第13話 開拓
「もちろん国を作るといっても、将来的にということだ。とにかく住む環境を整えることが急務だろう。」
「環境を整えるというのは、主にどういったことなのでしょう?」
セレーヌが質問をした。
「うむ。ハン殿、お願いできるか。」
「は、はい。えーっと……、まずは生活に必要な基本的な要素、「衣・食・住」を整えていきます。」
「いしょくじゅー?」
この世界では聞き慣れないのか少しざわざわし始めた。
「移植獣……、何やら危険な名前の獣だな?」
「あっシェリカさん、多分だいぶ綴りが違います。えーっとですね、簡単に言うと……、身を守る服・食べ物・暮らす家、生活していくのに必要な物を確保していこうということです!」
「おー!」
小さな歓声が上がった。まるでミニ○ンの集団がリアクションをしているようで、どこか愛らしい。
「家や武具などに関しては、今まで通りグラさんを中心に建築・製作していってもらいます。衣類はグレースさんと……」
「私やりたい!」
そう声を上げたのはホッパーの妹、フウだった。
「うん、ハーフリングの皆んなの衣服は、グレースさんと君が編んだって聞いたよ。どうかよろしくお願いします!」
フウは嬉しそうに微笑んでいた。
「そして、何より重要な食料についてです。現状、山菜や木の実、たまに狩りで獲れる肉や魚を主に食していて、この辺りの自然の恵みはかなり豊富と思います。ただ、どうしても日によって収穫量が不安定になりがちなのが懸念点。それにこれからはとにかく量が必要です。そこで、この土地で食べ物を作ります。」
「作る?どうやって?」
「まずは農業!広大な畑を耕して、あらゆる食物を育てます!」
「おー!」
それからハンは、農業について簡単な説明をし、農耕に向きそうな場所や、すぐに育てられそうな作物の選定がすでに済んでいることも説明した。
「農業に関しては僕が監督をさせていただきます。随時皆さんにも知識をお伝えしていくので、少しずつ覚えていってもらえると助かります。」
「あ、あの……、ぼ、僕も、そ、その農業をお、お手伝いしてもいいですか……?」
そう恐る恐る声をかけてきたのは、ハーフリングの少年だった。
「ハンさん、彼はパトリオットといって、昔から植物や虫を育てるのが好きなんです。」
ホッパーが紹介をしてくれた。
「そうなんですか!ってことはこの辺の植物には詳しい?」
「は、はい。もう何年も、こ、この島の植物や虫をさ、採取しては育てて、交配をしたり増やしたりしています。」
どうやらとんでもない逸材がいたようだ。もう好きとかのレベルじゃないだろう。
パトリオット、今までどこにいたのだ君は。
「あとはそれぞれに必要な素材についてですが、この辺りは天然素材がかなり豊富だということがわかりました。素材集めの指揮はハイル君にお願いしようと思います!」
「お任せください。」
事前に見て回った際に驚かされたが、この島はとにかく自然の恵みに溢れた宝庫だった。
どこまでも生い茂る木々に、ほとんど手付かずの鉱山や洞窟、やり方さえ間違えなければ都市として発展できる環境が整っていると言える。
「とは言え、戦闘員の皆は変わらず訓練を行なっていくゆえ、日々の鍛錬を怠らないように頼む。シェリカ、其方には戦闘訓練の監督をお願いしたい。」
劉備がそう言うと、シェリカは立ち上がり答えた。
「みっちりしごいてやるさ。あんた達、へこたれるんじゃないよ!」
「はい……!!!!」
シェリカの掛け声に、ハーフリング・獣人族の戦闘員達が震えながら叫び返す。
今まで以上に恐ろしい訓練が待ち受けていそうである。
それから間も無く、劉備たちは土地の開拓に取り掛かった。
隠密のピノによれば、周辺勢力に大きな動きはないようだが、警戒を怠らないようにしなければならないだろう。
作業に取り掛かり始めてからしばらく経ち、みるみるうちに村ができていった。
小綺麗になった住人たちの身なり、丁寧に耕された畑、真っ直ぐ立ち並ぶ住居、土地の開拓は想像以上に順調であった。
一人一人の頑張りはもちろんのことだが、やはりハンの持つ現代の知識や鑑定スキルが、この大躍進の中で大きな一役を買っている。
狩猟用の罠や漁船の考案、食材を長持ちさせるのに有効な乾燥や発酵など、今の生活レベルで行える最善の策が、ハンによって節々に施された。
最近では森の果物を使った酒造りにも取り掛かっているようだ。酒好きのグラッケンの懇願により、ハンが作業の合間を縫って醸造している。
畑では数種類の作物が栽培されるようになってきたが、今ではほとんどの作業がパトリオットに任せられている。
もともと植物や生物の知識に明るかった上に、ハンの持つ知識を特大スポンジのごとく吸収しているようだ。少し引っ込み思案だった彼が、日々楽しそうに畑に立つ姿は、この仕事が天職であることを物語っている。
今日を生きるのに必死だった以前を考えれば、劉備たちの暮らしは大きな発展を遂げたと言えるだろう。