪力姫はいないようだが、容赦はせぬぞ?」
「あら姉さんに会いたかったのかしら。申し訳ないのだけれど、今日は私で我慢してくださる?」
「いつまでもふざけよって……。」
そうしてルナールはヘンリーたちに視線を向けた。
「ほう、貴様らか。あれだけ痛ぶってやったというのに、またノコノコと。」
「どうとでも言えよ。あの日の礼をたっぷりしてやる……。シレノスさん、前衛は俺たちが行かせてもらうぜ。」
ヘンリーがそう言うと、ヒューゴ、ホイットニー、ハイル、その他のハーフリングたちが前へ出る。
「ガハハハ!良かろう!しっかりと借りを返してこい。背中は任せておけ!」
「舐められたものだな……。お前たち!今日の獲物だ!一匹残らず喰らい尽くしてしまえ!!!」
ルナールの声掛けにより、妖狐たちが雄叫びをあげ一斉に飛びかかってくる。
「行くぞお前ら!」
ヘンリーの声掛けでハーフリングたちが走り出し、妖狐の前衛と激突する。
「うおぉぉぉぉ!!!」
「!?……なんだこの力は?」
ルナールは、自分たちが明らかに力負けして押されていることに驚いた。
「あれだけ力の差は歴然だったと言うのに、この短期間で何があったと言うのだ……?」
ハーフリングたちの猛攻で妖狐たちは徐々に数を減らされていく。
「いっちょ試すか。よっ。」
ヘンリーの剣が雷を纏い、耳に突き刺さるような甲高い音を響かせる。
シェリカから手ほどきをしてもらった新しい雷魔法である。
「雷鳴斬波!!」
ヘンリーが剣を振り下ろすと、雷撃が一直線に妖狐たちを襲う。
「下がるな!!一斉に火魔法だ!青炎吐息!!」
妖狐たちの火魔法が前衛のハーフリングたちに降り注ぐ。
「俺がいく。……大滝天罰!!」
「ぐぁぁぁぁ……!!」
ヒューゴの水魔法により、火魔法を放つ妖狐たちの頭上から滝の如く水が叩き落とされる。
「俺も負けてられないなぁ。よーし、竜巻斬!!」
続いてホイットニーの剣捌きにより、竜巻のように妖狐たちを宙へ巻き上げる。
「ホイットニーさん目立とうとしてます?なんか嫌だなぁ。泥濘大地獄!!」
ハイルが地面に片手を置くと、妖狐数十頭の足元が一気に泥濘へと変化し、首元まで身体を飲み込んでいく。
「ハイルちゃん、俺に一言言わないと魔法使えないのかな……?」
「やるではないか貴様ら!ガハハハ!!!」
「シレノスさん、笑っていないで私たちも前衛を抜けてきた敵を一掃しましょう?」
「ガハハ!では参るか!!皆の者!こちらへ抜けてきた敵を殲滅しつつ、ヘンリーたち前衛を援護する!!行くぞ!!!」
シレノス隊とセレーヌ隊が後ろから猛援護を開始し、妖狐たちは下がらざるを得なくなっていた。
「なんて強さだ……。ハーフリングたちだけではない。獣人や半人半馬まで、以前の奴らとは別物ではないか……。」
妖狐たちはその明らかな戦力差に気づき、戦意を失い始めていた。
「狼狽えるな!!最後まで喰らいつくのだ!!!私たちは誇り高き妖狐族であるぞ!!!」
「…………。」
「…………恥を知れ!!」
自分の声に反応しなくなった妖狐たちを見兼ね、ルナールは単身で総大将シレノスを討つ覚悟をする。
驚異的な身のこなしとスピードで前衛をすり抜け、あっという間にシレノスを直線上で捉えた。
「妖狐を舐めるなぁぁぁ!!!!!」
「族長ルナール!敵ながらあっぱれ!!誠心誠意討ち伏せよう!!!」
シレノスへ真っ向から飛びつくルナール。
しかし、力の差は明白だった。
シレノスの槍がルナールの脇腹を切り裂き、ルナールは宙を舞い、間も無く地へ叩きつけられた。
「ぐはっ…………!」
「妖狐族長ルナール、このシレノスが討ち取ったぁぁぁ!!!」
シレノスのその叫び声により、全員が戦いを止めた。
「……ま、まだ……、終わっていない…………。」
「!?」
血まみれのルナールが足を震わせながら立ち上がり、シレノスを睨みつける。
「我は……、誇り高き"天狐"の末裔……。その真髄を見せてやろう……。」
ルナールはそう呟き、全身に力を込める。
「天狐だと……?かつて存在したという、聖霊族の一種……。」
シレノスはその名に覚えがあったが、まだ理解が追い付いてはいなかった。
「もしそれが本当なら……、シレノスさん離れてください!!!」
セレーヌには嫌な予感が走っていた。
「逃がさん……。我に本気を出させたこと、あの世で悔いるがいい。…………マナ砲!!!!」
ルナールの口から高密度のエネルギーが放出され、シレノスは咄嗟に槍でこれを受け止めた。
その瞬間、近くにいた者たちが吹き飛ぶくらいの爆風が巻き起こる。
「シレノスさん……!!!」――――。
「…………やはり、敵ながらあっぱれであるな……。ガハハハ……。」
爆煙の中から立ったままのシレノスが現れる。
「よかった……、シレノスさんご無事で……、」
「んだよおっさん!大丈夫そう……、」
セレーヌとヘンリーが駆け寄ると、そこには右手首から先を失ったシレノスが、傷だらけで笑っていた。