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Level.86 フロレンティアでピクニック

Level.86 フロレンティアでピクニック

レイニーが青いバラの花弁を持ってピーゲルの街に帰ってきて冒険者ギルドに行き、クエストの完了のハンコを押してもらって、レイニーはフロレンティアのクエストをクリアすることが出来た。

 嬉しそうにギルドの職員から報酬金を受け取ったレイニーの元に別の冒険者の手続きを行っていたシルビーがレイニーに気付いて声を掛けてきてくれた。

「レイニーちゃん、おかえりなさい。フロレンティアはどうだった?」

「シルビーさん!すっごく綺麗な街でした!今度喫茶店のメンバーでお出かけするのに参考になりました!これは早めに計画を立てないと…!」

 レイニーは今からピクニックのお弁当の中身を考え始めるのを見てシルビーは微笑んだ。

「いつもは魔物だなんだって殺伐としたクエストばっかりしてるんだから、たまには息抜きしないとね。」

「はい!今日はありがとうございました!では!」

 レイニーはシルビーたちギルドの職員に手を振って冒険者ギルドを後にした。ザルじいの待つ家に帰り、フロレンティアの様子をザルじいに伝えると、ザルじいも楽しみな気持ちが溢れてきたようだった。

「花の都の話は人伝に聞いたことがあったが、まさか生きているうちに行けるとはのう。ピクニックのお弁当はどうするんじゃ?」

「それを今から考えるんだよ、ザルじい!サンドイッチがいいかな!?おにぎりがいいかな!?」

「ほっほっ、贅沢な悩みじゃのう。」

 そう言って笑うザルじいにレイニーは"真剣に考えてよ!"とツッコミを入れつつ、2人でピクニックでみんなで食べるお弁当の内容を夜遅くまで考えたのだった。

 ――――――

 そして次の週末。レイニーはお店の閉店後にスタッフメンバーを集めた。

「レイニー、もしかして…。」

 ナシュナには前にピクニックに行きたい旨を話していたので、察したらしいが、話が見えてこないリトとシドは首を傾げていた。

「次の平日、水曜日に喫茶店のメンバー全員でピクニックに行こうと思います!」

「ぴくにっく…?」

「それってなんだ?」

 リトとシドが質問してきたので、レイニーは"まぁ、そうだよな…"と思いつつ、説明をした。

「ピクニックは天気のいい日に青空の下でみんなでお弁当を食べて親睦を深めよう…みたいなイベントなの!今回のピクニックの行き先は花の都フロレンティアです!」

「へぇ〜、外で弁当を食べるのか…、楽しそうだな!」

「フロレンティアは行ったことないな。」

「シドはフロレンティアに行ったことないんだ、絶対綺麗だと思う場所だから、楽しみにしてて!お弁当の中身も当日まで秘密です!私とザルじいが丹精込めて作るからね!」

「それは楽しみにしとかないとな!」

 レイニーの話を聞いてリトはウキウキした様子で隣にいたシドに"な!シドも楽しみだろ?"と肩を組んで話をしていた。ナシュナはなんとかしてお弁当の中身を聞きたいのかザルじいに問い詰めていたが、ザルじいは逃げるように厨房の清掃に行ってしまったのだった。

 そんなこんなで喫茶店のメンバーでフロレンティアに行く話をして、残すは当日を万全の体調で迎えるだけとなった。

 ――――――

 ピクニック当日。水曜日。

「うん!いい天気!お弁当の準備もオッケー!よし、ザルじい、みんなが待ってるよー。」

「分かっておるわい、おいぼれを急かすでないぞ。」

 レイニーは春らしい水色と白のチェックのワンピースを着て、カンカン帽子をかぶってお弁当のカゴバックを持ちながら玄関でザルじいが来るのを待った。今日のフロレンティアにはピーゲルの街の広場近くの馬車の停留所で馬車を借りてみんなでフロレンティアに行くことになっていた。

 ザルじいの準備も整ったことでレイニーはお店兼住宅の玄関に鍵を掛けて、早速馬車の停留所に向かった。レイニーたちが辿り着くとそこには涼しげな青いワンピースを見に纏ったナシュナが待っていた。

「ナシュナお待たせ〜!ナシュナが一番乗りだったのね。」

「はい、楽しみで早めに来ちゃったんです。」

 そう言って苦笑いしつつも、今日この日を待ち侘びていたナシュナの気合の入り用にレイニーはその大半がお弁当の中身に向いてることに気づき、こちらも苦笑いで返すしかなかったのだった。

 レイニーたちがフロレンティアの話をしながら他のメンバーを待っていると、リトとシドが時間ぴったりでやってきたので、喫茶店メンバー全員が揃い、借りた馬車に乗り込み、フロレンティアまで少しの間皆んなで馬車の中で談義することになった。

「私はフロレンティアに数年前にシリウスと一緒に行ったことがあるんですが、前に新聞でフロレンティアの領土が広がってさらに花畑が増えたとの記事を見ました。きっと広大で綺麗な風景が待っているんでしょうね。」

「あ、その記事なら俺も読んだ!でもフロレンティアの隣には霧深い"迷いの森"ってのがあるんだろ?俺は冒険者としてそっちの方が興味あったなー。」

「もう、今日は冒険とか忘れて綺麗な景色で癒される日なの!」

「う…、悪い…職業病で…。」

 レイニーたちがフロレンティアについて話していると、馬の操縦をしていた、ザルじいが"もう少しで着くぞ"と言ったので、フロレンティアまでの2時間はあっという間だった。フロレンティアに辿り着くと、レイニーは数日前にも見たというのに、一面の花畑を見ると声を上げずにはいられなかった。

「わぁ〜!やっぱりすごい!ね、ナシュナ!」

「ええ!久しぶりに来ましたが、花の種類も増えていて見応えがあります!」

 女子2人できゃっきゃと盛り上がっていると、馬車を厩舎に持って行ってたザルじいが戻ってきた。

「お昼まで時間があるし、女の子たちは花畑でも見てくるかの?」

「えっ、いいの、ザルじい!」

 レイニーとナシュナが目を光らせてザルじいに詰め寄るとザルじいはその勢いにびっくりしていたが、直ぐに笑顔になって日が真上に来る頃には広場に戻ってきなさい。と言ってOKを出してくれたので、レイニーとナシュナは顔を見合わせて頷くとザルじいにお弁当の入ったカゴバックを預けて花畑の探索へと向かったのだった。

「レイニー!見てください!この小さな花にミツバチが…!」

「ナシュナ、こっちのお花も小さくて可愛い!」

 2人できゃっきゃと花畑を満喫していると、ナシュナが花畑の間を流れる小川に掛かる橋を越えようとした時、何かを見つけたようだった。

「レイニー、こっち!こっちにきてください!」

「ナシュナどうしたの?」

 必死の形相でレイニーを手招きするナシュナにレイニーはただ事ではないと思い、走ってナシュナの元に向かうと、小川の岸辺に小さな体が横たわっていた。

「この子は…!小人さん…でしょうか。」

「小人で間違いないわ。私、この小人さんを助けるのに心当たりがあるの!ナシュナ、小人さんを掬い上げて!」

「は、はい!」

 ナシュナは慌てて青いワンピースの袖を捲って水が付かないようにすると小川の岸辺で横たわっていた小人を掬い上げると、レイニーは小人の様子を覗き込んだ。

「小川で溺れちゃったのかしら…やっとの思いで息をしている感じね。ナシュナ、こっち!」

 レイニーは前回フロレンティアを訪れた時にお世話になったスルバの元に向かうべく、花畑を横切り、清流のせせらぎを聞き流しながら小さな森にある水車小屋までやってきた。

「ナシュナ、ここの場所のことは誰にも言っちゃダメだからね。」

「は、はい!」

 レイニーが人差し指で"しーっ"というポーズを取ってから、水車小屋の扉を軽くノックした。小屋の中にスルバがいてくれることを祈りながらレイニーたちが待っていると、中から"はい"という返事が聞こえてきたので、レイニーはすぐに声を上げた。

「スルバさん!私です、レイニーです!小人さんが川で溺れてしまったみたいで息も絶え絶えなんです!助けてください!」

 レイニーが必死に懇願すると水車小屋の扉が開いてザルじいよりも年老いているスルバが現れてナシュナの顔を見てからレイニーの顔を見た。

「ここのことは秘密だと彼女にも伝えてあります。どうか、この小人さんを…。」

 レイニーはスルバが言わんとすることが分かっていたので、予めナシュナに秘密にしておくことを約束させてこの場所に来たのだと、そう言うとスルバはナシュナの手の中でぐったりしている小人を見ると、2人を水車小屋の中に招き入れてくれた。

 そしてナシュナから小人を預かると、水車小屋の中にあるテーブルの上に小さなベッドを用意してそこに小人を寝かせた。

「このベッドは…?」

「私が作った簡易的な小人用のベッドです。レイニーさんたちが連れてきてくるのが遅かったらこの子の命は助からなかったでしょう。」

 そう言ってスルバは小人の上半身を起き上がらせるとトントンと背中を叩いた。レイニーたちがその様子を黙ってじっと見つめていると、小人がげほっ、と咳き込み、口から水を吐き出したので、レイニーは少しホッとした。

「小川で溺れていたということはかなり体力を消耗しているでしょう。私がこの子の面倒を見ますから、レイニーさんたちはどうか心配しないでください。」

 スルバの言葉にレイニーたちは頷いて小人の看病をスルバに頼んだ。2人で歩きながら小人のことも、スルバの秘密の水車小屋のことも誰にも話さないと2人で約束して広場に戻るとリトが仁王立ちで"遅い!"と説教をし始めてしまったので、レイニーたちは"ちょっと遠くまで行きすぎて…"と嘘をついてリトの説教を聞き流したのだった。


 

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