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不良衒学少年と電波天使少女の回帰譚  作者: 鍋谷葵
第一章 

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第十八話

 来栖とともに教室を出て、こちらをジッと見つめていた司と合流した。

 形成された世にも珍しい三人組は奇異の視線に晒されながら、まだ青い真夏の夕方の道を行く。もっとも、駅と真逆の方向にある住宅街に入ったあたりで、忌々しい視線は消えてなくなった。ただ違和感は消えなかった。

 左に来栖、右に司、真ん中に俺、三人も人がいるのに会話は一向に始まらない。肌をじりじりと焼く暑さのせいか? いいや、こいつは初対面の気まずさのせいだ。あるいは単純に互いに興味がないか。


「そういえばさ、天津さん」


 教室からずっと続いていた沈黙に来栖は耐え切れなかったらしい。

 ただ、自責の意識から来ているだろう初対面の相手に探るような態度は似合っていない。他の女子が相手なら見た目の爽やかさと等しい態度を取れているのに、いまは無知に怯えている。ご自慢の処世術はどこへ!?


「天津さんの家ってこっち方面なの?」

「……」

「違うの?」

「……」


 あと、司さん。

 自分のことを天使様と自称するんだったら、目の前の迷える子羊に明確な解答を与えてやってください。何も聞こえてないかのように、涼し気な顔で、まっすぐ前を見つめるのは止めてください。

 ほら、来栖を見て見ろよ。あまりの気まずさで愛想笑いを浮かべてるぜ。

 そうですか、そうですか。なるほど、答える気はないんですか……。


「司さん。実際、お前の家はこっちにあるのか?」

「無いよ。私の家は真反対」


 あまりにも来栖が可哀そうだと思って、会話に介入した途端、こいつは口を開いた。しかも、一瞬間前までの無表情が嘘だと思えるほどの笑みを浮かべながら。


「だったら、どうしてわざわざこっちに来ているの?」

「……」


 こいつ、機械仕掛けか?

 来栖の質問を受けた瞬間、顔から表情を消しやがった。


「お前さん、どうして俺たちについてきたんだ? 教室からずっと一緒だったけど、なんか目的でもあんのか?


 俺に純粋な疑問符に、司は悲しげな顔をしながら俺を見上げる。


「坂本が教えてくれると言ったから」

「俺が?」

「もしかして忘れたの?」


 いや、忘れちゃいないさ。

 神様の証明の約束だろ?

 もちろん覚えているぜ。だけど、約束の効力が今日から始まるとは約束していない。違うか。誰も約束していないから、即日の契約になっちまったのか……。

 やっぱり、冷静でいることが一番だな。

 まあ、後悔しても遅いんだけど。


「忘れてねえよ」

「良かった……」


 俺との約束がよほど大切なのか、司はホッと胸をなでおろす。出会ったばかりで、良い話を聞かない人間と交わした約束にどうして固執するんだ?

 まっ、考えてもわからねえよな。


「慎一。約束って、なんなんだい?」


 司に尋ねても答えてくれないと理解した来栖は、困り眉の顔を向けてくる。


「さあな。てめえには秘密だよ」

「秘密?」


 厳密には秘密じゃなくて、恥ずかしくて言えないだけだけど。

 非現実の約束を追及されないよう、視線を空に移す。太陽は天球の頂上からだいぶと西に傾いている。

 空はまだまだ青い。あと三十分もすれば赤くなり始めるのかもしれない。

 でも、いまは青く、まだ暑い。熱気が苛立たしくて仕方がない。夜になっても暑いし、朝になっても暑い。

 額から滲む汗、背中を濡らす汗が気持ち悪いし、住宅街を吹き抜ける生活臭を含んだ風も気持ち悪い。そして、友人と知人の間に満ちる沈黙も気持ちが悪い。

 どうしてだ? どうして、こいつらは、いや、司は、来栖が歩み寄ってくれているのに拒絶するんだ。電波を受信しまくってる性格的に友達は大して多くない、というよりいないだろうに、だのに優等生かつ人当たりの良い人間の好意を受け入れないんだ? 与えられたのなら、受け取らないと。人間は意外に優しくないんだからよ。


「天津さん。ここ俺の家なんだけどさ、よかったら寄っていく?」

「……」

「天津さん……」


 俺たち一行は来栖家に着いた。

 ただし、来栖の質問に司が答えない限り、俺と来栖は周期的な日常に回帰できない。そして、司は俺以外に自分の意思を示す態度を取らない。残るのは来栖の困惑、そして気まずい沈黙。

 さて、どうするべきでしょうか?


「司さんよお。俺との約束を果たしてほしいんだったら、こいつの言葉に、いや、俺とその周辺の奴らには答えろ」

「わ、わかった!」


 出来るだけ低い声で告げた約束の条件を司は焦りながら飲む。子供がプレゼントをもらう条件として『良い子であれ』と大人に約束させられるように。果たして俺が比喩としてこれを使って良いのかは分からないけど。

 ただ、安堵した来栖を他所に司はうつむいている。来栖との関係をそのものに拒絶を示すように。


「け、けど。天使は嘘吐きと喋れない。嘘は俗悪。俗悪は穢れ。穢れは神聖を貶める。だから、く……るすは喋れない」


 焦りながら発せられる電波を受信した司の論理は、聞いていて痛い気分になる。精神的に、とびっきり、もう耳を塞ぎたいくらい。けど、こいつの論理は来栖の真理に迫っている。だとしても痛い。すごく痛い。

 共感性羞恥から視線を来栖に移すと、野郎は目を丸くして、口を半開きにしている。イケメン様には似合わない阿保面。


「嘘吐きって……」


 ただ、野郎は途端に声を上げて笑い出す。それはもう大声で、とっても大きい声で、おおよそ来栖家にも響き渡るような笑い声をあげる。近所迷惑も甚だしい。

 突然、笑い出した来栖を鳩が豆鉄砲を食ったような顔で司は見つめる。


「天津さん、君も慎一と同じで凄い人だ! 君は人間がわかってる!」

「人間がわかってる?」

「そう! 胸を張って良いよ!」

「……?」


 物静かで感情を滅多に露わにしない来栖に、司は日常との乖離を覚えて困惑している。いや、来栖を知らないんだから、ただ驚いているだけか。

 とりあえず、喧しいボケの喚きを止めるか。俺か不良連中の仕業にされるまえにさ。


「兄さん! うるさい!」

「あ、ごめん……」


 来栖家の玄関扉が勢いよく開くと、真っ赤な顔をして起こった赤鬼こと優が現れ、怒号を俺たちに向けて放った。肉親の怒りは人をすぐさま冷静にさせるようで、来栖は爆発していた笑い声を収め、捨てられた子犬のような目で妹を見つめた。


「慎一さんも、ぼうっと見てないで止めてください!」


 いや、止めようとしましたよ。

 貴女よりちょっと遅かっただけでさ。

 とはいえ、頭を下げなきゃだめだな。

 表面上の謝罪を示すため、頭を下げようと上体を動かす。


「って、その女性は誰ですか?」

「わ、わたしはさ、坂本の僕」

「僕!?」


 ただ、優は頭を下げる俺を見ず、呆然と立ち尽くす司に視線を移していた。そして、どういうわけか、いや、天使の論理から言って『穢れの無い人』に該当する優に誤解を与える返答を司はした。

 実際、優は兄に負けるとも劣らない絶叫を住宅街に木霊させていた。

 うるせえ……。


ご覧いただきありがとうございます。

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