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ヤイコ、キイ イオリ、モカの 陶芸体験

「ねえ、相談にのってくれるかな?」


モカが、いくぶん上目遣いで私たちを見つめる。

この子のオネダリ目線は、なかなか強烈だ。

うちは女子高だからいいものの、共学だったらコレにやられる男子は続出だろう。


「なあに、モカちゃん。言ってごらん♡」

男子ではないが、キイはモカにデレデレだ。


「これ、もらっちゃった」

彼女は、新聞紙に包まれた何かを両手で差し出す。


「うわっ、またかよ!」

私は、少しうんざり気味の声をあげた。

机の上に置かれた新聞紙の包みからゴロンと転がったのは、サツマイモだ。

大ぶりなのが四本。

「お前さん、またやったのか?」

「そんな、特に何もしてないもん」

モカはほっぺたを膨らます。

「ただ、農作業をしていたオジサンを見ていただけだもん。そしたら、これ持ってけって、チャリのカゴに入れられただけだもん」

ほら、やっぱり。

コイツのオネダリ目線は最強だ。この間は、スイカをまるごと学校に持ってきた。


「要するに、おイモをどうやって食べようかっていう相談ね」

「そうなの。さすがキイちゃんは私のこと、よくわかってくれてるネ!」

その一言にちょっとムカついたが、ヤキイモ欲しさに提案する。

「そんなの、学食の電子レンジ使えば簡単じゃん。確かラップでくるむとか」

「えー、それ簡単すぎて面白くないの」

でた。モカのわがまま。

「うーん、火が使えるとこねえ……調理室かな」

キイの提案を私は却下した。

「ダメダメ、家庭科の先生、融通きかないし陰険だから、黙って使ってバレたら卒業までネチネチ文句言われる」

「じゃあ、理科室はどうかな? 確か、アルコールランプとか、ガスバーナーとかあるし」とモカ。

私には、皮だけが黒焦げで、中はガリガリの生焼けヤキイモしかイメージできなかった。


「じゃあ、その新聞紙を燃やして焼くのはどう?」とキイ。

「ちょっと火力足りなくない?」

モカの懸念を聞いて、キイはカバンを開けた。

「ここに、テストの問題と答案用紙があります。これを足しにすれば……」

「こら、キイ! これに便乗して赤点の証拠隠滅しようとしてるだけじゃんか。」

「あはは、バレたか」

「だいたい校内で火なんか燃やしたら、先生がすぐに飛んできて、職員室でこってり絞られるぞ。おとなしく追試受けろ」

なかなかいいアイデアが出てこない。


「学校の中にピザ窯とかないかな?」

「あのなあモカ、そんなのあるわけ、ん?……窯か」

心当たりがあった。

「なあ、うちの組のイオリ、確か陶芸部だったよな?」

「あ、そうか、陶芸窯か!」


私たちは苦労して陶芸部の部室を探しだした。

ドアをノックして中に入ると、テーブルに向かってイオリが粘土をこねていた。

部屋の両脇の棚には、皿やら器やら花瓶がいっぱい並んでいる。


「イオリ、今日は一人なのか?」

粘土から視線を上げたイオリに私は声をかけた。

「いつも一人だ。部員はアタシしかいない」

それって、部活と言えるのだろうか?ただの個人の趣味の時間じゃないのか。


新聞の包みを抱えたモカが上目遣いでオネダリする。

「ねえイオリちゃん、この通りサツマイモがあるんだけど、ちょっとお窯を貸してくれる?」

「貸さない」

瞬殺だ。

「もうイオリちゃんのイジワル! ちょっとくらいいいでしょ?」

「だめ。窯と言っても、ここにあるのは電気の窯でイモなんか焼いたら壊れる」

それが事実かどうかはわからないが、彼女の意思は固そうだ。

イオリはモカに近づいて、新聞紙の包みを覗き込んだ。

「窯は貸さないが、君たちに条件をのんでもらえれば、いい提案がある」

「なに、条件って?」訝しげにキイが聞く。

「幸いなことに、サツマイモが四本ある。一本分けてくれ」

「まあ、いいけど」とモカ。

「で、いい提案って何だよ?」

「君たちは、ココでヤキイモ用の土鍋をつくる。それを使ってイモを焼く。ンまいぞ」

「でも、どうやって土鍋を火にかけるんだ?」

私は、家庭科のオバサン先生の鬼の形相を思い浮かべた。

「なあに、学食の電子レンジが使える」

私とキイは、電子レンジ否定派のモカを見たが、彼女は目にハートマークを浮かべてイオリの提案を聞いている。

「わかった、ぜひ土鍋をつくらせてくれ」

私たちはイオリの提案に乗り、彼女の厳しい指導で、ヤキイモ専用の土鍋を作った。

「よし、今日はここまでだ。ご苦労」

粘土で鍋の形ができたところで、私たちは部室を追い出された。

「あれ、粘土、焼かないの?」

「何を言ってる、しっかりと乾かしてから焼くのだ。それはアタシがやっておいてあげよう。その間、サツマイモも熟成されるから、ンまいぞ」

「『その間』って、いつ出来るんだ?」私は恐るおそる聞いた。


「来週の月曜までにはできるであろう」

「「「月曜!?」」」

こんなことならモカからサツマイモを一本もらって家で焼いた方がよかったのではと思ったが、土鍋の元はもう作っちゃっている。仕方があるまい。


 〇


待ちに待った月曜日がやってきた。放課後、イオリから完成された土鍋を受け取った。うわぐすりを塗って焼かれていて、色合いがまさにヤキイモのようで可愛い。

「ヤキイモに丁度いい小石も入れておいてやったぞ。サービスだ」

私たち四人は、学食に行き、さっそく試し焼きをする。

土鍋にサツマイモを並べ、電子レンジに入れて待つ。

「ピ――ッ」

出来上がりの電子音はまさに福音だった。

調理場で鍋つかみと鍋しきを借り、土鍋をテーブルに置いて蓋を開ける。

香ばしい香りがふわりと立ち込める。学食にいた女子生徒たちの注目が集まる。


いい焼け具合だ。

「「「「ンま――い!!!!」」」」

待っただけの甲斐がある。自分たちの手作り土鍋で焼いたってのが、美味さを倍増させた。


「これはサツマイモ以外にも、ジャガイモはもちろんトウモロコシや枝豆なんかにも使えるぞ」

イオリが得意げに言いながらヤキイモをほおばった。


 〇


翌日。


「ねえ、相談にのってくれるかな……アレ、使いたいんだけど」

モカが、いくぶん上目遣いで私たちを見つめる。


彼女が両手に載せている新聞紙の包みからは、トウモロコシが顔を出していた。


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