第二十八話
高架通路の人混みと打って変わって、高架下のバスターミナルは空いていた。人影はまばらで、ご老人方、夏休みを持て余した小学生に中学生、通学のために駅を利用している高校生、そんな数えられる程度の人が目的のバスを待っていた。
ド平日のド昼間、しかも丁度お昼時。母数がそもそも少ないんだから水族館行きのバスに乗る奴なんて誰もいなかった。
少しかび臭い車内には俺と運転手さんの二人。
寂しい路線バスはN市の海沿いの道を通って、水族館へと向かった。夏の日本海はゆったりとした波を陸に寄せていた。ただ、車内の涼しさとバスの揺れ、そして来栖から与えられた疲労は俺を夢見心地にさせた。だから、語った景色の印象はほとんど妄想に過ぎない。
「お客さん、つきましたよ」
「ん? んあ! あ、ありがとうございます」
しわがれた運転手の声とともに、意識が冴える。眠りから俺を引き上げたおじいちゃん運転手の優しい微笑は、その配慮に反して俺をギョッと驚かせる。
「あっ、はい……」
なんてこったい、反って運転手を驚かせてしまった。
非常に申し訳ない……。
俺は身を小さくして、出来る限り申し訳なさそうに降車する。
バス停に降り立った瞬間、正午過ぎの暑すぎる外気が体を覆う。
太陽光の鋭さも午前中とは比にならない。汗は拭き出すように出てくるし、首のあたりは陽に焼かれてチクチクする。海風も熱を帯びていて、風としての役割を全く果たしていない。
暑さと太陽光、アスファルトからむらむらと立ち上がる陽炎は、俺の意識をその曖昧さの中に飲み込みかける。
だが、残念、俺の冷房を求める意識は明瞭だ。
ふらつく体を制御して、赤いアスファルトの遊歩道を歩き、白い巨大な建造物に向かう。奥に行くにつれて幅を増していく、上空から見れば航空母艦のような造りになっている水族館へと。
さて、入館。
「極楽ですな……」
エントランスの冷房は俺を冷やし、そして円形ソファは疲れ切った俺の体を癒してくれる。淡い青の外壁と真っ白な天井も体感温度を下げてくれるナイスな内装だ。
「はて、何時ですかな?」
スマホを見ると時刻は十三時四十五分。
もう周り終わってるかな?
「……まあ、とりあえず行くか」
残り半分の生ぬるくなった水を飲みほして、一息。
さあ、水族館だ。
さあ、水槽だ。
さあ、海だ。
ペットボトルはゴミ箱へ。
水族館に入って来るや否やソファでぐったりとしたお客さんを不信がっている受付のお姉さんや、大丈夫。俺は悪い人間じゃないよ。金は払うし、物も壊さないし、人も殺さないさ。なんたって、女の子には神様だって言われてるんだぜ。
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