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4日目 犀

洞窟付近に落ちてた

枝葉を拾い、洞窟に深入りするつもりはないため、入り口付近の少し開けた所に集める。

若干風が強く、火種を移すのに苦労したが、やがて、パチパチと心地いい響きとともに周囲が照らされる


どうやらここは分岐地点で暗くてよく見えないが更に奥が続いていた

奥地を探検したい好奇心はあるが

今日は無茶できそうにない

探索するなら明日にでもしよう


しばし、ゆるゆら揺れる炎を眺め一息つき

とうに限界を超えていた俺達は、うとうとし始め、こんなところで寝たら敵のいい餌になるとわかっていながらも睡魔にあっさり負け、眠りに落ちる


ガタガタ、ガタガタ


洞窟全体を揺るがす音で夢から醒め、目をこすりながら上半身を起こし周囲を見渡す

周囲が振動し、天井から小石がパラパラと落ちてくる光景を目にし

身の危険を感じる


「やばい、逃げよう。」


こんな状況下でも、まだ寝てる葛城を夢から引っ張り出す

急いで洞窟を抜けようとすると

地面が俺の足元めがけ、亀裂が入っていく

飛び跳ねて、間一髪でかわす


即座に携帯のライトを付け、亀裂の元をたどっていく

そこには、岩肌の色で覆われたゴツゴツした体が特徴な犀がいた。

僕らよりも何倍もデカく、大きな瞳で俺等を見下す


あまりに突然で、後ずさりしながら、体制を整える

だが今一切戦える武器がない

退却一択だ

だが恐らく、振り切るのは難しい

少しでも犀の目をそらして時間を稼ぐしかない


ライターを突き出し、シュボッと音とともに火を見せつけてやるが

小指程度の大きさに、敵は一切ひるもうとしない

殺意に満ちた吐息に、気後れする

もう躍起になって、本体ごとライターを投げつけた


カン 


という虚しい音だけを残し、地面へと転がる


「ーーーーー」


鼓膜を破るかのような声量の叫びが、洞窟内にこだまする


逆効果だったか

絶体絶命


「ヤベーなこれ、どうする?」


「さあ、どうしようか。」


策なんて思い浮かぶわけが無く、その場でモジモジしていると


犀から仕掛け、突進してきた

このまま為す術無く、轢き殺されて散るのだろうと思った瞬間


ドオォォォーン


莫大な爆発音が鳴り響き、爆風に耐えきれぬ岩が

容赦なく降り注ぐ


「まずい、出口が塞ぐ、逃げるぞ。」


葛城の声掛けに、無言で頷く


いくらか落石が敵に命中したはずだ

そんなことでくたばる相手ではないと思うが、時間稼ぎにはなるだろう

何が爆発したかようわからんが、絶好の機会である


「異空間ごと脱出してしまおう。」


「わかった。」


俺の提案に、素直に頷く葛城


崖に立てかけた、自転車に飛び乗り

睡眠でかすかだが、確かに回復した体力を振り絞る


ドコーン


先程の爆発音に似た、衝撃音が鳴り響く

何事かと振り向くと

サイが落石などお構いなく、岩を蹴散らせながら、一直線に追ってくる

かなり距離は取ったはずだが

敵が前足を大地に振り下ろすと同時に

地面の亀裂が、俺等を追尾し

ハンドルを奪う

何度も転倒しそうになるが、辛うじてバランスを保ち、漕ぎ続ける


遠目に女王が見え


「野田あぁぁー、逃げろおおぉぉー」


葛城がいち早く危険を知らせるために、叫ぶ


「逃げろおおぉぉー」


俺も連られて叫ぶ

だがまだ距離は遠く

キョトンと首をかしげてる


女王の元まで戻り


「あんた達、遅かったじゃない。」


「そんなこと言ってる場合かあぁぁ。」


ほとんど止まることなく、葛城は少々強引だが野田の腕を引っ張り、出口まで促す

だが


「なにすんのよ。」


と、いとも簡単に振りほどき


「やっと、手応えありそうな奴が来たわ。」


むしろ、自ら犀に突っ込んでいく


女王は、亀裂を華麗にかわし、距離を詰め、一気に畳み掛ける


「はああぁぁぁ」


という掛け声と共に振り下ろされた刀は、犀の角と正面衝突する


火花が散り、衝撃波が周りに伝わる


能力は互角だったのだろう

女王は間合いの入り方も、太刀筋も、完璧だった

ならば相手が悪かったと言うしか無い

一際大きい体格に、かなりの速度のまま、重い重量がのしかかったのだ

刀が耐えられるわけがない


パキンと砕ける音がして、女王は後方へ突き飛ばされる

女王はかなりの深手を負ったのか、立ち上がってこない


「葛城、野田を頼む。」


「待て、一人じゃ無理だろ。」


「策がある、だから、頼む。」


「わかった。出口まで運んだら加勢する。それまで耐えろよ。」


葛城はそれだけ言い残し、即座に女王の回収を試みる


犀は立ち止まって急に方向転換し、突き飛ばした女王めがけて、又駆けようとした

それをを見逃さず、俺は自転車を置き去り、手袋を投げ捨て、犀めがけて走る


策がある とは半分冗談で、半分本気だ

賭けになるが、賭けずに全滅より、よっぽどましだ


「俺が相手だあぁぁ。」


雄叫びとともに、なけなしの力を拳に込め、殴る

そのまま、呪いを解放する


「ーーーーー」


相変わらず、耳が壊れる叫びを響かせ、体を震わせ、しがみついた俺を払う

振り払われたが、すぐに起き上がり、戦闘態勢を取る


まずい又、距離を取られてしまった

直線的に逃げるのは速度的に無理

要所、要所でカーブを使えば、小回りのきく俺が有利

だが如何せんここは、草原

障害物として、木がまばらに生えているが

岩に対し躊躇なく突進してきたやつだ

木なんて無意味だろう

ならば


犀が突進してきたのと同時に、垂直に逃げる

俺を追うべく、スピードを落としながら方向転換する犀

転換に合わせ、そのまた直角方向へ逃げる

それを永遠と繰り返す

つまり犀を中心にして円を描くように逃げるのだ

イメージは人がトラックの前後にいると轢かれるが、側面ならまだ安全って感じ

それに、近づいてしまえば俺の勝ちである


思惑通り徐々に距離を詰め、犀に飛びかかる


「ーーーーー」


絶叫し、のた打ち回って激しい抵抗に振り落とされそうになるも、必死にしがみつく

呪いは順調に犀を蝕んでいく

振り払うのが無理と悟ったのか明後日の方へ走り出す犀

だが遠目に、人を担ぐ男の姿が見え

葛城と野田を最期に道連れにしようとしていたのだと、ようやく理解する


「このやろおおぉぉ。」


爪を立て、少しでも足を緩めるよう抵抗する


「葛城いぃぃぃ、急げぇぇぇぇ。」


叫び、叫び、叫ぶ

止まれ、止まれ、止まれ、そう祈る

振り落とされないことで、精一杯な俺にできることだった


二人が通路に入っっていったことが確認できたが、それでも犀はスピードを緩める気配はない


おい、おい、通れるわけ無いだろ


犀にとって二回りほど小さい通路に、躊躇なくぶつかり、衝撃で俺は飛ばされる

犀にとっての害虫はいなくなったはずだが、それでも岩を崩しながら進んでいく


振り落とされ、地面に背中を叩きつけられたが、気合で起きる


おい、おいこんなのが街に出たらまずいって

急いで立ち上がり犀の行方を負う


ガラ、ガラ


通路もろとも粉砕し、なんとか野田を外まで運び込めた葛城を

踏みつけようとしていた瞬間だった


消えただと


そう確かにいたはずの、犀が消えたのーーー


目の前の現象を理解するのを許さないかのように

風景が揺れ、立ってられずその場に尻餅をつき、唖然としたままその場に留まる

振動が収まってから

地震が発生したことをようやく理解した


もう何がどうなってんのか全くわからないが、助かった、助かったのだ

その場で大の字で寝転ぶ

はあー、いや助かった、助かった

安堵に浸り、全壊した通路を見る

派手に壊れたなあ、と呑気なことを考えてると


黒い連中


が脳裏をよぎる

ヤバい、まずい、詰んだ

言い訳なんて通用しない

まず、そもそもイタヅラレベルじゃない、下手したら警察呼ばれる

それに顔を隠すような連中だ

俺等が壊したと知ったら、何されるかわからない


「ヤバい、早く立ち去ろう。」


「それは、俺も同感だ。」


「野田は大丈夫か?」


「突き飛ばされて失神してるようだが、多分軽症だ。

マジですごいは、こいつ。」


「そっか、それは良かった。」


ほんとに、こんなところで死なれたら、償いようがなかっただろう


「お前、怪我は?」


葛城に心配される


「なんとかなった、だが昨日の傷が開いちまった。」


「どうする。また俺んち来るか?」


「スマンが、そうさせてくれ、迷惑かけるな。」


「よし、二人で運ぶか。」


あっ、まずい

実はまだ、というか誰にも呪いについて話してない

素手で、触るのはまずい

手袋を探そうとすると、盛大に捨てて、置いてけぼりだったことを思い出す

どうしたものか


「おい、早くしろよ。」


葛城に急かされるも、聞こえないふりをする


「え、何手伝ってくんないの。何、何か隠してんの?」


ヤバい妙なところで感づきやがる


「うっっ〜ん。」


腕を伸ばし、やっと起きる

フー助かった


「ここは?」


「現実世界、これから俺んちに向かう。手当していけ。」


葛城が答え、かなり妥当な提案だと思ったのだが


「嫌。」


「「えっ、なんで。」」


ついはもる


「私、大事な刀、折ったから、家帰れない

それに、あんたの家行ったら親経由でバレるじゃないの。」


なんでそんなことわかんないの

と言いたげな口ぶりには文句はあるが、なるほど確かにしょうがないか


「じゃあどうすんのさ〜。」


「どうしよう。」


その会話の後、二人は同時に俺を見る

すごく、すごく嫌な予感がした


ーーー「「お邪魔しま〜す。」」


俺は自慢ではないが、同級生を家に呼んだことがない、それに異性なんて言わずもがな

普通なら喜ぶ光景なはずなのだが

即刻帰ってほしいと思ってしまうのは俺の心が狭いのだろうか

はあ〜 ついため息を漏らす


「お前ん家、質素だな。」


「質素というか、物がほとんどないわね。」


悪かったな、インテリのセンスなくて

リビングの中央にテーブルをドン、と置いただけで、ほとんど何も無い

不必要なものはすべて排除し、必要最低限しか置かないのが俺の美学だ


「洗面所借りるね〜」


「菓子もらうは〜」


適用能力の高さに恐れ入る

だが、どうしても気になるので口にして叫ぶ


「なんでお前も来てんだよ。」


「ええ、なんで俺だけとがめんの?野田には何も言わんの。」


「理解できんけど、理由あるし。お前はなんでかと聞いてんだよ。」


「面白そうだから。」


「じゃあ、帰れよ。」


「えっ、もしかして二人きりが良かったとか。」


はあ〜 、もうめんどくさい

すべてを諦め、補充してた替えの手袋をはめ、左腕に新しい包帯を巻く


他人が自分の家にいると落ち着かない

めちゃくちゃソワソワする

最悪、帰ってほしい


「腹減ったは、冷蔵庫開けるね、う〜ん、焼きそばにしようかしら。」


それ俺の晩飯


「じゃあ、パンもらう。」


それ明日の朝食


何故か家主である俺が冷蔵庫から、あらゆる物をかけ集め、料理とは程遠い

バイキングでただ片っ端から脳死で集めた感じになった


「なあ、神風、あの犀野郎、なんで消えたんだ。」


「俺もわからん。」


「死んだわけでは、無いんだよな。

でも、あの直後の地震なんだったんだろうな。」


「自爆機能ってことじゃないの。」


焼きそばを頬張りながら、答える野田


二人の言う通り、

とどめを刺したわけでも、破裂音がしたわけでもない

だが犀が消えたのと地震が発生したタイミングが同時すぎる

この国は地震が比較的多いが、こんな偶然はかなりありえないとしていいだろう

つまり何らかの、因果関係があると見ていい気はする

まあ、証明方法なんてありゃしないけど


「いや〜それにしてもよく生き残れたもんだぜ。」


「だな。」


「神風、そっからどう戦ったんだ?」


自分のことをひけらかして、自慢するのはあまり気が乗らないほうなのだが

今日の俺はテンションが上っていた

なんてたって全滅もあり得たところから、見事誰一人欠けることなく生還したのだから

少し武勇伝を語る

恐らくこれが火をつけてしまったのだろう女王の怒りを察知すべきだった


「ああ、もう思い出すだけで腹立つぅぅ〜。」


突然台パンとともに、女王は叫ぶ


テーブルよ、よく耐えた


「いきなりなんだよ。」


「絶対勝てたのに、てか勝ってた、私が勝ってた。」


台パンしながら文句をいう女王


テーブルが、、、テーブルが、、、


「ああ、もう足りないわ、あなた達ここで待ってなさいよ。」


そう吐き捨てて、家を出る女王


えっ、帰った、ラッキー


「葛城、お前も帰れ。」


「はあ?えっ、なんで、それに待ってろって命令されたじゃん。

逆らうと殺されるぞ。」


高級菓子を貪りながら答える葛城


その菓子引き出しに隠してたはずなんだけど


「なんでもいいから、帰れ。」


「え〜、やだ〜。」


クッソ、むかつく

一切帰りそうにないので、皿を洗い、洗濯を取り込むなどして、家事をこなしていると


玄関が勢いよく開けられ、人影が飛び込んでくる


「さあ今から稽古するわ、相手になりなさい。」


そう言って、俺達それぞれに、竹刀を投げつけてくる

顔面めがけた直球で、危うく死ぬところだった

そして、なぜか俺等が相手になる羽目に


どうやら、犀との決戦が納得いかないらしく、練習が足りないだとか


女王、それは八つ当たりです


怒りに任せた振り方は、一切手を抜いてくれず、家に殺人犯呼んだ気分


「おい、命令に従っても死ぬじゃん。」


「逆らったほうが、それ以上に死ぬんだよ。」


泣きそうになりながら、家じゅうを駆け回って逃げる

こんなこと小学生、いや幼稚園以来じゃないか

俺達、何やってんだろう


なんとか女王のストレス発散に成功したらしく、


「フー、今日はここまで。

後、それと今日、泊まっていくから。」


は?まじかよ


「さっき、竹刀と着替え持ってきたのよ。準備万端でしょ。」


でしょ、じゃないんだよな


「いいな、それ、俺も泊まる。」


のってくんな


「帰れよ、親心配するだろ。」


「大丈夫よ」

「大丈夫だ」


お前らが大丈夫かどうかじゃないんだけど


「じゃあ、風呂どうすんの。」


不敵な笑みを浮かべる葛城


確かにそれもそうだ、だが


「キモ、近くの銭湯に決まってるでしょ。」


ですよね〜


二人が銭湯行くうちに、鍵閉めてしまおうとしたが

葛城が、シャワーでいい と言って

家から出ようとせず、失敗


女王が帰ってきて、流石に全員疲れたので床に就く


「こっちの部屋、絶対来ないでよね。」


「誰が覗くか。」


だからここ、俺んち

もちろん家主抜きで場所決め

まあ、片付けてるから、スペースには困らないけど


今日は色々ありすぎて、すぐに眠りに落ちた

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