祝言 4
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夜――
あの日、千早様と出会った夜のように、空には煌々と月が輝いている。
お座敷は白い絹で彩られ、上座に二つの席と、豪華な食事が並べられていた。
婚礼衣装に身を包み、上座に千早様と並んで座る。
丁寧に結い上げられた髪には、千早様のお母様の形見の簪を挿した。
わたしと千早様の前には牡丹様と青葉様が座っていて、優しく微笑んでくださる。
青葉様が漆塗りの杯と提子を乗せた懸盤を持って、わたしたちの前に置いた。
杯に透明なお酒が注がれて、まずはわたしに渡される。
お酒を飲み慣れていないわたしはちょっと舐めるくらいでいいと事前に言われていたので、緊張で震える手で杯を手にし、そーっと口元に近づけた。
ツン、とお酒特有の香りがする。
それだけで酔ってしまいそうだったが、ほんの一口、慎重に口に含んだ。
わたしが飲みやすいようにと、甘いお酒を用意してくださっていたので、口当たりはとてもまろやかだ。
わたしが口をつけた杯を一度青葉様が受け取って、そのまま千早様に渡す。
くっと、杯の中のお酒を千早様が飲み干した。
……これで、わたしたちは、夫婦。
お酒を飲んだからなのか、それとも違う理由なのか、わたしの顔が熱くなる。
胸の奥が震えて、じんわりと目が潤んできた。
今まで、そしてこれからの生の中で、これほどの幸せがあるだろうか。
この世に生まれ落ちた時から、わたしの未来はあってないようなものだった。
牡丹様がすっと近づいて来て、わたしの目元を手拭で拭ってくれる。
千早様は優しくわたしを見つめていて、目が合えば、千早様が手を伸ばして、わたしの目じりに触れた。
おめでとうございます、と牡丹様と青葉様がおっしゃって、その場に頭を下げる。
お二人に頭を下げられるのが申し訳なかったけれど、これは祝言のしきたりらしいので、わたしはお二人に「ありがとうございます」と頭を下げ返した。
そのあとのことは――正直、気持ちがふわふわしていてあまり覚えていない。
お食事をとって、いくつかおしゃべりをして、牡丹様に連れられてお風呂に向かった。
お化粧を落とし、髪を解いて、白の単衣姿で寝室へ向かえば、千早様がぼんやりと窓の外を眺めていた。
一緒についてきてくれた牡丹様がわたしの肩をぽんと優しく叩いて、それから部屋を下がる。
千早様がわたしを振り返り、おいで、と片手を差し出して――
わたしたちは、夫婦になった。
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