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三日目

漫画を堪能していたわけだが


背筋が凍る

背後になにかいる、なにか違和感がするのだ

振り返ると同時に、眼前が真っ黒になる


やばっ


反射的に身をかがめ、かわす

間一髪だった


正体がなにか突き止めるために 

恐る恐る顔を上げる


そこには、銀髪の狼が佇んでいた

真っ赤な瞳が俺を睨みつける


一瞬怯み、後ずさりする

オーラが昨日のと格が違う

体格はそれほど大きくないが

キラリ、輝く鋭い牙が

失敗が許されないことを物語っている


敵から目を離さないまま

ポケットに忍ばせた果物ナイフを探す

柄を手に取り

いつでも攻撃をしかけられるよう体制を整える


両者その場でにらみ続け、緊張感が漂う

沈黙を破ったのは狼


ゴオー という音と共に草木を揺らしながら風をまとい始める

始め、手のひらサイズの風の塊が、みるみる巨大化し今や鎧となって俺の背丈を超えている

そして準備万端というかのように

鎧をまとったまま突進してくる


頭が、否、本能が逃げろとそう叫んでいる

背を向け走り出そうとしたのだが

その鎧は竜巻のようなもので

あらゆるものを引き込んでいく

人間とて、例外などではなく

その場に踏みとどまるのが精一杯だ


逃走は無理、かなりまずい


俺はナイフを力強く握りしめる

覚悟を決めたのだ


狼が八つ裂きにしてやらんとばかりに

口を大きく開けたまま飛び込んでくる


辛うじてかわし、側部にひと突き


「ーーー」


痛みを訴える叫びが俺の脳を貫く

耐えられず耳を塞ぐ


痛みからの怒りか狼の眼は更に赤く、鋭くなる


攻撃されては、かわし

攻撃されては、かわすだけで結局反撃できたのは初めだけ

うまく立ち回れないでいた


敵に近づきすぎるのは危険

そんな事はわかってる

だが鎧の効果もあってか

ジリジリと引き寄せられる

詰まされるのは時間の問題だろう

なにか、打開策を

なにか、ないのか


冷や汗をかきながら

思考を巡らす

やはり昨日と同じく呪いに頼るしか無いか


俺も覚悟を決め

敵を睨み直す

狼が飛びかかった瞬間

ありったけの力を足に込め、大地を蹴る

風の引力に負けない力で

狼とは明後日の方向へと進む


逃亡を図ったように見えるかもしれない

だが違う

この敵を倒すには

まだパーツが足りないのだ

数メートル先へ進むだけでいいのだ

頼む間に合ってくれ


神にすがる思いで足を、がむしゃらに動かす

先程のパーツである、リュックを手に取り

すんでのところで

狼の顔面を叩く


そんな攻撃では怯むはずもなく

また飛びかかってきた


今度は盾のように前に構え

真正面から体当りする


反動で俺と狼が鞄を境として

ゴロゴロと転がる


隙を見て

鞄をオオカミの口に無理矢理突っ込み

両手で口を抑え込む

牙封じだ


相手の攻撃を封じるために

必ず一撃は喰らわなければならなかった

可愛そうだが、その役割を鞄に担ってもらった

だが俺は無傷で済んでいる

この犠牲は無駄などではないはずだ


相手を無力化に成功したら

後はお手の物

素手で生気を奪うだけ簡単なお仕事ーーー


と思っていたのだが

風の鎧が勢力を増す

周りの空気もろとも吸い込むこの鎧は

呼吸すらも容易にはさせてくれない


息苦しい、次第に腕の筋力も弱まり

せっかく捉えていた口を自由にしてしまう

立場は一瞬にして逆転する

ほとんど体力を使い果たした俺は

立ち上がることもままならず

這うようにして、距離を取る

もちろんそんな事、気休めに過ぎず

狼はギラつかせた牙で

俺の左腕を噛む


「くっっぅ、、、」


言葉にならない声が漏れる

激痛に耐えながら

右腕で呪い殺そうとしたが

如何せん手袋をはめたまま

更に、片腕が封じられている


ジタバタしてる間に

噛む力が徐々に強くなる


激痛が走る


痛みに耐えられず

ただこの獣を腕から離すことを一心に、何度も何度もナイフで刺して反撃する

だが狼は動じない

一向に離そうとしない


それでも引き続き攻撃する


「離れろ、離れろ、離れろおおおお」


死力を尽くして、対抗する

だが次第に力が、握力が、手の感覚がなくなっていく


やべ、これ死んだな

死を悟った瞬間だった


「やめろおおおおぉぉ」


すさまじい雄叫びとともに、全速力で駆けつけた友は

棍棒のようなものを振り下ろし

めいいっぱい狼を叩きつける


それには狼も耐えきれず

腕から口を離し


「ーーーーー」


耳をつんざく叫びを上げる


それでも友は手を緩めない

原型がわからなくなるほど、徹底的に

そして何度目だっただろうか


パッン


昨日と全く同じ破裂音とともに

圧縮に圧縮し、溜めに溜めた圧力が開放され

二人を吹き飛ばす

不幸中の幸いというべきか

二人は近くの木々にぶつかり、空高く舞い上がるのを防ぎ、死は免れた


しばらく沈黙がただより

一人の少年がむくっ、と起き上がる

そして友の怪我を見て慌てて駆け寄る


「おい、神風 大丈夫か、おい、大丈夫か」


心配そうに顔を覗き込んで話しかけられる


「ああ大丈夫だ」


と言い何事もなく、立ち上がるつもりだったのだが

ヤベー、腕がおもすぎる

それにまだ出血が抑まらない

体制を崩し、木に寄りかかる


「おい、マジで大丈夫かよ」


「スマン、俺の自転車持ってきてくれねーか」


「おっっ、おう」


戸惑いながら素直に従う葛城

程なくして


「はいよ、神風、俺んち寄ってけよ」


それは悪いと思いながらも

傷の癒えない腕を見て


「スマン、頼む」


甘えさせてもらった


負傷した左腕をハンドルに置いて

右腕だけで漕ぐ

利き腕じゃないほうで助かった


葛城は凹んだバットを引きづりながら、駆け足で案内する

どうやら棍棒に見えたのは、バットだったらしい


黒い連中に出くわすことなく

通路を抜け、急いで葛城家についた


「ここで待ってろ」


とだけ告げられ、玄関で待たされる

程なくして、消毒やら包帯やら絆創膏やらを抱えて現れてきた


「どれかわからんから、ありったけ持ってきた」


「後は俺がやるよ」


傷口を消毒し、包帯で巻き、応急処置をする


「まじで本当に助かった。お前があの時駆けつけてくれなかったら絶対死んでた。ありがとう。」


何ひとつ飾らずお礼を言った

そしてこれまで冷たくしてたことを恥じた


「いや、まあ友として当然のーーー


「まあ、お友達」


明るい、とても優しい声がした


「母さん」


驚いた声で葛城が叫ぶ


「お、お邪魔してます」


とりあえず会釈する


「え、なに怪我したの?もしかしてあんた友達に怪我させたの?」


さっきの優しい声と裏腹に

表情とともに声が険しくなる


「違げーよ、神風はモンスーーー


「あーーー」


言い切る前に俺が大声を上げ、まだこの事は秘密にしようと目配せする

それを察したのか


「じゃ、じゃなくて、神風はガードレールに突っ込んだんだ」


嘘下手かよ


「あら、そう?」


「あっ、はい そうです。」


こう言うしかなくなるだろ


「そういうこともあるわよね」


納得しないでもらえます?


「てっきり喧嘩でもしたかと思ったわ

私も若い頃、夫と痴話喧嘩して、手当てしたものだわ」


血が出るほど?こいつの両親大丈夫か?

優しい声がより一層怖くなる


「さあ、上がって上がって神風くんでいいかしら」


「あ、はい草凪神風といいます。」


「ごめんなさいね、あまり家お菓子余ってなくて、選べないけど

リンゴジュースにショートケーキでいいかしら。」


「あ、はいお願いします。」


自然すぎて、断りきれず、帰るタイミングを失った


もう諦めて誘導されるがままに葛城の部屋に行き

地べたに腰を下ろす


「スマン、母さん久しぶりに人が来て喜んでる。

できれば相手してやってくれ。」


「は、はあ。」


曖昧に答えた


出された菓子を堪能しながら、俺の持ちうるすべての情報を伝えた

そして気になってた

あの空間が現実と全く同じ地形だという発言を

地図を片手に、調べてみた

完全な確証はないが、同じだと言われるとそんな気がする

結局これ以上進展はなく、解散となった


葛城の家を出たときにはずいぶん遅くなっており

風が冷たくなっていた

その風が傷口を刺激し、さらなる敵への遭遇の不安を煽った

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