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6/9

4日目 最強のスケット

「おはようございます。」

「おはようございます。」


朝礼を終え、いつもの如く顔を机に伏せ、だらける

まだ完治していない左腕を見て

銀狼との対戦を振り返る

現状の圧倒的戦力不足、装備の質の悪さを思い知る

まずいな、なにか打破できる案を出さなければ

そう思考していたところ


「神風、今日もお前行くのか?」


少し小声で話しかけてくる


「行こうと思う。」


即座に返した


「その怪我でか?」


「今しかないんだ。」


そう今しかないのだ

負傷して、体が思い通りに動かない

だがそんなことで、こんなにも不思議な体験、未知への冒険のチャンスを奪われてたまるか

今辞めるということは

ゲームでちょうど今いいところなのに、親に電源を落とされた気分だ

中途半端では終われない

どうせ学校生活は退屈だ

ならばつまらない日々を逸脱し、挑戦した末に、死を遂げるのは、ある意味で本望かもしれない

結局のところあの空間は、誰にも譲れないのだ


「そうか、なら俺も行く。」


葛城が俺の覚悟を聞いた後、しばしなにか考えた後、答えた


「だが、戦力差が歴然としてて、このままじゃ太刀打ちできん。」


不安をそのまま言葉にする


「それはそう。このままじゃ二人とも死ぬ。」


しばし間があき


「よし、じゃあスケット呼んでくる、

ゴリラみたいに超腕力強いやつ連れて来るは。」


と元気に声を上げ、教室を後にする葛城


おいこら待てよあいつ、異空間は秘密にしようと昨日あれほど言ったのに

慌てて追いかけるも、すでに背中すら見えず見失った

諦めて席につき体力回復に勤しんでいると


「神風、呼んできた。」


意外にも早く戻ってきた


「何よ、葛城、話って?」


目の前にいたのは正真正銘の女子だった

あいつが、ゴリラだとか言うから

てっきりマッチョでも呼んでくるかと思ってた

というか、失礼だろ


「野田に警護をしてもらいたい。」


間違ってはないが

何となく男としてのプライドが傷ついた気がする


「はあ?えっ、何?あんた、殺人犯にでも狙われてんの?」


「え〜そうじゃなくて、え〜と、え〜と。」


こちらに助け舟を求めるかのように目配せしてくる


何も考えてなかったのかよ


さあどうする。どこまで話す。

常識な人であればあるほど、このたぐいの話は本気にしてくれないだろう。

いくらか嘘を混ぜて話すか?

それともいっそ何も繕わず話してみるべきか?

判断に迷う

とりあえず質問してみる


「対動物ようの兵器みたいなの持ってないか?」


言葉にした瞬間、自分の言動を恥じた


何やってんだ俺、初対面の人に何を聞いてんだあぁぁ、それも女子に


悶え苦しむ


「えっ、どういうこと」


あっ、引かれた

ろくに他人と会話しないし、異性なんて下手したら片手で数えられるくらいしか

話したことがないっていうのに

慣れない事するんじゃなかった


「でも〜、一太刀で両断できると思う。」


えっ、どういうこと

そっくりそのまま返したくなった


するとチャイムが鳴り出し1時間目の始まりを告げる

野田というらしい女子は「後で」という言葉を残し自教室へと戻っていった


授業が始まって程なくして

前から紙が飛んでくる

突然の出来事に、びっくりしたが

飛行機状に折られた紙を広げ、書かれた文字を読む


内容をざっとまとめると、こうだ


あの女子は、野田加那という名で

家が道場らしく、剣道やら柔道やら格闘系において最強らしい

現に、昨年は剣道の全日本大会で優勝

実力は本物だと言えるだろう

そして葛城と野田は家が近く、幼馴染でよく話すらしい


この学校にこんなにすごい人がいたんだと初めて知らされる

他人に興味がない俺を見透かしたかのように

やたらと詳細に書かれてた

少し癪だが有益な情報を得られたから、良しとしよう


次の休み時間までには、勧誘文句を決めとかなければならない

だが、あんなに強いとクラブ所属してるんじゃないか?

それに、昨年の覇者をダンジョンにぶち込むことに罪悪感を抱く

これ以上のない人材で、仲間にすれば心強い

だが彼女の人生を考えると〜

う〜ん 悩ましい


 チャイムが鳴り、休憩時間に入る


結局うまい誘い方が思いつかず直球で聞くことにした


相手にしてもらうのは人ではなく、得体の知れないもの

怪我する前提で、死の危険すらある。でも、いやだからこそ君にしか頼めないと

100人中100人がnoと言いそうな

いかにもブラックを漂わせる勧誘だったが


「いいわよ。」


意外な返答にびっくりする


「それに、最近、対戦相手が人じゃ満足できないのよ。」


えっ、なにそれ、かっけぇ

普通に惚れてまう


まあなんだかんだで交渉成立

最強のスケットを引き入れることに成功した


ーーー帰宅を知らせるチャイムと同時に教室を出て飛んで帰る

家について少し探しものをする

ふと思い出したのだ


動物って大概、火に弱い

まあ、あの怪物を動物認定してよいかは定かでは無いが

確かめる価値はある


そういうわけでライターを探す

押入れの奥の奥にあって見つけるのに苦労する

時間を浪費したことを取り戻すべく、ちゃっと支度を済ませ家を後にする


神社のところで待ち合わせ

通路のことを話しても良かったが

うまく説明する自信がなく、それに一見は百聞に如かずとも言うので

実際に見てから話すことにした


程なくして葛城が、更に遅れて、野田が来た


「お待たせ、遅れてごめん」


息を弾ませながら謝辞を述べる野田

この文言だけ見るとデートっぽく見えるが

服装は至って真面目

黒い正装をまとい腰には刀をつけている


「それ、真剣か?」


「あっ、うん。お父さんに内緒で持ってきた。」


無断で持ってきたのかよ


「バレたら縁、切られるかも。」


怖いことさらりと言わないでほしい


「こっちだ。」


自分が見つけたんだと言わんばかりに葛城が先頭で案内する


通路を抜け出口を出る


「まっ、いい場所じゃない。で、それで、敵はどこなの?早く案内しなさいよ。」


どうやら同年代に敵なしの女王様には戦闘にしか、興味がないらしい

俺的には、争いを可能な限り避けたいのだが



今日の役割はこう

女王が言うには、敵の出現を待っていては効率が悪く

休息抜きで戦い続けなくては、練習にならないらしく

男二人は自転車で駆け回り、敵を見つけ次第敵を引き付け

全速力で漕いで女王まで戻り

一刀両断してもらう

という計画だ


無茶な、と思ったが


「あなた達、戦力になるの?」


と問われ、ぐうの音もでず

女王の指示に従った

まあ偵察もできると言うことで仕方なく承諾した


「よし、やるか。」


葛城はハンドルを握りいつでも行けるぞ、というアピールをする


なんでこんなにやる気なんだコイツ

実質敵陣に無防備で飛び込むようなものなんだぞ

そこんところ、わかっているのだろうか


「じゃあ俺が団長で、神風が兵長な。」


勝手に役職名決められた

雑用扱いの、団長と兵長って、先が思いやられるな


「早くして」


女王は木陰で涼みながら、怒りを示し

二人は慌ててスタートを切る

俺が左側、葛城が右側というように二手に分かれる 


しばらくすると、遠目に岩が顔を出す

どうやらあの辺で草原は終わりなのだろう

崖や洞窟らしきものも見える

この間に偵察を済ませておこうと思った矢先


「ーーー」


叫び声がする

声のする方へ目をやると

昨日の銀狼が佇んでいた


ぎゃあ、逃げろ〜


一目散に逃げる

片手なのでバランスを崩しながらも

ケイデンスを上げる


ふと後ろを振り向くと

やはり風をまとって、しっかりと追いかけてくる

もう目が怖い


女王が待つ根城までたどり着き


「スマン、頼む。」


「オッケー、任せなさい。」


剣を構え、槍かのごとく迫ってくる敵を、見事に斬り伏せた


昨日の努力は一体何だったかと思わされたが

見とれる程に華麗だった

だが敵が消滅する前に起こす奇妙な現象が脳裏をよぎる


体が反射的に動いた

女王の背を押して地面に伏せさせる


「ちょっ、なに」


彼女の戸惑いとともに破裂音が響き

圧縮された空気が解放され、俺の体を掬う

ジェットコースターで真っ逆さまに落ちたときの

フワッとした感覚が全身を襲う

足が地を離れ、宙に浮く


何としても落下死する高さまで飛ばされるのを塞ぐため

一瞬、視界に映った枝に手を伸ばす

ガチッと掴むことに成功したが、風は止まず

枝が折れぬことを祈りながら、そのまま堪えた


風が止むのと同時に、枝が重量に耐えられず折れて

俺は逆さまの状態で自由落下

ドサッ と地面と衝撃する

軽症は負ったが、なんとか死は免れた


「ちょっと、大丈夫?」


変な体勢で落ちたからか、心配してくれたらしい


「大丈夫だ。心配ない。

それと、スマン。敵を殺したと同時に自爆機能が発動するのを、伝え忘れてた

ほんとスマン。」


情報共有不足だった。危うく日本の宝を、こんな事でくたばらせる、ところだったぜ



「吹き飛ぶのが、自爆機能ってこと?」


「そう、他に知ってるのは、水の塊を生成するのがある。」


「へ〜、でもそっちは害なさそうね。」


「ああ、たぶん。」


理解が早くて非常に助かる

だがそれにしても一撃で切り裂くなんて、すごいなと感嘆してるところ


「何ぼーっとしてんの、次」


まじですか、休憩なしですか、俺これでもけが人なのに

愚痴をこぼしながらも、役割をこなす


1つ想定外なのは、可能な限り敵に近づいて誘き寄せる手はずだったのだが

見つけた瞬間に逃げ出さないと追いつかれて死ぬレベルだったこと

敵に追われるとは、時速60kmのトラックが背後に迫ってくる感じ

洒落にならん


何回往復しただろうか、もうわからないくらいになると、頭はおかしくなる


敵という名の爆弾を抱えデリバリー

命がけで客である女王のもとに届けても

「遅い」だとか「手応え無い」などのクレームの嵐

ですが客は神、これ絶対、なわけで逆らえるわけなく

又、現地まで行って、敵を仕入れ、新鮮なままお客様まで届ける

エンドレス配達

ああこれが世に言うカスハラか


シフトが同じのバイト(葛城)がサボって、木陰でねそっべていたので

最後の一品を届け、俺も崩れるように寝転ぶ


「あなた達、体力なさすぎじゃない。」


「振り回してるだけで、一歩も動いてないやつに言われたくねえぇぇ。」


葛城が間髪入れずに反抗する


いけ葛城、モンスターカスタマーを始末してしまえ


「ああぁぁん。」


この威圧に


女王>>銀狼>鯨=俺、葛城


であることを改めて認知する

そうだ、そうだった、この世界は弱肉強食なのだから


「なに、もう辞めるの?辞めるの、辞めないのどっち?」


もう答え出てるもんじゃん


俺等雑用係は渋々、元の作業に戻る


もう疲れたので、二手に分かれず

一緒に漕ぎ始めた


女王の目が届かないところまでくると


「疲れた、寝たい、帰りたいよお〜。」


本音が溢れ出る葛城

俺も正直足がやばい


「なあどっかで休憩しね。」


葛城の提案に


「賛成。」


即座に答えた。そして、


「確か、あっちらへんに洞窟があったはず。

そこなら敵からも野田からも見つからんだろう。」


「よし、決まりだ。」


これまでの頑張りのお陰で、敵は一掃され、途中で敵に出くわすことなく

無事たどり着く


崖の脇に自転車を止め、洞窟の近くまで歩く

洞窟からの冷たい風が心地いい

そのまま中には入り、携帯で中を照らし

ちょうどいい高さの石を見つけて、腰を下ろす


「ここでキャンプしようぜ。」


女王の拘束からとかれ、呑気なことを言う葛城に


「俺、ライター持ってきた。火起こしてみるか?」


珍しくのった


自分でもよくわからないが

共通の敵に遭遇すれば、犬猿の仲でも協力するってことだろう


適当に時間を潰し、適当な時間で何食わぬ顔で女王の元へ戻ろうとしていたのだがーーー

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