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不良衒学少年と電波天使少女の回帰譚  作者: 鍋谷葵
第三章

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第四十二話

 濡羽色の長髪に、整った顔立ち、黒地に白の水玉模様のゆったりとしたチュニックで八頭身の痩躯を包み、右肩には無地のトートバッグを掛けている四十代くらいの女性にしては背の高いおばちゃんが、チャイムを無表情で連打している狂気的な様子がモニタに映し出されている。

 こっわ。

 モニタの画質が悪いせいでホラー映画みたいじゃねえか。それもテキサスチェーンソーじゃなくて、羊たちの沈黙寄りのさ。

 いや、待て、よく見ればそんなに怖くねえな。見覚えのある顔をしてるし。例えるなら司とあの女を混ぜたような……。

 司に失礼だし、俺があの女を怖いと思っていないというのは嘘だ。

 だから怖くないなんてことはないし、インターホンの通話スイッチにあてがっている俺の指は震えている。

 大丈夫だ。

 大丈夫。

 俺ならいけるさ。

 第一印象に引っ張られるなよ。


「あっ、すいません。ちょっとトイレに行ってまして……」

『いえいえ、こちらこそ朝早くから申し訳ありません』


 微かに震える俺の声に、彼女は恭しく頭を下げる。

「帰ってください」と、端的に一言返せればどれだけ良かったんでしょう。しかし、残念かな、想像力豊かな俺は想像に引っ張られて言葉が詰まってしまった。


『中々出てくれなくて、倒れているのかと思いましたよ』


 頭を上げた彼女の顔には、どうしてか無機的に思える微笑が貼り付いている。


「はは……」


 その機械的な表情に俺は乾いた笑い声を漏らしてしまう。


『あの、申し訳ないんですが少し用事があるので、お顔を拝見させていただけないでしょうか?』

「あ、はい」


 正体不明のおばさんはぺこりと頭を下げ、外に出てくるよう頼んで来る。そして、印象に震えあがっている俺は二つ返事をしてしまう。

 おいおい、どうしちまったんだよ?

 赤の他人なんだから怖がる必要性はないだろ?

 相手があいつと同年代ってだけだ。

 俺の目的はこいつを追い返して、日常に回帰することだ。

 さあ、扉を開けよう。

 いざ、不審者とマンツーマン!


ご覧いただきありがとうございます。

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