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04 諦めなさい、試合は終了しています

「私の持って来たお弁当にする?」

「食べちゃうとなくなっちゃいますよ?」


 素材が足りなくて、まだ作れないことを伝えると、レシピを見せて欲しいと言われた。私にはなんと書いてあるのか分からないが、半透明のグレー表示のものが足りないということは分る。


「ああ、調味料かあ。ってことはから揚げがお預けになるんだねえ」


 ムムーッと、しかめっ面のホノカ様。


「プラ系のものは、さすがに作れないみたいね。でもガラス容器になるとは」

「ペコペコしてます。不思議です、異世界の容器」


 それに加え、モンブランやヨーグルトを食べるために付けてもらったという、スプーンも作れない。ただ、木のスプーンとしてレシピには登録されている。

 トンカツ用ソースやカラアゲ用マヨネーズ、ヨーグルトに付いてるジャムの袋はプラ系素材のため、レシピでは小瓶になっていた。


「今日は初日だし、記念にとんから弁当を食べちゃおう!」

「いいんですか?」

「いいよいいよ、私は子供になったし弁当は大盛りだしさ、2人で食べよ」

「はい!」


 私はフォークをクラフトしてみた。木の作業台に木づちを打ち付ける。


「おぉ……不思議だ、ゲームの能力が目の前で展開されてる」

「できましたっ」

「魔力とか平気?」

「問題ありません」


 じゃあ食べようということで、いただきますと声が揃う。

 2人でカラアゲを1つずつ取り、口に運んだ。


「美味しいです!」

「さすがに揚げたてじゃないかあ」

「あれ? がっかりする味なんですか?」

「揚げたてだとザクッていう食感が最高なんだよね」


 つまりもっと美味しいということ。ホノカ様の生活を教わるだけでは分からなかった部分に、更なる幸せ成分があったようだ。こんなに複雑な味がするのに。鶏肉の美味しさに、塩ではない美味しさが混ざってる。僅かに感じる、甘い辛いじゃない不思議な味が、塩味と合わさって至福の時を与えてくれた。


「作りかた覚えます!」

「うん。調味料が足りないからさ、その内ね」


 もう一度揚げるか、火で炙れば外側はカリッとするだろうし、まあいいやみたいなホノカ様。あんまりこだわりがなさそう。

 でも私はもっと美味しいであろう、カラアゲに辿り着きたい。


「足りない調味料はなんでしょうか?」

「醤油と日本酒かなあ」


 ニホンの調味料。ソース、マヨネーズの素材は手に入りやすいものだそうだ。でもカラアゲに必要なショーユとニホンシュ、あとミソもだけど、これらは発酵食品だから難しいみたい。


「その3つは、すぐ作れないのでしょうか」

「今は無理っぽいよ。諦めなさい、試合は終了しています」


 私の作業台のグレードアップが必要らしい。私に一言断ってから、ホノカ様がレシピをポンポンつついて発見した。

 その内作れるみたいって。発酵ダルを。


「あいにく私は発酵食品の作り方なんて知らないからさ。マイに期待」

「残念です……じゃあトンカツは軽く炙って食べます!」

「私もー!」


 程よく温まったトンカツは、表面の水分が抜けてザクッとした歯ごたえになっていた。そしてお肉はとても柔らかく、歯切れよく甘味すら感じる。しかも臭みもない。ミフルー様も仰っていたなあ。ニホンの方々の食に対する情熱を思いだし、驚愕に値するものだと私は思った。

 一流の料理人クラス、と私には思える味が、お手頃お手軽なコンビニ弁当で出せるなんて。


「私は感動と共に恐れを抱いています」


 別の異世界人様が作ってるかもしれないから、私はショーユとニホンシュを探してもいいのではないかと思った。


「世界はきっと広いですよね」

「なんかマイがオカシナことを考えてる気配がする……」

「気のせいだと思いますが」


 食の細い私と、子供になってしまったホノカ様では、残念ながらデザートまでは食べられなかった。相談して明日の朝食後に回すことにする。


「はい、ホノカ様。歯磨き用の枝です」

「枝? え? 枝?」


 私は枝の端っこをガジガジ噛んで、房状にしてから歯を磨くと説明する。


「齧るときに、渋かったり苦かったり酸っぱかったりしますけど、ペッしてください」

「マイの作業台は宙に浮くタブレットが出るのに……歯ブラシは木」


 ホノカ様の世界には専用のブラシがあったはずだけど、ここにはないので指か枝以外には手段がない。町に行けばひょっとしたらあるかもしれないけど、私は知らないから諦めてもらうしかなかった。

 なにかを収納箱に入れると、歯ブラシもレシピが出るかもしれないな。


「せっかくお口の中が幸せだったのに、木になっちゃいましたね……」

「うん……せめて次からは塩を使おうよ」

「はい」

「さて、仮のお家を建てます」

「はいっ」

「マイは丸太ブロックをどんどん作っちゃって」

「分かりました!」


 もうお昼も過ぎてるし、暗くなる前に家を建てる必要がある。だから簡単なトーフハウスというものを、私の作業場の隣に建てるそうだ。

 私はお手伝いできるほど動けないので、建材ブロック作りと体力作りが当面の仕事になる。

 早くお役に立てるよう、頑張ろう。


「うん。現実で建材ブロックがくっ付くっていうのは不思議っ」

「えっと、くっ付く丸太ブロックじゃなくて、そのままの丸太だとダメなんでしょうか?」


 そう聞いたところ、作業台を使ってブロックにすることで、木が乾燥して建材として使えるようになるんだそうだ。もちろん、くっ付くのも大事らしい。

 強度が上がってると言われた。


「凄く大事でした」

「でしょ? いい能力っ」


 やっぱり私には過分な力のような気がする。

 収納箱に素材が入ってる状態でも、丸太ブロックが作れる不思議な作業台だし。


「ホノカ様からミフルー様のポイントを、奪ってしまったのではという疑問が生まれました……」

「私のポイントがマイより少なかったのはねえ、異世界転移にポイントを消費してるって聞いてるよ」


 ミフルー様が私のことを気に入ったんじゃないかと言われた。

 私にいったいなにがあったと言うんだろう?


「刹那の輝きを拾うって言ってたヤツじゃない?」

「さっぱり分かりません」

「じゃあ神様になるしかないね」


 笑いながら言われた。

 それは無茶です、ホノカ様。


「そういえば早い内にお風呂とトイレを用意しておくべきかもしれない」

「でしたら便器は作ります」


 正直に言えば、汗もかいたし色々と汚れてしまった。でも水浴びだと辛いので、お風呂は嬉しい。

 トーフハウスも完成し、作業場にも屋根が付いてる。だからホノカ様は、次の建築予定を立てたみたいだ。


「え、と、ホノカ様ばっかり働いてもらってます」

「私だって快適に暮らしたいからね。マイは火を起こして石を温めておいて」

「分かりました」


 ホノカ様は湖から拠点まで、水路を引くと言って出かけて行った。私はお風呂の水を温めるために、熱くする石をたくさん用意しなくては。大き目の焚き火をいくつか作らないと間に合わないだろう。


 魔物は付近にいなかったはずなので、行動範囲を少し広げて枯れ木や葉、布にするためのツタも集めていく。身体強化をすれば、私でもそれなりの量を運べるはずだ。


「ふぅ」


 ベッド用の布が必要だから結構な量のツタが必要かな? となれば、先に火を起こして石を加熱しておこう。破裂しても飛び散らないように奥に置いて、と。


「スパーク」


 薪に火をつけてお風呂用の石の準備が整ったので、戻ってきたホノカ様にベッド用の素材を確保するために再度出掛けることを伝えた。


「魔物は見てないけど気を付けてね、マイ」

「はい」


 ホノカ様は凄いなあ。水路が石畳になってるから、綺麗な水が流れてくるはずだ。それに比べて私なんて、ツタで編んだカバン1つだけ。完全に足手まといだ。異世界人様と比べるのもおこがましいけど、早く人並みにはなりたい。


 弱い身体強化を掛けて、軽い駆け足で採取していこう。鉱山にいた時に使っていたから、毒消し草や傷薬になる薬草は覚えてる。果実や木の実も試しながら食べてたし、ついでに持って帰ってホノカ様に鑑定してもらえば万全だ。

 私はカバンいっぱいになるまで採取して帰宅した。


「ホノカ様、ただいま戻りました」

「おかえりー。もうすぐトイレが完成するよ」

「文明が発展してきましたね」


 水路には蓋が付いてるし、簡単なものだけどお風呂までできている。さすがとしか言いようがないなあ。


「あとで鑑定をお願いしていいですか?」

「もちろん。鑑定もどんどんレベルアップさせないとね」


 ところで、とホノカ様が言う。

 カバンは作業台で作れないのか、と。


「えー、と……作れました……」

「アハハ、ちゃんとレシピを見ないとダメだよ。タオルと服と下着も必要だから確認しておいてね」

「はい」


 お風呂に入っても、身体が拭けない。

 服を洗濯したら着替えもない。

 急いで作ろう。


「足りないものが多いですね」

「マイはまずタオル、寝具、服の順で作って欲しいかな」

「はいっ」


 足りると思うけどと言いながら、ホノカ様がインベントリからツタを出して収納箱に移してくれた。

 私が採取に行っている内に木材が不足したようで、ホノカ様も出掛けたみたい。


「トイレ用の丸太ブロックを200追加してー」

「はーい」


 私はピットで穴を開けた上に便器を置くだけだと思ってたのに、ホノカ様はちゃんとトイレ用の小屋を作ってる。さすがだ。


「あ、そうだ。ここにあるオガクズさ、乾くまで時々かき混ぜてね」

「はい」

「乾いた分はトイレに入れるから」


 バイオトイレというものだそうだ。微生物が汚物を分解して肥料とかにも使えるらしい。それなら畑を作るときに使えるから、早く作業台のグレードアップをして収納箱の枠を増やさなくては。

 臭い対策に煙突も付いてるから、そんなに臭わないトイレになるはずだって。


「灰も洗剤とか消臭に使えるはずだから残しておいてね」

「分かりました」

「いずれは水洗にしたい。山の向こうが海だったら簡単だったのにっ」


 臭くないだけでも凄いのに、文明の力が違い過ぎてホノカ様には不便過ぎるんだろうな。


「かき混ぜるのは私がやる。棒でかき混ぜるのは臭い棒ができちゃうので」


 私にはよく分からないことだったけど、必要なことみたいだ。覚悟と決意の表情を浮かべていた。

 サイコキネシスでやるしかないみたい。


 水路は拠点を囲うように作られてて、また湖のほうへ流れるようになってる。蹄鉄みたいな感じ。廃水が湖に入らないように、川のほうに繋げてあるそうだ。

 それならトイレは水路の上に作れば、水洗になるんじゃないかと私は思ったんだけど、そうしてないということは理由があるのかもしれないな。


 聞いてみたらホノカ様が小っちゃく座り込んだ。


「え? ホノカ様? え?」

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