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ライバルの強襲と真実の影

レオ、マヤ、ファング、そしてシェリーの四人は、アンデッドリッチの行方を探すために日を重ねて移動を続けていた。

情報屋としてのシェリーのネットワークを頼りに、各地の噂を拾いながら手掛かりを集めている。

しかし、アンデッドリッチの直接的な痕跡は簡単には見つからず、気づけば夕暮れを迎えることも多かった。


「どうも最近、町の外れで不穏なビートが聞こえるらしいわ。

アンデッドに関わるものかは断言できないけど、少し調べてみる価値はあるかも」

シェリーがゴーグル型ヘッドホンを片手で支えながら口を開くと、マヤが身軽にステップを踏んで顔を上げる。


「そんなら行くしかない。

何もしないで待ってたら情報なんて向こうから飛んでこないし」

ファングは獣耳をひくつかせて周囲の空気を探る。

レオは細身の体を少し伸ばし、首にかけたヘッドホンを一度外してから付け直した。


「わかった。

僕もその場所を見に行ってみたい。

もしかして、アンデッドの手掛かりがあるかもしれないから」


四人は街の裏通りを抜け、外れの荒地へと足を向けた。

暮れかかった空の下で、冷たい風が肌を撫でる。

ファングの尻尾が緊張を示すように揺れ、シェリーはターンテーブルをいつでも起動できるように手をそっと置いている。


一帯が薄暗さに包まれ始めた頃、不意に強烈なベースが鳴り響いた。

そのビートはどこか鋭く、不穏なエネルギーを含んでいる。

マヤが足を止め、ファングが鼻を鳴らす。


「誰かいる。

妙に尖った匂いがする」

彼が言った直後、レオの視線の先に黒いジャケットをまとった長身の男が姿を現した。

無造作なドレッドヘアを揺らしながら、サングラスの奥でこちらを睨む。


「あんた、何者?」

マヤが初対面らしく問いかけるが、男は答えず、冷淡な雰囲気をまとったまま音を刻み始める。

不吉なまでに完璧なビートに乗せ、口を開くと、その声は鋭い刃のように突き刺さる。


「知る必要あるか?

ここに用があるなら通ればいいが、お前らの力じゃ闇には届かない

俺のリリックで その甘さを粉々にしてやる」


挑発的なフローが一気にあたりを支配し、レオたちの耳を震わせた。

その言葉には圧倒的な自信と攻撃性が漂い、まるで底知れぬ闇を覗き込むような危うさがある。

ファングが唸り声を立て、マヤの眉間に険しい影が落ちる。


「なんだこの人…普通じゃないよ」

シェリーがゴーグルをずらしながら呟くと、マヤが一歩踏み出して、煽りのリリックで相手を打ち崩そうとする。


「強いのは勝手だけど こっちはチーム

分断狙いのディスなら通用しない

お前のクールなフリに私は乗らない

マヤの煽りは その自意識を揺さぶる」


胸に迫る速射ラップを投げてマヤは攻勢を仕掛けるが、男はまるで意にも介さないかのように冷たい微笑みを浮かべる。

サングラスをわずかにずらし、再び響かせる声はさらに鋭くなる。


「チームか。

仲良しこよしの甘いビートで どこまでやれる

結局お前らは 互いに支え合わなきゃ立てない弱者

孤独を恐れるなら 俺に語る権利はない」


その瞬間、マヤの胸に強烈な衝撃が走ったように見えた。

相手の言葉には容赦がなく、絆をあえて弱さと断じるディスが、精神を抉る。

マヤが一瞬だけ動きを止めると、ファングが怒りを帯びた声で割り込む。


「俺たちを見くびってんじゃねえぞ。

仲間の力は弱さじゃない。

ビーストスタイルでそいつを証明してやる」


ファングの獣のような咆哮がビートを裂き、荒々しいフロウが空気を揺らした。


「孤独を愛すって? それもいいさ

けど舐めてると痛い目見るのはお前の方だ

牙むき出しのラップが お前の自尊心に噛みつく

吠え面かくなよ 俺たちは甘くねぇ」


攻撃的なディスが繰り出され、男のコートが風にあおられる。

しかし、まるで何事もないかのように、彼は小さく首を振った。

そして、静かにビートを刻み直し、淡々とした口調でさらに厳しい言葉を投げる。


「野生の勘頼みじゃ どこまでいける

所詮は感情に支配されたアマチュア

俺はオリバー。

底なしの孤独と怒りで フロウを研ぎ澄ませてきた」


オリバー、と名乗った男の言霊が一際鋭い。

ファングは心の奥を抉られたように目を見開く。

マヤは一度息を整えながら、再び切り返そうとしたが、オリバーは全員を見回し、追い打ちのリリックを与える。


「アンデッドを追うらしいが その意義は何だ

お前らが手を伸ばしても その闇は深い

ましてやアンデッドリッチ?

弱い者が集まっても 影一つ消せやしない」


その言葉を聞いた途端、レオの胸に鋭い棘が突き刺さった。

お前たちは弱い、と言われた気がして、逃げ腰の自分をまた知らされたように感じる。

ヘッドホンを握りしめながら視線を落としかけたとき、オリバーがさらにラップを加速させる。


「敗北の匂いを纏ってるお前…癖っ毛の少年

リリックが温いまま いつまで通用する

アンデッド相手に優しさを説く?

その優しさこそが 足枷になるとは気づかないか」


レオは息が詰まる思いで、そのディスを受け止めた。

自己肯定感の低い自分を否定するような響きに、頭が真っ白になりそうになる。

脳裏に「あいつの言うとおりだ。優しさなんて何になる」と声がこだまする。

だが、なんとか唇を噛んで踏みとどまった。


マヤとファングがレオを助けようと、再びリリックを放とうとする。

しかし、その瞬間オリバーは手を制するように片手を挙げ、冷然と口を開く。


「言い返したいなら勝手にすればいい。

だが、俺が本気でビートを踏んだら、お前らは自信ごと打ち砕かれるだろう。

覚えとけ。

アンデッドが魂を集めてるのは本当だ。

最終的に何をする気かは知らんが、世界を巻き込むのは確実だろう」


冷ややかに吐き捨てるように告げられたその情報に、一瞬空気が凍りついた。

魂を収集している――やはりアンデッドリッチには恐るべき企みがあるのだろう。

しかし、その事実を語りながらも、オリバーはどこか苦しげな面差しを浮かべているように見えた。


「お前も、アンデッドに何かされたのか?」

ファングが静かに問いかけると、オリバーはほんの一瞬だけ口元を歪める。


「奪われたんだ。

俺にとって大切だった存在をな」


それだけ言うと、彼は一瞬目を伏せ、サングラスをかけ直す。

マヤは言葉を飲み込み、ファングも追及することをためらう。

オリバーは再び冷徹な雰囲気を纏い、背を向けるかのようにコートを翻した。


「俺は俺で奴らを追うさ。

復讐のためにな。

だが、お前たちでは到底かなわないと思うね」


ラップバトルが終わったわずかな静寂の中、オリバーの一言が胸に重く落ちる。

視線を交わす余地もなく、彼は足音を響かせて暗がりの向こうへと消えていった。


しばらくして、ファングが低く舌打ちする。

「強烈な野郎だ…けど、本当に強い。

なんか悔しいが、正直奴に比べると俺たちの技量はまだまだかもしれねえ」


マヤも神妙な面持ちで腕を組み、レオは小さく呼吸を整える。

シェリーがゴーグルに触れながら、力なく苦笑した。


「アンデッドが魂を集めているって、確信を得られただけでも収穫だけど…

あのオリバーに、私たちは認められてすらいないみたい」


レオはうつむいたまま、ヘッドホンを握りしめる。

自分がオリバーのディスを真正面から受け止められなかった事実が、ここまで胸を苦しくさせるとは思わなかった。

優しさを否定されて、まるで自分の存在価値まで否定されたように感じてしまう。


けれど、目の前で落ち込んでいるわけにはいかない。

アンデッドリッチが人々の魂を収集していると知った今、ますます世界の危機が近づいているのを感じ取る。

ファングが尻尾を振りつつ、レオの肩を軽く叩いた。


「落ち込むんじゃねえよ、レオ。

あいつのラップは強すぎたが、俺たちだって弱いままじゃ終われねえ。

それに、お前の優しい言霊は誰かを救う力になると思うぜ」


不器用なフォローに、レオは眉尻を下げながらも微笑もうとする。

マヤも少しだけ明るい声を出そうと努力しているのか、拳を軽く握った。


「そうだよ。

確かにオリバーは手強いし、あんな強烈なディスりには私もぐらついた。

でも、私たちは私たちなりのやり方でアンデッドを追い詰める。

それでいいじゃん」


レオは胸の奥に沈んだ重たい感情を、少しずつほどいていくかのように息を吐く。

シェリーは首を振ってから、意を決したようにターンテーブルを抱え直す。


「アンデッドリッチが魂を集めている理由をはっきり探りたいわ。

どこかで闇の儀式を行おうとしている可能性もある。

もし世界そのものを支配するつもりなら、放っておくわけにはいかない」


四人は気持ちを整理するように視線を交わし、それぞれが何をすべきかを確認する。

オリバーという天才ラッパーに打ちのめされたことで、また一つ事実を突きつけられた。

しかし、その苦い経験と悔しさこそが、さらなる意志を生む糧になると信じたい。


ファングが尻尾を高く揺らしながら先を歩き、マヤが少し前向きな声でレオに話しかける。

「行こう、レオ。

あいつがどこへ向かうかは知らないけど、私たちは私たちのやり方で強くなればいい。

アンデッドリッチが世界をどうしようと企んでるのか、突き止めようよ」


レオは静かに頷き、噛み締めるように唇を結んで歩き始める。

さっきまでの動揺を隠すようにヘッドホンを首にかけ直し、足元の砂を踏みしめるたびに、自分を鼓舞する心のビートを感じようとした。

シェリーも後ろからついてきて、少しだけ明るいリズムをターンテーブルで刻んでみせる。


彼らはまだ未知の強敵と対峙しなければならないだろう。

だが、アンデッドリッチの闇を断ち切るために、こうして一歩ずつ前へ進むしかない。

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