第一話
新作です。
最後まで読んでいただけると幸いです。
*
私は貴方を見つけました
私は貴方を知りました
私は貴方に縋りました
それは全てを忘れるために必要でした。
*
西暦が二〇二三回も刻まれたのに、地球は自分の体温を自分で冷ます術を身に着けなかった。おかげさまで今日も今日とて北半球は灼熱を味わってる。
そんな地獄とも言える気温の中、人は飽きもせず仕事をする。屋外や屋内で、そして学生はその両方で。
「あっつ……」
蒼穹から降り注ぐ夏の日差しが苦しい。
硬いコンクリートは背中と腰と枕にしている腕を痛めつける。磯の臭いを含んだ不快な海風は伸ばしっぱなしの髪を靡かせる。
現状を整理してみると……、いや、飾り立てて言う必要はない。
単純な話、俺は授業をサボってる。
スマホが示す日付は七月十七日、時刻は十時十五分。
屋上でぼうっと空を眺め、一限の現代文を全部飛ばして、二限目の数学もまた飛ばそうとしているのが、いまの俺だ。不良少年たる矜持を持った少年A、坂本慎一その人だ。もっとも、酒も、煙草も、紙も、ハッパも、クリスタルも、エトセトラも、一身上の都合からやらない健全な不良だ。
「……まずったかな?」
ため息交じりの言葉を真夏の空に吐き出してみる。だが、呟いたところで授業に対するやる気が生じるわけでもないし、教室に戻りたくなるわけでもない。退屈で仕方がないことに、やる気を注ぎ込めるほど俺は出来た人間じゃない。
まあ、だから、退屈が尽きるまで、暑さに負けるまではここでぼうっとしていよう。
どうせ用務員のおっさんの他に来る奴なんて居ないし。家以外で味わえない孤独を存分に味わっておこう。
「誰?」
ただ、孤独は妨げられる。
海風を受け止めてきた錆びた鉄の扉は、赤茶色の蝶番をギイギイと鳴らして、埃っぽい空間と清涼な空間を繋げる。
俺は上体を起こして、つながった空間に立つ誰かを見つめる。
半袖の白いブラウスと紺色のスカート、一年生であること示す赤いネクタイ、ブロンドのポニーテール、そして左目の白い眼帯とグレーの右目。そんな特徴的で、顔立ちの整った美少女は、暗がりから俺をジッと見つめている。
「天使」
「は?」
「天使……。人間の世界の堕とされた天使」
どうやら、彼女の頭はおかしいらしい。曇りなき灰色の目で幻想の存在を語るのだから。
ただ、あまりにも唐突な彼女は、驚く俺を無視して逃げるように階段を駆け下りていく。
唐突な少女Aの出現は、コンクリートブロックで頭をぶん殴られたかのような衝撃を与える。ショックで白む頭は、目の前の空け放された扉を認識することしかできない。
「なんだったんだ、あいつ?」
階段を駆け下りるリズミカルな音が暗がりから聞こえてくる。
ただ、俺の疑問符も彼女の靴音も、すべて吹き抜ける海風にかき消される。
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