Level.88 新たなる脅威
Level.88 新たなる脅威
一度4人でピーゲルの街へ戻ると、広場のベンチで情報をまとめることにした。
「リトの方はどうだったの?」
「ああ。俺が最後に残していたオークから聞き出した情報によれば、人界の人間どもが近寄らない迷いの森で魔神軍の基地として派遣部隊を出して調査中だったらしい。」
「人界側の拠点を作ろうとしてたのか…。それで、その作戦の指揮を執っていたのが、あのオーク?」
「いや、違う。オークたちの上司がいた。名前はサマエル。魔神軍幹部の1人だ。」
「!!まさか魔神軍幹部がもう動いているなんて…、これはすぐにジルビドさんに報告に行った方が。」
「落ち着けレイニー。そっちの話も聞かないと。」
「あ、ああ…、そうだったわね。私は禍々しい魔力は地面をあった転移魔法陣だったよ。フーカとミナの勧めで私が雷の鉄槌で壊したからもう魔界から人界側に来ることはできなくなったと思う。でも誰があんなものを…と思ってたけど、リトの話からすればそのサマエルってやつが迷いの森に目をつけて転移魔法陣も使ってオークたちをこっち側に呼んでたことになるわね…。」
「サマエルの存在も明らかになってきたし、これこそジルビドさんに報告に行った方がいいだろう?」
ピーゲルの広場のベンチから勢いよく立ち上がったリトにレイニーは何かこれから嫌なことが未来で起きそうで、レイニーは少し身震いをした。
「レイニー?」
「ううん、何でもない。ジルビドさんに報告に行きましょう。」
「おう!」
今日は平日の午後だったので、冒険者はクエストに出て行っている者が多く、冒険者ギルドは少し閑古鳥が鳴いている状態だった。ギルドの受付嬢のシルビーに声をかけてジルビドに報告したいことがあると言うと直ぐに入室の許可を取ってくれた。そして、シルビーに促されるままにジルビドの部屋に入るとソファーに座るよう、勧められた。
「それで?今回はどのような話かな?」
「ジルビドさんは迷いの森に行かれたことは?」
「仕事の視察で何度か訪れたことはあるよ。不気味な森だったことを覚えている。その森がどうかしたのかい?」
「実は私、迷いの森の調査をしてくれという依頼を受けています。数日前から迷いの森の隣…フロレンティアの方にまで影響が出てきており、フロレンティアの花の管理をしているおじいさんから森の調査依頼を受けました。」
「ふむ、そんなことが…。それで森には何が?」
「魔界と人界を繋ぐ転移魔法陣と、10体程度のオークがいました。」
「魔界への転移魔法陣…!?一体誰がそんなものを迷いの森で発動を…。」
「その続きは俺が。」
今までレイニーがフロレンティアのおじいさん、スルバからの依頼があった、という経緯を踏まえて典韋魔法陣があったことを話すと、今度はオークから情報を聞き出したリトが説明してくれた。
「迷いの森に魔界に繋がる転移魔法陣を設置したのは恐らく、魔神軍幹部、サマエルです。オークからの情報によると、サマエルが魔界から人界へと繋がる転移魔法陣を設置し、迷いの森を中心とした魔神軍の拠点を作ろうとしていた…というのがオークへの尋問で明らかになりました。」
「ふむ…ついに魔神軍幹部が動き出したか…。すぐにレイニーくんたちが魔界へと通じる転移魔法陣を壊してくれたおかげで少しは向こう側の計画を狂わせる事ができたわけだが…。魔神軍幹部の動きには注意してもらいたい。この案件はギルドの総本部にも伝達させてもらうよ。そうだ、2人には報酬金の手続きがあったんだな。貴重な情報ありがとう。また何かあれば手紙を出すよ。」
「はい。よろしくお願いします。」
そう言ってレイニーとリトはギルド長室を後にした。2人はクエストカウンターで報酬金の手続きを済ませて、お金を受け取ると、レイニーはリトとは別行動になりたいと言って、1人でフロレンティアまで飛んでいった。
そして小川の先にある森に隠れた水車小屋の扉をコンコンコンとノックするとスルバが顔を覗かせ、レイニーの顔を見ると少しパァッと表情が明るくなった。
「レイニーさん!ご無事で何よりです。どうぞ、椅子に座ってください。今飲み物を用意しますね。」
そう言って水車小屋の中でスルバは一般的に流通ひている茶葉で作られた微妙な味のお茶を出してきた。
「お口に合わないかもしれませんが…。それで、迷いの森では何がありましたか?」
「迷いの森には魔神軍の拠点を作ろうとされていました。」
「魔神軍の拠点…、それはもうレイニーさんたちが対処してきてくださった…んですよね?」
「はい、もちろんです。魔神軍が攻め込んできて一番最初に被害に遭うのはここ、フロレンティアの花畑です。ここを火の海にしないためにも、迷いの森にあった、転移魔法陣と呼ばれるテレポート用の魔法陣がありましたので、それも叩き割っておきました。なので、迷いの森から魔神軍の襲撃があることは無くなりました。安心してもらって大丈夫です。」
「そうでしたか…よかった…。小人たちは魔界の空気に当てられて暴力的に変わってしまったのかもしれませんね…。」
「今回の依頼内容で判明したことは、これからの冒険者たちには有益な情報となります、冒険者ギルドの偉い方に話は通してありますが、小人のことや依頼主であったスルバさんのことは話していませんので、ご安心ください。」
「何から何まで…ありがとうございます。」
こうしてレイニーはスルバからの依頼を受け終わり、フロレンティアに迫っていた戦火を断ち切ることが出来て、心底ホッとしていた。そして、新たな敵、サマエルがこの人界で何かをしでかそうとしている…その暗い影に気をつけつつ、レイニーはこの国を、世界を守らなければという強い使命感に包まれたのだった。
――――――
フロレンティアから戻ってきて迷いの森での戦闘もあったからか、体が汚れていたので、レイニーはお風呂に入って疲れを癒した。そしてベッドに倒れ込むとこれまでの疲れがドッと押し寄せてきて、レイニーは睡魔に負けて眠ってしまった。
夢の中でレイニーは強い7つの光と闇が生まれる空間に来ていた。今回は当事者というよりも、過去の出来事を遙か上空から見ている感じだった。
7つの光は闇に呑まれながらもその強い光が消えることはなく最後には暗き闇を覆い尽くしていた。
そこでレイニーは自分の手の甲にバチッと静電気が来たような感覚の痛みがあり、目が覚めた。
「また…あの夢…。」
ぼーっとした頭で手の甲を見てみると、やはりいつのまにか雷のマークがついたタトゥーのような紋章が手の甲に刻まれており、先ほど感じた痛みはこの雷の紋様が原因できないかと思った。だが、起き上がって見てみても、何も変化はなく、前回の起床時に起きた謎の光線も出ていない。あの夢がレイニーに伝えたかったことはなんなのか、レイニーはその答えが出ずに不完全燃焼しているモヤモヤを晴らすために今日は喫茶店業も冒険者業もお休みして料理をたくさん作ろうと考えた。そのためにも買い出しに行くため、レイニーは白いワンピースに水色のニットベストを着て、お買い物バックを持ってからザルじいに買い物行ってきまーすと言ってピーゲルの街の大通りに出かけた。
――――――
2時間ほど大通りを散策し、夕飯などの材料をたくさん買ってきたレイニーはホクホクとした満足気な顔をしてエプロンをした。
「よーし!料理作るぞー!」
レイニーの謎のやる気に押されてザルじいはリビングのソファーで静かに息を潜めていた。
こうなってしまった時のレイニーは止められない。明らかに2人じゃ食べきれない量の料理を作るのでその集中力を削ぐことがないよう、ザルじいはいつも静かに料理が出来上がるのを待つしかないのだった。
それから3時間後。レイニーは計10品の料理を作り上げ、むふーっと満足気な表情で味見タイムとなった。
それにはザルじいも参加してレイニーが作った10品を吟味して行った。2人でこの料理はこんな味の方がといった意見交換もしつつ、10品の料理を2人で何日かに分けて食べよあと考えていると、家に郵便が届いた。
「レイニー宛のようじゃの。」
玄関で郵便屋さんから手紙を受け取ったザルじいがレイニーの手紙の差出人を見た。
「差出人は冒険者ギルドのジルビドさんからのようじゃぞ。」
レイニーはその名前を聞くと何か嫌な予感がしてレイニーは直ぐにペーパーナイフでピッと手紙の封を切った。
黙読で読んでからレイニーは直ぐに冒険者としての装備に着替えた。
「少しジルビドさんのところに行ってくるね。料理は悪いけど、ザルじいがタッパーとかに詰めといてくれるかな?悪くなっちゃう前にさ。よろしくね!行ってきます!」
「お、おお…行ってらっしゃい。」
あっという間に家から出ていったレイニーの背中を見て、最近見る夢にうなされていることを感じさせないレイニーの気の変わりようにザルじいは苦笑いをしたのだった。




