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第15話 死の疫病

 目を覚ました半人半馬(ケンタウロス)たちの元へ劉備が話をしにやってきた。

 ケイロンを含む全員が大人しく目を伏せている。


 「其方(そなた)がケイロンか。私は劉備玄徳と申す。訳あってハーフリングや獣人たちと共に戦っている、人間である。」

 ケイロンは一瞬反応したように見えたが、変わらず目を伏せたままだ。


 「今回の侵攻の経緯について、また其方らが抱えていたその病についても、合わせて聞かせてもらえないだろうか。」

 その言葉で初めてケイロンが顔を上げ、驚いた表情で口を開いた。

 「我々の病のことをご存知なのか……?いや、それより……、疫病は……?」

 どうやら自分たちの身体がすでに治療されたことに、まだ気づいていないようだった。


 「その病により其方たちは意識がないようであったのでな、こちらで治療させてもらった。おそらくもう何ともないはずだが。」

 劉備の言葉と、実際に感じている身体の軽さによって、半人半馬(ケンタウロス)たちはやっと状況が理解できたようだった。


 「この病を……、我々を救ってくれるお方がいられるとは…………。半人半馬(ケンタウロス)族長ケイロン、一族を代表して心から深く感謝申し上げます……。」

 ケイロンを筆頭に全員が深くその場に頭を下げた。噂以上の丁寧な振る舞いに、皆は何も言わずその場を見つめていた。


 「礼など必要ない。何があったのか、ぜひ聞かせていただけないだろうか。」

 「承知いたしました。順を追ってお話しいたします。」


 それからケイロンが経緯を説明し始めた。


 数ヶ月前、縄張りの見回りから戻った者が間も無く謎の病に倒れ、その症状は瞬く間に一族全体へと広まっていった。すぐに一族をあげて疫病の治療、ならびに原因解明へ向けて動き出したが、間も無く数体の半人半馬(ケンタウロス)が命を落とし、事態は悪化していく一方だった。

 そしてついにケイロン自身も感染し、なす術もなく追い込まれていたところ、一族の者から東に発展した村が突然現れたと報告があり調べ始めた。するとそこでは驚くほど文明が発達していることを知ったそうだ。


 複数の作物を意図的に安定した周期で収穫。また住民たちは見慣れない素材や色の着衣で着飾り、住居も暮らす者に合わせ一軒一軒丁寧に建てられている。何より、病気や怪我をした者を治療する様子を目撃し、ここなら疫病をどうにかできる技術を持っているのでは、と考えていたらしい。

 

 「……しかし感染した一族の者たちが次々と自我を失い始め、情けないことにこの私も……。そして気がつけばこちらに……。以上が事の顛末でございます。」

 ケイロンは話を終え、俯きながら大きく息を吐いた。


 「しかしその疫病とやら、一度調査をする必要がありそうだな。」

 劉備がそう言った時、ケイロンが覚悟をしたような表情で話し始める。

 

 「まさかこのような形で、他勢力に迷惑をかけることになるとは……、今までも不要な戦いは避けてきたばかりに、情けない限りです……。いずれにしても、私の命1つでどうか一族の者たちはお許しいただけないでしょうか……。敗れた身で説得力はないかもしれませんが、戦いに優れ、頭の切れる者たちです。きっとお役に立つと思います。」


 ケイロンはどうやら、仲間たちへの処遇を緩和するよう()うているようだ。攻め込んだ末に敗れ、捕らえられたのだから当然と言えば当然である。しかし無論、劉備はそのつもりはなかった。


 「ケイロン殿。其方らの今後についてだが、どうだろう。我々と共に戦ってはくれぬか?もちろん無理に従えと言っているのではない。あくまで対等な共闘・共存ということだ。」


 ケイロンは劉備の言葉に、口を開いたまま固まっていた。全く想定していなかった言葉だったのだろう。

 「そ、それはつまり、我々には何の罰もなく……、いやそれでは話がうまくいき過ぎている……。何か、とても複雑なことを……、いや、ん……?どういう……。」


 ケイロンはかなり動揺しているようだった。


 「ケイロン殿落ち着いてくれ。難しく考えずに、言葉のままを受け取ってほしい。我々と共に、この島で戦い抜こうではないか。」


 「…………我々を断罪しないと言われるか。こちらの事情で戦いを挑み、我々は敗れた。強者が弱者を力で従わせるのが、この世の摂理ではないのか……。」


 「たしかに多くがそうなのかもしれない。しかし私は、それが正しいとは思わない。本当の"強者"とは、皆の想いをも背負い、守るために戦える者のことだ。力が強かろうが弱かろうが、手を取り合い、互いを思い合う。私は其方たちともそうありたいと願う。そのような同志を力で従わせるなど、この劉備玄徳が赦しはしない。人と人とを繋ぐのは力ではなく、心であるべきなのだ。それはどの世も変わらないと、私は信じている。」


 ケイロンは涙を流しながら、何も言わず劉備の言葉に深く頷いたのだった。他の半人半馬(ケンタウロス)たちも涙を流し顔を伏せている。

 

 劉備はケイロンの前に手を差し延べ、まっすぐと見つめる。

 ケイロンは姿勢を直し、劉備の手をゆっくりと、そして強く握った。


 「我々半人半馬(ケンタウロス)族は、こちらの陣営の末席に加わらせていただきます。必ずやお力になって見せます。」


 こうして、ケイロンやシレノスを始めとする半人半馬(ケンタウロス)族の精鋭たちが加わり、劉備陣営のさらなる飛躍を期待させるのだった。


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