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不良衒学少年と電波天使少女の回帰譚  作者: 鍋谷葵
第二章

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第二十七話

「……、なんでてめえは拒否しねえんだよ」

「動揺してたら誰だって拒否できないよ」

「お前の処世術は本当に必要なときには役に立たねえんだな」


 とりあえず走り抜け、とりあえず自動ドアを潜り、とりあえず駅ビルの涼しい休憩スペースに俺たちは身を落ち着かせた。

 そんな不幸な二人は、一緒になって天井を仰いでいる。


「そんで、それ読むか?」

「読まないよ」


 来栖は疲れ切った顔でコーラを飲みながら、俺が指差した新聞を押し付けてくる。


「俺に読めってか?」

「慎一ってこういうのに興味ありそうじゃん」

「ねえよ。俺を何だと思ってんだ?」

「衒学者」


 重い息を吐いた来栖は、微笑とともに的を射たことを言ってきた。


「正解だ」

「もしかして俺が慎一のこと一番分かってる?」

「自惚れんな」


 上機嫌でおどける来栖はめんどくせえから、置いておこう。

 とりあえず、このぐしゃぐしゃでペラペラの新聞でも読むか。内容もどうせないんだろうし。だって、見出しで『毒電波の存在、教祖様が証明!』なんて書いてある新聞だぜ? 

 中身が詰まってるわけがねえ。

 大体、毒電波ってなんだよ。

 これを書いた奴は阿呆極まれりだ!

 

「それで読み終えての感想は?」


 四ページで終わる小新聞の内容は、驚くほど空っぽだった。全てが陰謀論をちょいと捻じ曲げた話に、ちょっとしたキリスト教の要素を放り込んだ無意味も無意味な内容。


「こんな宗教を信仰してる奴の気が知れねえ。そんな感じだ」

「へえ、思ったよりおかしい宗教なんだ」

「ああ、カルトもカルト。完璧なカルトだよ。教祖の神格化、全体主義的な組織体系と組織を持続するための合同婚の奨励、お布施と銘打った献金、それを用いたN市内における施設の建設。例えば地下鉄、例えば山奥の村、例えば生物兵器、例えば暗殺、例えば裏金、そんないつかどこかで聞いたことあるようなカルトもどきと同じだよ」


 膝に頬杖をつく来栖は、興味深そうに自分が受け取った紙きれを見つめる。

 駄目だね。お前にこういうアングラというか、非合法一歩手前というか……、とにかくくだらない社会は早すぎる。

 ただでさえぐしゃぐしゃな新聞を丸め、こいつはポイだ。


「それ、パック飲料のゴミ箱じゃ」

「別に良いだろ紙なんだし」

「そう……」


 ベンチから立ち上がって、パック飲料の自販機脇にあるゴミ箱にそれを捨てる。来栖は興味を持っていたものを捨てられたことに寂しさを含んだ言葉を漏らす。


「まあ、こういうのは見ねえほうが良いさ。『天国から送信された神の聖電波を受信した教祖が、神より遣わされる天使ととも人々を導き、世界を救う』なんて教義を掲げている宗教の新聞なんてよ」

「どうして?」


 野郎は寂しげな声音に反してにやけている。

 いい加減、俺も学ばねえとだな。


「万が一にでも、カルトの思想に染まったらてめえの家族が悲しむだろ? 良い家族を持ってんだから大切にしろよ」

「慎一って、俺のことが本当に好きなんだね」

「うぜえ」

「けど、否定しないってことはそういうことなんでしょ?」


 スマホを取り出して時間を見ると、時刻は十二時三十分。

 あいつ怒ってねえよな?

 まあ、怒っててもあいつが集合時間を教えなかったのが全部悪い。

 ただ、そうは言っても女子一人を真夏のお昼に放置しておくのも忍びない。ならば、やることは一つ。早くバスターミナルに行こう。もしかしたら、司がいるかもしれないし。 

 というか、いま連絡すれば良いよな。


「慎一、無視しないでよ」


 集合場所を尋ねたきり、開いていないLINEを開いてみると、既読は相変わらずついていない。


「それ司さんの?」

「勝手に見てくんな」

「無視するのが悪いんだよ」


 来栖は俺の肩越しにスマホを覗き込んでくる。

 学校や優の前と打って変わって、人が変わったみたいに自由だ。表情も鬱陶しいし。


「まあ、どうでも良いな。ところでよ、この場合って連絡返した方が良いのか?」


 ただ、鬱陶しくとも女子マスターとしてのこいつは頼れる。


「俺としては一応連絡しといた方が良いと思うよ」

「そうか」


 マスターが言うんだったら間違いねえな。

 あいつがどこに居るかでも知っておかねえとだ。


「『どこに居る?』って、もうちょっと優しい言い方は無いの?」

「業務連絡もどきなんだから良いだろ。というか、暑苦しい! 離れろ!」

「あっ、連絡きたみたいだよ」


 いつにもまして鬱陶しい来栖と格闘していると、スマホがぶるりと震えた。


「『水族館に入ってる』?」

「あらら、慎一。置いていかれちゃった」

「うるせえよ」


 背中に引っ付く来栖を振りほどくと、俺たちの後ろには茶髪ショートカットの女子が立っていた。

 ゆったりとした白のワイドパンツに、涼し気な水色の無地のシャツを着ている彼女は、B級ホラー映画のヒロインみたいに、俺を見てわなわなと震えている。


「あっ、来てたんだ」

「う、うん。と、ところでその人は?」


 一瞬にして処世術を纏った来栖は、実に自然な声で今日のデート相手に声を掛けた。

 しかし、あまりにも自然な来栖との大局的に彼女の声は無理をしている感じが露呈している。


「助けてくれたんだよ。変な人に絡まれてさ」

「変な人?」

「そう、宗教勧誘を受けちゃってさ」

「そうなんだ……」


 流石、来栖だ。

 身の振り方が分かってらっしゃる。


「じゃ、達者でな」


 なら、俺も自分の身の振り方に合わせて炎天下の屋外に行こう。


ご覧いただきありがとうございます。

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