いっぽさきへ
第37話です
弧暮は目の前に突然現れた少女を見つめる。
長く黒い髪、全身真っ黒と言っても過言ではない程の服。
忘れもしない、あの。
「2回目カ?マヌケ」
「...なんでまた」
弧暮は胸ぐらを掴まれ引き寄せられる。
「あのふざけたビー玉が何をしたのか知らないケド、私はお前を喰エル」
「え?...どういう...」
「死んでここに居て思い出した。私はお前の...」
何かを言いかけたところで彼女の口が手で塞がれる。
弧暮自身の手で塞いだ。だが弧暮はそうしようと考えていない。何かがいる。
「いけない」
口が勝手に動く。
「彼女にはまだ早い。君は死んだことで私について理解しているはず。申し訳ないが黙っていて欲しい」
「うぐぐもんぐゥナ」(うぜーよ、気軽に触んな)
「君には最低限の助力のみ任せた。それ以上の事は彼の邪魔になる」
「わらもがすんホム」(じゃぁコイツ死んだな)
全て彼女の成長には必要不可欠な事だ
君を少し前に出そう 手伝ってやってくれ
弱々しく伸ばされた包帯は勢いを増し羅黒の胸を貫く。
そして貫通した包帯を引き寄せ一気に距離を詰める。
「えぇ...??マッジで?」
拳を軽く避け箒で肉を噛みちぎらせようとするも歯が通らない。
体を捻り上へ跳ぶ。そして包帯を解きもう一度手に戻す。
(肉を貫通された...イエチャンばててるから治せないし...)
弧暮は腕を前に突き出す。だが掌から包帯は出ず孔の中で渦巻いている。
これまで以上の勢いで放たれた包帯の塊は羅黒の肩を抉る。だが本体には当たらず距離を離され倒れている羅黒の仲間達を回収される。
もう一度撃とうとするも力が入らない。眩暈に襲われ倒れる。
「駄目ダナ。今度こそ終わリダ」
「いや、まだだ」
「ナハハ、疲れてるのにおてんばだなもーーー」
詩城を手に握りついに全員を飲み込む。そして倒れている弧暮の方に向き直す。
弧暮を捕まえようと手を伸ばすが、その腕は地面にめり込み動かなくなる。
「うぉううぉう?だーれだ」
重久は負傷した腕を庇いながら弧暮を庇うように前に出る。
「やめてくんないかな?包帯ちゃんそのままだと死ぬし。私のとこなら治したげれるからその娘もこっち来たいんじゃないかな?」
「......正直僕はさ、コイツのことどうでもいいんだよ」
「根間を傷つけたヤツだ。僕はこんなヤツより根間達の方がずっと大事だ」
羅黒はもう片方の腕を振り上げ叩き潰そうとする。
「お喋りはそっこまっででぇーす!」
「あぁ、もう充分だ」
肩を抉られ弱っていた腕が光によって消し飛ばされる。
根間は追撃を放つため光を溜める。
重久がその時間を稼ぐ。
羅黒は仲間を体内に入れたため激しく動く事ができない。
このまま撃たれ続ければ完全に剥がされる。そうなれば終わりだ。
瓦礫を投げて止めようとするも届かず落とされる。
根間の杖先は眩い光を放ち頭部を貫く。肉が弾け飛び羅黒の本体が現れるが...
「やっぱりやっぱの最高だねぇ!」
黄髪を背中に乗せて肉を捨て外へ出る。重久が能力を使うよりも、根間が距離を取るよりも先に黄髪は羅黒の背中に強く手を押し当てた。
「もーいっかい!」
その巨体は目の前の根間を押し潰すようにして現れた。肉に塊が羅黒を中心に渦巻いて纏わりつく。一本細い肉が飛び出し倒れた弧暮の足を掴み羅黒と同じ場所へ運ぶ。
「治したげてな〜」
黄髪は回復した能力を弧暮に少し使う。
弧暮は力なく目を開けられる程度の体力を与えられた。
「ナハハ。こーやって女子会するのは初めてだねぇ包帯ちゃん」
意識が朦朧としている。さっきまで動き回っていた記憶は残っているが自分がした行動のように思えない。
「まずはお茶とお菓子かな?」
羅黒は足元の肉に小さな穴を開けて押し潰されていた根間を引き摺り込んだ。
左足の骨が粉々に砕け、根間は苦しそうに浅い息を繰り返していた。
「ほーら、2人目。包帯ちゃんのせいで死んじゃうお友達」
「ね......ま....」
あのとき目の前に降り立った少女。この世界で最初に自分を助けてくれた恩人。
次も都合よく晴川が来てくれるわけがない。
どうしようもない。
「お...ねが......なおし.....なお..」
「ん〜?声がちっちゃくて聞き取れねーい」
「そいえばこんなの拾っちゃったんだよね〜」
先程弧暮が投擲した箒。涎を垂らして歯をガチガチ鳴らしている。
「『おててを合わせて〜いっただきまーす』とのことでーす」
羅黒が根間の胸元に箒を押し付ける。辛澤の際食い損ねた分を埋め合わせするように食い潰していく。
「まで...ま....やめ...止まって...止ま....れ...」
何か固そうな破片を吐き出して食事は終わった。何がどうなっているよかよくわからない小さな肉の塊が目の前にはあった。
よくわからない。
色々考えて逃げようか。見たくない。
そういえばお肉ってなんでおいしいんだろそう言うふうになっているのかなどうしてわあからないけどふつふつ焼いてあそうだにわとりみたいなじゅーしーを食べてしまうのがよくいいんだなんてそんなことんだ
「あぁ...ね.........まぅ...」
弧暮はただ震えているだけだった。口をぱくぱく動かして喉から乾いた息が小刻みに出ている。
その顔を見て羅黒はにこやかに笑った。
「ナハハ、ハハ!なんで私が包帯ちゃんのこと気になるのかわかった!ボッコボコのギッタンギッタンの不幸パラダイスになったあなたの事がたまらなく好きなんだ!」
羅黒は自身の爪を剥がして弧暮の傷口に詰め込む。
「これは私からのプレゼント、私とあなたはこれで繋がれた。何処へ行ってもあなたと私は繋がってる」
羅黒は顔を近づける。耳に生暖かい吐息がかかる。
「みんなを殺したくなかったら独りにならなきゃね」
羅黒は口を押し付ける。
「頑張ってね、こーぐーれっ」
化物の口が開きそこから弧暮は落とされた。
外で穴を開ける手段を探っていた重久はそれに気づいて駆け寄る。
「根間は⁉︎おい!根間はどこ!?」
羅黒は前の肉体を担ぎ飛び上がる。侵入した際できた大穴から飛び去ってゆく。
その際口から肉を吐き捨てる。
眼前に落ちたそれが、混ざっている布の切れ端により根間である事はすぐに理解させられた。
「これも必要な事だったノカ?」
「ああ、順調な進捗だ」
「心折れちゃまずいんじゃなイカ?」
「この状況で彼女はそれを選ばない。それにしても羅黒は良い影響を与えた。これで彼女はこれまでより大幅に停滞する時間が短縮された」
「弧...暮?すごいボロボロになって...大丈夫?」
何も言わずにビー玉をポケットに突っ込む。
部屋を出ると御門がいた。無視して通り過ぎる。
奥には肉塊を抱えて蹲っている重久がいた。
「......」
またもや無視して通り過ぎる。
皆で暮らしていたそこは瓦礫の山となっていた。
照明が破壊されて薄暗くなった空間の上には巨大な穴が空いて外の光が差し込んでいる。
紙クズを踏んだ。見覚えのある手紙だった。
ぽっかり穴が空いた壁から、弧暮は外に出た。
羅黒
18歳
好きな食べ物 ジャンクフード
嫌いな食べ物 健康に気を遣った料理
趣味 女の子
実は
羅黒フレンズは本気で羅黒が好き。
記憶力が低く名前が覚えられないため髪を染めて貰っている。