表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/193

176. 宇宙最強!?

 しかし――――。


 彼女以外というと、美奈先輩にお願いするしかないが……。それは危険な臭いがする。あの鋭い直感の持ち主が、何かを察知してしまう可能性は否定できないのだ。


『あんたが犯人ね!』


 とでも看破されたら懲役一万年なのだ。俺はブルっと身体を震わせる。まだ生まれて数十年。一万年なんてとんでもない話だった。


「わ、分かりました。お願いします」


 俺は深々と頭を下げる。今はもう星の未来を、この不可思議(ふかしぎ)な存在に託す以外ないのだ。


「うんうん、まーかせて!」


 シアンは愉悦(ゆえつ)に満ちた笑顔を浮かべ、指先で空中に神秘的な光の軌跡(きせき)を描く。


「それー! きゃははは!」


 その(ほが)らかな声が響き渡る中、世界の(ことわり)が大きく揺らぐような感覚に包まれ、俺の意識は深い(やみ)へと吸い込まれていった。



        ◇



 目覚めると、そこは元いたログハウスの部屋だった。テーブルではドロシーとレヴィアが、コーヒーを楽しんでいる。


 視線を移すと――――、ベッドには【俺】が横たわっている!


「へ……? なんで……?」


 俺は戸惑いながら、猫となった自分の肉球を見つめた。


「猫の方が可愛いじゃない? くふふふ」


 シアンの声には、気まぐれ娘の悪戯(いたずら)心が滲んでいた。


「いやちょっと困りますよ!」


 俺はシアンの胸元からピョンと飛び出すと、自分の眠るベッドへと跳躍する。


「あぁぁ……俺……」


 すやすやと幸せそうに眠っている俺――――。


 自分の寝顔を見つめながら、この不可思議(ふかしぎ)な状況に肩を落とす。自分の寝顔を見た者などそうは居ないに違いない。その不思議な感覚に、現実感が揺らぐ。


「こ、これはシアン様!」


 レヴィアは突如として席から飛び上がり、深々と頭を下げた。その態度には、これまでに見せたことのない畏怖(いふ)の色が浮かんでいる。


「『様』なんて要らないよ。シアンって呼んで」


 シアンは(ほが)らかな笑顔を浮かべながら、テーブルのクッキーをつまんだ。その仕草には、超越者とは思えない気安(きやす)さが漂っている。


「そんな、呼び捨てなんてとんでもございません!」


 レヴィアの声は緊張(きんちょう)に震えた。


「あれ? レヴィア様ご存じなんですか?」


 ドラゴンの異様な態度に、俺は首を傾げずにはいられない。


「ご存じも何も、全宇宙で最強のお方じゃぞ、シアン様は!」


「宇宙最強!?」


 俺はそのファンタジーな響きに思わず毛が逆立った。


「シアン様が本気になれば、全宇宙は一瞬で消し飛ぶのじゃ」


 レヴィアの身体が恐怖に震える。


 俺は言葉を失った。この奔放(ほんぽう)な少女が、宇宙最強の存在だというのか。その荒唐無稽(こうとうむけい)な事実に、思考が追いつかない。


「一瞬じゃ無理だよ、ちょっと時間はかかっちゃうな。それに僕よりパパの方が強いよ。きゃははは!」


 シアンは屈託(くったく)のない笑顔を浮かべる。その言葉は、宇宙の消滅を否定していない。この少女は本当に、そんな恐るべき力を持っているのだろう。


 笑って宇宙を消す話をする、気まぐれな存在。その規格外(きかくがい)の力に、俺は言いようのない戦慄(せんりつ)を覚えた。


「わざわざお越しいただいて恐縮です……」


 レヴィアの(おび)えるような声に、シアンは愉悦(ゆえつ)に満ちた表情を浮かべる。


「いやいや、楽しいもの見せてもらったお礼だよ。きゃははは!」


「た、楽しいもの……?」


 レヴィアの表情が(くも)った。そこには、不吉な予感の影が宿っている。


「スカイパトロールをあんなふうに回避するなんて前代未聞だよ!」


「えっ!?」


 レヴィアの身体が、まるで氷像のように凍りついた――――。


「一部始終見られてましたよ……」


 俺は諦めの溜息(ためいき)と共に告げる。


「ぜ、全部!?」


「懲役いっち万ね~ん! くふふふ」


 シアンは人差し指を高々と突き上げ、嬉しそうに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ