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第18話 北上への足掛かり

 劉備は丘の上から村の様子を眺めていた。

 初めてここへ流れ着いた時とは比べ物にならないほどの規模、文明を持った土地となった。

 もちろん皆の力があってこそだが、やはりハンという少年の持つ知識や才覚に、劉備は何度も驚かされた。そんなことを考えながら、ふと孔明のことを思い出していた。


 「劉備さん!やっぱりここにいらっしゃったんですね。」

 ハンが丘を登りながら声をかけてきた。


 「おぉ、ハンか。ここからの景色が好きでな。」

 いつからか劉備はハンのことを呼び捨てするようになっていた。ハンは相変わらず"さん"付けである。


 少しの沈黙の後、ハンが口を開いた。

 「いよいよ、ですか?」


 「……うむ。土地の開拓が進み、内政も整ってきた。拠点としての準備は充分に成ったと言っていいだろう。そろそろ近隣勢力を取り込みにかかりたいところだ。」

 ついに北上への足掛かりとして、この南側の地域を一気に手中に収めるということだ。


 「そうですね。本当に皆さん頑張って、普通ではあり得ないほどの速度でここまで発展しました。今の僕らなら何でも成し遂げられる気がします。」

 「ははは!少し前の其方からは考えられない強気な言葉であるな!」

 劉備が大きく笑い声を上げた。


 「ちょっ……!からかわないでくださいよ!」

 「すまぬすまぬ。だがハンよ、其方も本当に強く立派になってきた。頼もしく思うぞ。」

 

 「劉備さん……。」

 そんな劉備からの何気ない一言に、ハンは少し込み上げるものを感じていた。


 「そ、そういえば、そろそろ軍議を開く頃かなと思って、皆さんにいつでも集まれるよう準備をしていただいています。」

 溢れそうになった気持ちを何とか押し込めて、ハンは言葉を繋いだ。


 「そうか。では、このあと集まるよう伝えてくれるか?私もすぐに参ろう。」

 「承知いたしました。」


 そうして間も無く、劉備陣営の軍議が開かれることとなった――――。

 

 

 新たに設けられた会合用の建物へ、各種族のトップや幹部たちが集められた。

 

 「皆、集まってくれて感謝する。いよいよこれより、北上していくための本格的な下準備に入るため、今の状況や今後の動きについて話していきたい。ではハン、詳しい状況説明を頼む。」

 「はい。ピノさんから報告があった情報と合わせて、こちらの地図を見ながらお話ししますのでご覧ください。」


 卓上に島南側が記された大きな地図が広げられた。

 

 「我々は現在、島の最南部全域を支配下に置いています。ここから北上するためには、まず北側中央に縄張りを構える妖狐(テウメッサ)族、その先東側の魔河童(リバーインプ)族、そして南側最大の勢力であるゴブリン(きょう)を抜ける必要があります。ゴブリン郷は元々ゴブリンたちが平和に暮らしていた小さな里だったようですが、数年前に突如ゴブリンキングと名乗る個体が現れ、今ではかなりの数のゴブリン・ホブゴブリン・トロールまでもが誕生し、支配地域を拡大しているようです。」


 「ここへ逃げ込んできたゴブリンたちは、そのゴブリンキングが誕生する前からゴブリン郷で暮らしていた者たちのようですが、次々に強力な個体が誕生したことで元からいた彼らは虐げられていたそうです……。」

 移住してきた者たちを面談していたセレーヌが、ゴブリンたちから直接聞いたようだ。


 「いずれにしても、北上する上で避けては通れぬ敵ということだな。だがまずは妖狐族、魔河童族、彼らをどう攻めるかだな。」

 劉備がそう言うとハーフリングたちの表情が少し変わったようだった。彼らと妖狐族との間には、過去に大打撃を与えられた因縁があるのだ。


 「両族とも数は多くないですが、一個体が確かな実力を持つ強力な戦闘種族ですぞ。特に妖狐には一時期手を焼いていました……。」

 ケイロン曰く、妖狐族は気性が荒く手当たり次第に周辺勢力へ喧嘩を売っていたらしい。ゴブリン郷が目立つようになってからは、良くも悪くも、そちらへ気を取られたのか以前のような無差別攻撃はしなくなったらしいが。


 「それで言うと私らも妖狐とは何度もやり合ってる。まあ負けたことはないがな!ははは!」

 シェリカが大きく笑い声を上げた。

 「……勝ったとも言えないけど……。」

 「こらサラ!余計なことは言わなくていいんだよ!」


 「もう2人ったら……。妖狐も手強いですが、魔河童も悪知恵が働く厄介な者たちだと聞いています。最近では吸血鬼(ヴァンパイア)族とも裏で繋がっており、自分たちの保身を条件に他種族の情報を横流しにしたり、中には奴隷として上納された者たちもいるとか……。とにかく目的のためなら何でもする、卑劣で狡猾(こうかつ)な者たちだという噂です。しかしその姿を表に晒すことは滅多になく、その真相は謎に包まれています……。」

 

 セレーヌの話が事実なら、注意して相手にしなければならない。もうすでにこちらの動きを察知し、何か餌を撒いている可能性もあるだろう。早いうちに討つべきか、慎重になるべきか、劉備は戦略について考えていた。


 「ハン、其方ならどう攻める?」

 劉備がハンに問う。


 少しの沈黙のあと、ハンは口を開いた。


 「軍を分断して、妖狐・魔河童、両種族を同時に討つというのはどうでしょう?今の我々の戦力なら、それが最も迅速かつ効率的に戦えると思います。」


 皆ハンの言葉に頷きながら聞き入る中、劉備が一瞬微笑んだように見えた。


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