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160. 思い出のダンスホール

「あー、ちょうどこれ、これがお主のふるさと、日本のある地球のサーバーじゃ」


「え!? これが日本!?」


 思わずシートから身を乗り出してしまった。目の前の漆黒の構造物の中に、前世の自分の人生が詰まっていたのだ。両親との温かな食卓、友人との笑い声が響く教室、サークルで女神様と踊ったダンスホール――――全ての思い出がここで展開された。そして、今もなおみんなはここで生きているのだろう。


「パパ……ママ……みんな……」


 かすれた声が漏れる。この中で今頃両親は何をしているだろう? 友人たちは元気だろうか? あの日、急にこの世を去った自分のことを、みんなどう思っているのだろう?


 みんなだけじゃない、愛したゲームの世界も、夢中になった漫画の数々も、眩しく輝くアイドルたちも、この中で永遠の命を紡いでいる。俺の魂を形作った全てが、この無骨な巨大構造物の中で息づいている。


 目の前の巨大な建造物は、もはや無骨な箱ではなく、俺の全てを包み込んだ故郷そのものだった。


 懐かしさと切なさが胸を締め付ける――――。


 思わず頬を熱い滴が伝い落ちた。


「何を泣いとるんじゃ! 本番はコレからじゃぞ、気を引き締めんかい!」


 眉をひそめるレヴィアの言葉に、ユータは涙を拭いながら静かに頷いた。


「す、すみません。ちょっと昔を思い出しちゃって」


 レヴィアはふぅとため息をつく。


「行きたいのか?」


「そ、そうですね……。日本、大好きですから……」


 涙を拭いながら言葉を紡ぐユータに、レヴィアは優しい微笑みを浮かべる。


「そのうち行く機会もあるじゃろ。お主はヴィーナ様とも懇意(こんい)だしな」


「そう……ですね。でも……」


 俺は遠い記憶を辿(たど)り……、目を伏せた。


「もう、転生して十六年ですよ。みんな俺のことなんか忘れちゃってますよ」


 俺は首を振った。


「はっはっは、大丈夫じゃ。日本の時間でいったらまだ数か月じゃよ」


 レヴィアは豪快に笑い飛ばした。


「えっ!? まさか……時間の速さが違うんですか?」


 唖然としている俺に、レヴィアは得意げに説明を始める。


「そりゃ、うちの星は人口が圧倒的に少ないからのう。日本の地球に比べたらどんどんシミュレーションは進むぞ」


 目から(うろこ)が落ちる思いだった。同じ計算力なら、処理すべき人々の数が少ない方が時間の進みが速くなる――――。当たり前の話だった。


「なるほど! 楽しみになってきました!」


 脳裏に、懐かしい顔が次々と浮かぶ。両親の温かな笑顔、友人たちの賑やかな声。彼らに自分の無事を、そしてドロシーとの結婚を伝えたい。しかしその前に――――。


 俺は(こぶし)をギュッと握りしめた。


 ヌチ・ギを倒さねば――――。


 世界の平穏を取り戻さなければ全ては始まらない。


 ゴォォォォーーーー!


 エンジン音が盛大に響き渡った。レヴィアは操縦桿を押し込み、エンジンを景気よく逆噴射していく。


「そろそろじゃぞ」


 減速するシャトルの窓外に、ジグラートの巨体が迫ってくる。漆黒の壁面に走る無数の光の筋が、決戦の時を告げているかのようだった。


「ドロシー……。待っててね……」


 俺はキュッと口を結び、その幻想的な巨大構造物を見上げた。


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