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102. コレクション

「えっ!?」


 ドロシーは急いでドアを閉めようとするが、金縛りにあい動けなくなった。恐怖に満ちた表情が、美しい顔を歪めていく。


「な、何? い、いやぁぁ!!」


 ヌチ・ギは指先をクリクリッと動かし、ドロシーをまるで操り人形のように操作した。その動きには、残酷な遊びを楽しむような余裕さえ感じられた。


 ヨロヨロと外に出てきたドロシーはフワリと浮き上がってヌチ・ギの前に連れてこられてしまう。彼女の目には、恐怖と絶望の色が浮かんでいた。


 ヌチ・ギは毛布をはぎとる。朝の光の中でドロシーの白い裸体があらわになる。その美しさは、この状況をより一層残酷なものに感じさせた。


「ほほう……、これは、これは……」


 下卑(げび)た笑みを浮かべながら、ヌチ・ギはドロシーの柔らかい肌をなでた。その手つきには、所有欲と支配欲が見え隠れしていた。


「や、やめてぇ!」


 ドロシーの悲痛な叫びが響く。その声は、この静かな朝の空気を引き裂くかのようだった。


「止めろ! 彼女は関係ないだろ! くぅぅぅ……」


 俺は必死に吠える。ドロシーに触れていいのは俺だけなのだ。しかし、指一本動かせずに絶望だけが募っていく。


 ヌチ・ギは気にすることもなくドロシーの(あご)をつかみ、瞳をじっと見つめた。


「チートのペナルティとして、彼女は私のコレクションに加えてあげましょう……」


 その目には、人間性を失った冷酷さが宿っていた。


「い、いやぁぁ……」


 泣きながら震える声を漏らすドロシー。その姿に、俺の心は引き裂かれそうになった。

 最悪だ、俺は躊躇(ちゅうちょ)なく最後のカードを切った。


「ヴィーナ様に報告するぞ!」


 だが――――。


「はっはっは! 好きにすればいい。私はどっちみち未来の無い身。華々しく散ってやるまでだよ」


 ヌチ・ギは自暴自棄になっているようだ。その笑い声には、狂気すら感じられた。きわめて厄介だ。


 俺は何とか必死に道を探す。


「俺がヴィーナ様に口添えしてやる。前向きに……」


「バーカ、お前はあのお方を分かってない。地球人の口添えになど何の意味もない。それに……、余計な事をしてこの世界ごと消去されたら……お前、責任とれるのか?」


 ヌチ・ギはゾッとするような冷たい目で俺を見る。その目には、全てを見透かしたような諦念があった。


 レヴィアもヌチ・ギも美奈先輩を異様に恐れている。大学のサークルで一緒に楽しくダンスしていた俺からしたら、なぜそこまで恐れるのか理解ができなかった。確かにちょっと気の強いところがあったが、気さくで楽しくて美人で人気者のサークルの姫。そんな人が世界を容赦なく滅ぼす殺戮王だなんて、全然実感がわかない。美奈先輩の笑顔と、彼らの言う恐ろしい存在のギャップに、俺の頭は混乱していた。


「ヴィーナ様は俺が説得してみせる! 俺は結構かわいがってもらってたんだ!」


 俺は最後の望みをかけ、叫んだ。


 しかし――――。


「この世界の存続を願うなら、余計な事は慎みたまえ」


 ヌチ・ギは冷たく言い放つと空間を割き、切れ目を広げる。


 その光景に、現実そのものが引き裂かれるかのような絶望を感じた。


「ま、待ってくれ! 妻は、妻は許してくれ! 許してくれよぉぉぉ!!」


 俺は狂ったように泣き叫ぶ。


「こんな上玉、手放すわけがないだろ」


 ヌチ・ギはいやらしい笑みを浮かべると、ドロシーに手を伸ばした。


「いやぁぁぁ!」


 ドロシーの悲痛な叫びが、俺の心を引き裂いた。


「たっぷり可愛がった後、美しく飾ってやる」


 ヌチ・ギはドロシーの腕をつかむと無造作に空間の切れ目に放り込む。その瞬間、世界が一瞬静止したかのように感じた。




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