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161. 紫電色の絶望

 噴火の轟音が遠ざかり、神殿に重い沈黙が降り立った。ドロシーは呆然(ぼうぜん)と虚空を見つめ、まだ信じられない光景を何度も思い返していた。


 灼熱の火口に身を投げた五人の戦乙女(ヴァルキュリ)たち。純白のドレスが深紅のマグマに溶けていく瞬間、彼女たちの凛とした横顔に浮かんでいた覚悟の表情。そして最後の一瞬、かすかに浮かべた安堵の微笑みが、まるで熾火に焼き付けられたように鮮明に残っていた。


「どうして……こんな結末しかなかったの……?」


 か細い声が、冷たい(つめ)たい石壁に吸い込まれていく。もっと誰も傷つかないやり方はなかったのか? 今さらながら考えてみたが、これ以外方法はなかった。現実は容赦なく、五人の命を代償に要求したのだ。


 祭壇を照らす松明の灯りが揺らめ(ゆらめ)き、ドロシーの影を静かに揺らす。テーブルに突っ伏した少女の肩が小刻みに震えていた。


「あなたぁ……早く、早く帰ってきて……お願い」


 祈るような呟きが、静寂を切り裂いた瞬間だった――――。


 ズン! と、神殿全体を揺るがす衝撃が走り、祭壇に並べられた燭台(しょくだい)が次々と倒れていく。


「っ!?」


 背筋が凍る。直感的な恐怖が全身を震わせる中、ドロシーは立ち上がった。


 轟音と共に、数千年の歴史を誇る神殿の壁が、まるで紙細工のように崩れ落ちる――――。


 立ち上がる粉塵の向こうから、一つの人影が姿を現した。


 ひっ!?


 思わず漏れた悲鳴。ドロシーの瞳に映ったのは、あってはならない存在――――焦げ付(こげつ)いた服に身を包み、焼けただれた顔をさらすヌチ・ギだった。


 かつての気高さは微塵も残っていない。蓬髪(ほうはつ)は焼け(ちぢ)れ、その目には狂気じみた憎悪の炎が灯っていた。


「娘……。やってくれたな……」


 低く(うな)るような声。よろめきながら一歩ずつ近づいてくる足音が、ドロシーの鼓動を加速させていく。


 い、いやぁ!


 後ずさるドロシー。


「私が誇る最高傑作、五人の戦乙女(ヴァルキュリ)を言葉巧みに操るとは……。天晴(あっぱ)れな手腕、恐れ入ったよ……」


 顔の半分が影に沈んだヌチ・ギが、歪んだ笑みを浮かべる。その表情には、もはや理性の欠片も見当たらなかった。


「その才覚、その美しさ……。お前こそ私の新たな戦乙女(ヴァルキュリ)に相応しい」


「い、いや……。近寄らないで!」


 本能的な危機感に背中が粟立(あわだ)つ。ドロシーは必死に後退りするが、背後には冷たい石の壁。逃げ場はなかった。


 松明の光が揺れ、ヌチ・ギの影が少女に重なっていく。その瞬間、ドロシーの喉から震える悲鳴が漏れた。


「ひ、ひぃ……」


「時に、レヴィアはどうした? あのロリババァは何を企んでる?」


 ヌチ・ギの声には、憎悪と共に微かな焦りが混じっていた。


「し、知りません。私は『ボタンを押せ』と言われてただけです」


 震える声で答えるドロシー。冷や汗が頬を伝い落ちる。


「このポッドは何だ?」


 ヌチ・ギはヨタヨタと不規則な足取りでポッドへ近づいていく。焼け焦げた衣服が床を引きずる音が、神殿に不吉な反響を生む。


「何でもありません! 神殿を勝手に荒らさないでください!」


 ドロシーは必死の形相でポッドの前に立ちはだかった。しかし──。


「ほう、ここにいるのか……。出てこいレヴィア!」


 ヌチ・ギの右手に紫電(しでん)のような光が集まる。瞬間、神殿内の空気が重く沈んだ。


 ズン! と、放たれたエネルギー弾が、二台のポッドを直撃。金属の(きし)む音と共に、ポッドは床を転がっていく。


「止めてぇ!」


 ドロシーは咄嗟にヌチ・ギに飛びついた。腕を掴む彼女の手が震えている。




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