第17話 移民と発展
近頃、劉備たちの勢力は島内で噂になってきているらしい。
南側で暴れ回りその名を轟かせていた獣人族に加え、南西側で広い縄張りを有していた半人半馬族までもが、半壊の弱小勢力であったハーフリングと手を組んだのだから仕方ないだろう。
北側の勢力と比べるとその規模はまだまだ小さいものだが、この南側では最大勢力の一角を担いつつある。
そのためか、近頃ではこの村への受け入れを希望する者たちが後を経たなくなっている。
かつてホッパーたちと逸れてしまい彷徨っていたというハーフリングの生き残りを始め、島の各地に生息しているゴブリンの群れ(複数)や、森の妖精と呼ばれるコロポックンという手のひらサイズの種族など、かなりの数が立て続けにやってきた。
ハンナとセレーヌを中心に移住希望者の対応をお願いしている。どこの馬の骨が来るかもわからないので、しっかり話を聞くことができる上に、最悪の場合は力でねじ伏せられるという人選だ。
「はい静かにちゃんと並んで!一人一人話を聞くので!ほらそこ!聞いてんの!?」
「言うこと聞いてくれないと"お仕置き"しちゃいますからね♡」
今のところねじ伏せられたものは幸い(?)いないようである。
共生する上で害や問題はないかなどをチェックするため希望者との面談を実施。問題がなければ少し離れた隔離地域での生活をしてもらう、トライアル期間も設けた。
今のところ問題のある者たちはおらず、それどころか村での仕事を率先して行い、暮らしにも馴染んできているようだ。
これにより村の人口は大きく膨れ上がり、発展のスピードも向上してきている。
人手が増えたことで、それぞれの役割も再度チェックしていくことにした。
まずは住居について。住人が増えたことで家もさらにたくさん必要になった。引き続きグラッケンに指揮を執ってもらっているが、すでに職人たちが育ってきていて、現場仕事はほぼ任せているようだ。多種族の者たちが混ざり合い、共に汗を流している姿はとても美しいものである。
そのためグラッケンは本業の武具・防具の鍛治仕事に時間を割けているようで、最近とても活き活きとしている。
続いて衣類について。こちらも引き続きグレースとフウに監修をしてもらうが、おもに各種族の女性陣たちが腕を振るってくれている。こちらもすでに十分な数の人手が育っているようだが、グレースもフウも作業が好きなようで今でも中心で制作をしている。最近では役割ごとのユニフォームをデザインするのに凝っているとか。
そして食糧について。農業に関してはすでにハンの手を離れ、パトリオットを中心に執り行われている。品種改良にも日々取り組んでおり、収穫できる作物の種類はさらに増えているようだ。
漁業や狩猟においては、ハン考案の漁船や罠を駆使し、安定した成果を維持している。半人半馬が暮らしていた土地まで生活区域が広がったことも大きかったようだ。
料理に関しても引き続きベルを中心に担当してもらっているが、ハンから少しずつ現世の料理文化を伝授している。ハンも作った経験はないため、いつか読んだ本での知識を引用している。
最近では、前世での劉備の臣下である諸葛亮 孔明が考案したとされる、肉まんの開発をできないか考えている。限りなく麦に近い穀物を複数発見できたため、あとは少し改良を加えて栽培できれば近い将来実現できるかもしれない。
小麦や大麦のような穀類が自由に栽培可能となれば、麦酒の醸造や粉物B級グルメなども夢ではない。
この村の食文化が大いに発展すること間違いなしである。
これは余談だが、ハンが醸造していた果実酒は安定した品質へと達し、今では村の酒好きに愛飲され始めた。グラッケンが活き活きしているのはそのせいもあるかも?
林業や鉱業においても、作業できる土地が広がったことで今まで以上に充実した結果を出している。また、最近移り住んできたコロポックンたちがとにかく森の状況に詳しく、あらゆる素材の採取効率が著しく上がっているらしい。そのほかのマンパワーといい、移民万々歳である。
新たな役割としては、村の治安を維持するための警備隊が発足された。
ヘンリーを隊長、ホイットニーを副長に任命し、おもに内部のパトロール、そして隠密との連携をとりながら迅速に守備の指揮を執る役割である。
隠密というとピノの配下を増員し、より広い範囲の情報を得ることができるようになった。今では北の情報も少しずつ収集している。
当然、戦いに備えた戦闘訓練も怠ってはいけない。戦闘要員もかなり増えたため、新人たちに向けたカリキュラムを組み直した。
今ではシェリカと半人半馬の猛者シレノスが二人で地獄の訓練を行ってくれている。劉備やハンから戦略や兵法についても日々伝えているところではあるが、"基本は体力!"、スパルタ2人組がそう豪語しているらしい。変なところで変な歯車が噛み合ってしまったようだ。
皆それぞれ村での仕事に従事しているため、日替わりで訓練に参加している。
とにかくほぼ全分野において、劉備たちの村は大きく発展を遂げている。
そろそろ南側を取りに動くタイミングが来たのかもしれない。