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第10話 分かち合う痛み

 ん……、ここはどこだ?

 

 シェリカは一人暗闇に横たわっていた。

 

 ……あぁそうか、私は負けたのか。


 突然、周りの景色が見覚えのある荒れた戦場へと移り変わる。

 

 シェリカたち獣人族は、吸血鬼族と激しい戦いを繰り広げ、負けた。

 数では勝っていた獣人族だったが、吸血鬼の圧倒的な力の前になす術なく、多くの仲間の命が奪われた。


 今でも忘れはしない、決して忘れることはできない、大切な家族の命を守れなかった、あの悲劇の日を。

 目の前で、親も親友も、たくさんの命が奪われた。だから、必ず復讐すると決めた。大切な妹たち、残された同胞たちを守り抜くと決めた。


 ……はずなのに。


 私は、


 また、


 負けた――――。


 

 「…………さん!」


 「……ぇさん!!」


 「……姉さん!!!」


 「起きて姉さん!!!」


 「…………うるさいぞ、セレーヌ……。」

 シェリカが目を覚ますと、心配そうに見つめるセレーヌとサラがいた。そして、疲れ切ってはいるが、たしかに生きている同胞たちがそこにいた。


 「お前たち、無事だったか。……よかった。」


 「もう何言ってるの!姉さんらしくもない。怪我人はいるけど、皆んな無事よ。誰一人として死んでいないわ。それに今……」

 「そうか……。」

 セレーヌが言葉を続けようとしたが、それを遮るようにシェリカは安堵した声を漏らした。

 

 「随分うなされていたようだな、獣人族長シェリカよ。」

 そう声をかけたのは、劉備だった。後ろにはハンやグレース達もいる。


 「お前か……。さあこの命、煮るなり焼くなり好きにしな。私は負けた……。だが、こいつらの命はどうか勘弁してほしい……。頼む……。」

 「姉さん……!」


 「ははは。其方(そなた)もそのように頼み事ができるのだな。だが生憎(あいにく)、こちらは命を奪うつもりなど毛頭ない。ちょうど今、其方の同胞らの怪我を治療し終えたところだ。」

 

 「治療、だと……?どういう……」

 シェリカは驚き上体を起き上がらせた。

 「姉さん、この方はあちらのお仲間さんの治療を終えてすぐ、私たちの怪我まで診てくださったの。おかげで全員無事だったのよ。」


 「どういうつもりだ……。」

 「其方らが攻め込んできたので応戦したが、こちらはそもそも戦う意志はなかった。」

 「だが、お前たちを傷つけたのは紛れもない事実だろう。」

 シェリカは劉備の対応に戸惑いを隠せない様子だった。


 「獣人族長シェリカよ、其方の望みはなんだ?何のために戦う?」

 「突然なんだってんだ……?」

 劉備の唐突な質問に、さらに戸惑うシェリカ。


 「この地で生きていくため、土地や食料を得ようと他種族と争う者たちもいるだろうが、其方はそれだけではないだろう?何か他の、ただならぬ思いを確かに感じた。」

 

 しばらく俯いていたシェリカが、ゆっくりと口を開く。


 「……復讐だよ。」

 

 セレーヌや近くにいた獣人族たちは、少し顔を伏せて黙って聞いていた。


 「私たち獣人族は、吸血鬼族によって住む土地も、大切な家族も、プライドも何もかもぶち壊されたんだ。いつかあの薄汚いコウモリ野郎共の喉元に喰らい付き、その息の根を止めるためだけに、私は生きてきた。そのためには、何がなんでも力が必要だったんだ。今のままじゃ、あいつらには到底太刀打ちできやしない……。まあ、それももう叶わぬがな……。」


 獣人たちは皆俯き、中には涙を流す者もいた。

 そんな空気をかき消すように劉備は口を開いた。

 

 「そういうことなら話は早い。そうだな、ホッパー殿。」

 

 劉備の声に合わせるようにホッパーがやってきた。

 「僕たちハーフリングも、吸血鬼族に多くを奪われた。住んでいた土地も、愛する家族も友人も、数えきれないものを失った。でも僕たちにはまだ残っているものがある。まだ一緒に戦ってくれる仲間がいる。もちろん無理なことがあるのもわかってるけど、だけど必ず取り戻すことができるんだ……!だって僕たちは、まだ負けていない!」

 

 「まだ負けていない……、か。」


 劉備は座り込むシェリカの元へ歩み寄り、言葉を続けた。


 「獣人族長シェリカよ、私たちと共に戦わぬか?同じ志を持つ友として、愛するものを守る戦いに興じようではないか。」


 他の獣人たちは驚いたように劉備を見つめている。

 「……お前は強い。なぜ力で従わせようとしない?」


 「力だけの繋がりに、良き未来は来ないと私は知っているからだ。だから、其方自身が選んでくれ。もちろん、たとえ拒まれようとも其方たちを傷つけるつもりはない。ただ、我々には其方たちの力が必要なのだ。」


 シェリカは顔を両手で覆いしばらく考えた後、空を仰ぎ大きく深呼吸をした。


 「……わかったよ。……いや、違うか。」

 シェリカは姿勢を変え、劉備の前に膝をつく。その瞬間、全獣人たちがシェリカと同じようにその場に膝をついた。


 「ここへ一方的に攻め込み、あんたたちを傷つけたこと、心から詫びさせてくれ。すまなかった。……今約束しよう。我々獣人族はこれから先、あんた達と共に戦うことを。力だけじゃ掴めない"良き未来"ってのを、ぜひ一緒に見せてくれ、大将。」


 「劉備玄徳だ。」

 劉備は名乗りながらシェリカの前に手を突き出し、シェリカはこれを掴みその場に立ち上がった。

 

 ハンはその光景を見た時、やはり劉備玄徳とは周りを惹きつける唯一無二の英雄なんだと、改めて思うのだった。


 「まあ私は別に、ここの大将というわけではないのだがな……ははは!!!よろしく頼む!!!」

 

 「はぁぁぁぁ!?じゃテメェはなんなんだよぉぉぉ!?」



 こうして激しい戦いはハーフリングたちの勝利に終わり、屈強な獣人族が約100名、陣営に加わったのだった――――。

 


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