Level.9 代金は料理で!
Level.9 代金は料理で!
そしてあっという間に3日が経ち、レイニーたちが新しく住むようになった一軒家の1階のスペースには防具屋の店主以外にも武器屋の店主や、食材を取り扱う八百屋や果物屋の人まで集まっていた。
「リトの話、回るの早くない!?こんなに人が来てくれるなんて思ってなかったよ…。」
「ここまでとは思わなかったけど、でも大人数を予想して多めの材料を用意したじゃないか!大丈夫、皆レイニーとザルじいの料理を気に入ってくれるよ!」
「うん!頑張る!」
キッチンから1階のスペースの様子を窺っているレイニーたちにリトが励ましの言葉を掛けるとここに来てくれた人たちに料理の説明をしてくる!と言ってリトはキッチンから離れて行ってしまった。
「ザルじい、私たちはできる限りのことをしよう!さ、調理しよう!」
「そうじゃの。レイニーは作戦通りペッパーランチの準備を頼む。」
「うん!」
こうしてお腹を空かせたピーゲルの街の人たちに向けて、レイニーのいた世界の料理を食べてもらう会は始まったのだった。ペッパーランチもフレンチトーストも簡単なので、あっという間に準備は整った。
「リト、料理できたから運ぶの手伝って!」
「あいよ!」
1階のスペースで街の人と話していたリトを捕まえて、料理を運ぶ役を頼むと、リトはまずザルじいが開発したホットプレートをスペースに運び、街の人からの好奇の目に晒されながら、レイニーはペッパーランチの材料を運んで、ホットプレートを温めると、牛肉を焼き始めた。ジュージューと音を立てながら、フライパンではない器具でお肉を炒めていく様子を見て、リトから話を聞いて来ていたランラが"こういう調理器具初めて見たよ"と言われて、レイニーは"ザルじいが考案したんです"と得意げに自慢した。
お肉に火が通ってきたら、ご飯をお肉の周りを囲むようにホットプレートに入れ、牛肉の上にコーンとネギを振りかけて、最後に特製の焼肉のたれに近い醤油ダレを掛けたら完成だ。
そこまでしたところで、ザルじいが大量に焼いたフレンチトーストを持ってスペースにやってきたので、ここでレイニーは大きめの声で、家に来てくれた人達に向かってこう言った。
「皆さんお待たせしました!今日は私とザルじいの料理を食べに来てくださってありがとうございます!今日のメニューはペッパーランチというお肉とご飯を混ぜて食べる料理とパンと牛乳と砂糖があればできるフレンチトーストという料理を作りました!皆さん、ぜひとも料理を楽しんでください!」
レイニーの挨拶が終わると、ランラを筆頭に拍手が巻き起こったので、レイニーは照れ笑いをしながら、"それではお皿に取り分けますので、皆さん取りに来てください!"というとランラとロレットを先頭に皆、列をなして並んでくれた。
未だジュージューと音を立ててペッパーランチが焼かれている状況にランラは興味津々でウチにも欲しいかも…と小声で言ってはロレットから苦笑いが漏れていた。
そして参加者皆にペッパーランチが行き渡ったところで、レイニーは周りの様子を見て、両手を合わせた。
「では、いただきます!」
「いただきます。」
レイニーの合図に誰が一番最初に食べ始めるのか、その時間がレイニーにはとても長く感じられた。だが、直ぐにレイニーたちの料理を食べたことのあるリトの両親の二人がペッパーランチを口に入れたのを見て、ひとり、またひとりと口にし始めた。
「ん!このペッパーランチとかいう料理、とっても美味しいじゃないか!牛肉も柔らかいし、タレの味付けが絶妙!」
「そうだね、簡単そうな料理なのに、味が複雑で…。コーンも甘く感じられる!」
二人の感想を聞いた街の人達は口々に"美味い!"と言うようになり、レイニーは安堵の表情をリトに向けた。リトはそんなレイニーに親指を立てて、グッとポーズを送ってくれた。ザルじいの方も見てみると、嬉しそうに髭を撫でていたので、レイニーは今回の試食会が半分は成功したのだと嬉しく思った。
「そ、それでは次にフレンチトーストという料理をお配りします。材料は卵と牛乳と砂糖だけです。簡単ですので、レシピが知りたいという方は試食会の後に作り方をお教えしますので、家に残ってくださると幸いです!」
レイニーがそう言うと、先ほどのペッパーランチの効果もあってか、レイニーとザルじいが作る料理への期待度がうなぎのぼりになり、フレンチトーストも我先にと列をなしてくれた。
一人一人にフレンチトーストを配り終えると、皆待ちきれずにパクリと食べていた。レイニーは内心ドキドキで皆の反応を待った。
「これも美味しい!ふわふわで甘くてこれがあの硬いパンなのか!?」
「本当に少ない材料でこんな料理が作れるなんて…。」
と驚愕の声が多数上がった。レイニーとザルじいは得意気に笑って拳を突き合せた。結果は大満足という人達がほとんどの試食会となった。
「お嬢さん、今日はとても美味しい料理をありがとう!あんなに美味しい料理を食べたのは初めてだよ!防具代はチャラで構わない!あの防具代と等しいくらいのいい体験をさせてもらったよ!ありがとう!」
レイニーは試食会の目的であった防具屋の店主との約束を果たすことができて、信じられないと言った表情で店主を見た。
「こちらこそ、今日は来てくださってありがとうございました!私たちの料理が気に入ってくださったみたいで…。防具代のこともありがとうございます!大事に使いますね!明日にでも防具を取りに伺います!」
「ああ、待っているよ、それじゃあ!」
そういって、防具屋の店主や武器屋の店主たちはレイニーたちの家から次々と満足そうな表情で帰って行った。家に残ったのは、フレンチトーストの作り方を知りたいという主婦層の皆さんだった。
「それじゃあ、先ほど皆さんに食べて頂いた、フレンチトーストの作り方を教えますね。」
と言ってレイニーは分かりやすい言葉でフレンチトーストの作り方を教えると、出来上がった料理を見て、ランラが感心したように言った。
「こんなに簡単だとは思わなかったわ…。なのにあんなに美味しい料理が作れるなんて…。私たちにはまだまだ知らない料理が沢山あるのね!レイニーちゃんたちの作る料理、もっと食べてみたいわ!」
ランラの言葉に一緒に参加していた奥様方が"そうね~"と賛成の声を上げてくれた。
「そうよ!リトからも話を聞いたことがあるんだけど、レイニーちゃんたち、料理屋さんを開いてみたらどう?きっと皆がびっくりするくらい美味しい料理をいっぱい知っているんでしょう!?その料理が食べられるならお金を払うわよ!今日も本当は払いたかったくらいよ!」
「そうね!レイニーちゃんたちの料理が食べられるなら、私そのお店に通って常連になるわ!」
ランラの言葉を筆頭に次々と奥様方から、"お店を開くべき"と言われて、レイニーは嬉しさと恥ずかしさ、そしてわくわくとした気持ちが湧いて来た。ザルじいの方を見ると、笑顔で頷いていた。だが…
「お気持ちは嬉しいんですけど…。最近冒険者になったばかりなので、暫くは冒険者業を中心にお金を稼げるようになるのが当面の目標なんです。お金を稼げるようになって、お店の改装費が賄えるようになったら、お店のこと、本格的に考えてみようと思います。」
レイニーはランラたちの気持ちを汲みつつ、今はその時期じゃないと思い、お店の計画は一旦保留とすることにした。ランラたちの気持ちは嬉しかったので、いつか実現するといいなとレイニーも思っていた。
そんなこんなで今日の試食会は大成功に終わった。レイニーは翌日、無事に防具屋の店主から防具一式を無料で貰うことができ、冒険者としての一歩を踏み出そうとしていた。
翌日。防具屋で防具を貰い受け、早速自分の家に持って帰って、防具を身に付けてみると、店主の言っていた通り軽い素材でできているだけあって、見た目よりも重くなかった。そんな防具に身を包んだレイニーは家に迎えに来てくれたリトと共にピーゲルの森に出かけた。
今日の目的は森の動物や魔物を実際に狩ってみようとリトが指導してくれることになっていた。動物を狩れば、食料にもなるし、このピーゲルの森には初歩的な魔物も住んでいるため、レイニーの練習には丁度いいだろうとリトが判断したのだった。
「お、レイニーいたぞ。あれがワイルドボアだ。」
「本当にイノシシそっくりだけど…。なんだか気性が荒い感じがビンビン感じるわ…。あれが魔物のオーラなのかしら…。」
森の茂みからひょっこりと顔だけを出して、数メートル先にいるイノシシの魔物、ワイルドボアを見つけた二人は少しずつ近付いて、戦闘に持ち込もうということになった。
「いいか、レイニー。講習会でも言っていたけど、初歩的な魔物は動きが単調だ。だから焦らず攻撃の動作に入るのを見極めて、避けること。それが大事だ。ワイルドボアは一直線にしか攻撃してこない。だから、避けたら焦らずにワイルドボアの脇腹に攻撃だ。いいか?」
「う、うん、分かった!頑張ってみる!」
リトから振り返りの言葉を聞いて、レイニーは深呼吸を少ししてからワイルドボアの目の前に出た。
ぷぎぃ!というほとんどイノシシの鳴き声を上げて、前足をザッザッと払い退ける動作をした。
「(来た!これが攻撃前の動作!これを見極めて…)」
レイニーは焦らずにワイルドボアの直線の突進攻撃を避けると相棒の槍でザクッとワイルドボアの脇腹に刺突攻撃を3連撃、食らわせることができた。それを何回か繰り返すと、ワイルドボアはぷぅ…という悲しい鳴き声と共に光の粒となって四散した。こうしてレイニーの初めての狩りが成功したのだった。