第12話 新たな力
獣人族との戦いの後、ハンはまた一人鑑定の特訓に打ち込んでいた。以前より発動される頻度は高くなってきていたが、同時に頭の痛みも強くなっているようだった。
本来見えないはずの情報を得ているのだ、それなりの負担はあるだろうし、まだ身体が適応できていないのだろう。
「しかし……、今日はちょっと痛みが……強いな……。ぐっ…………、あぁ…………!!!」
徐々に痛みは強くなり、ハンは立っていられずその場にうずくまる。
「ハンさん!?」
偶然近くを通りかかったグレースが駆けつけたが、ハンはそのまま気を失ってしまった――――。
翌朝、ハンは温かな優しく甘い香りで目を覚ました。目を開けると蒼く綺麗な瞳が、ハンを見つめている。
「め、女神様……!?」
「……ハンさん!何をまた寝ぼけているんですか!お身体は大丈夫ですか?」
ハンは慌てて両目を擦り、再度じっくりと目を開きグレースへ視線を向けた。
すると……
名前:グレース
種族:エルフ
年齢:16歳
鑑定の文字が浮かび上がった。痛みなく発動できたのはもちろん、人を鑑定できたのは初めてである!
辺りを見渡したり視界を動かしながら色々試したが、自身のさじ加減で鑑定の発動をコントロールできるようになっているようだった。
「ハンさん?気分がすぐれないのですか?」
グレースが心配そうに声をかける。側から見ればただの挙動不審だろう。
「あっ、だ、大丈夫です!なんかちょっと疲れてるのかな?ははは。」
「なんだ、元気そうではないかハン殿。」
「倒れたって聞いたから心配したぞ坊主。」
劉備とグラッケンが様子を見にやってきた。
ハンはもう一度試してみようと、グラッケンへ視線を向け鑑定してみる。
名前:グラッケン
種族:ドワーフ
年齢:105歳
お~ちゃんと見える。ってかグラさんって105歳なんだ……。長生きの種族なのだろう。
そのままの流れで劉備へと視線を移してみる。
名前:劉備玄徳
種族:不明
年齢:不明
あれ?どうs
「おい坊主!どうしたってんだ?どっか悪いのか?」
「あっ、す、すいません!どこも悪くはないんですが……」
ハンは自身の鑑定スキルについて三人に話した。
「ほう鑑定スキルか!さすが転生者だな!」
「実際に使える人を見るのは初めてです!ハンさんすごい!」
グラッケンとグレースは鑑定スキルに覚えがありそうだった。
「現時点ではどのくらいの情報が見えているんですか?」
「先ほど皆さんを鑑定した時は名前、種族、年齢が見えました。まだ発現したてなので、ちゃんと見えない時もあるようですが……。もっと何か情報が見える場合があるんでしょうか?」
「そうですね、そもそも鑑定は希少スキルですが、扱う方によって得られる情報量や、鑑定対象の種類に違いがあると聞いたことがあります。例えば、他者の持つスキルに特化している場合や、食料や鉱石、道具などに特化している場合、それぞれで得意分野みたいなものがあるというイメージでしょうか。」
「かつて鍛冶屋にも鑑定スキル持ちがいたってのは聞いたことがある。得意分野を活かせる職に就くんだろうな。なんにしても便利なレアスキルだ。少しだが鑑定できる種類や情報量も増えるらしいぞ。」
「そうなんですね。僕の得意分野も便利なものだといいんですか……。」
「まあまだ発現したてってことなら、焦らず身体に慣らしていくのがいいだろう。」
「以前小舟で逃げる際に、状態が良いものと悪いものをハン殿が瞬時に判断したことがあったが、あれはもしやその鑑定スキルなのか?」
劉備が興味津々に尋ねる。
「あっ、実はあの時に初めて発動したんです……。訳もわからず見えた情報通りに選んだという感じですね……。黙っていてごめんなさい……。よくわからない力な上に、実際扱えるようになるかも未知だったので、黙ってしまっていました。」
「いやいや、その力のおかげで我々は無事にここへ辿り着けたのだ。ハン殿が謝ることは何もないであろう。いずれにしても無事でよかった。」
「ありがとうございます……!皆さんご心配をおかけしました!」
「よしそれじゃ坊主も大丈夫そうだし、坊主やグレースの意見も聞かせてもらおうじゃねぇか、なぁ旦那。」
「なんの話ですか?」
目を丸くするハンとグレースに劉備が答えた。
「実はグラッケン殿やホッパー殿と、今後の動きについて話し合っていてな。ぜひ二人の意見も聞きたかったのだ。まさかハン殿が倒れていたとはつゆ知らず。」
「そうでしたか……、それはすみません。」
「いやいや。それで話というのがだな――――。」
それから夜な夜な意見交換が行われたのだった。
明くる日、ある目的のため劉備とハン、そしてグラッケンの三人は近場の環境を視察して回った。
ハーフリングの集落の中心にある広場へ、獣人族たちも含む全員が集められたのは、それから数日が経ってからだった。
「皆んな集まってくれてありがとう。獣人族の皆も慣れない環境の中、辛抱してくれて助かっている。」
劉備の言葉に獣人族たちは小さく首を振っている。
「獣人族の皆が加わり、今なら周辺勢力とも充分に渡り合えるだろう。そこでいよいよ、島内北上の準備を進めていく。しかし拠点となるこの土地の整備がまだまだ不十分だ。これから長き戦いになっていくと思うが、決して領地や勢力の拡大に気を急いてはいけない。持久戦を制するためには安定した暮らしが必要不可欠である。そこでまずは、ここにいる全員が充分に生活できる環境を整えていく。」
「この土地に、我々の国を築く。」