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Level.85 青いバラはどこ?

Level.85 青いバラはどこ?

 春のぽかぽか陽気が店内にまで舞い込んでくるほど、お客さんの出入りが激しい、喫茶レインでは今日も店長のレイニーはせっせと料理を作ってはお客さんの元まで運んでそのお客さんの笑顔を見て、活力を貰っていたのだった。レイニーとザルじいが住んでいた家にダークエルフのアルが住んでいたのだが、彼女もだいぶこの世界にも慣れてきた様だったので、森で暮らし始めるのもいいだろうと判断し、彼女は今、レイニーとザルじいが以前住んでいた小屋で一人で暮らしている。レイニーを取り巻く環境も変わりつつあった。

 そんな喫茶店の営業日。レイニーがカウンターでコーヒーを淹れていると、お客さんの1人がレイニーに話しかけてきた。

「店長さん!冒険者なら花の都は行ってみました?」

「花の都…?初めて聞きました。」

「えっ!?そうなんですか!?花の都っていうのはハインツ皇国の中でもいろんな都市からお花が集められててそれはそれは綺麗や花畑で埋め尽くされている有名観光地ですよ!」

「店長さんも女の子なんですから!好きな人と行ってみるとか…!」

 カウンターでアイスティーを飲んでいたお客さんはちらりとホールを忙しなく行き来するリトの方に視線を送っていた。レイニーはお客さんが言わんとしていることがわかった気がして苦笑いで返した。

「私、喫茶店の営業と冒険者と二足の草鞋なんで、観光地とかよりも魔物の討伐を優先しちゃってて…。あの、良かったら花の都の場所、教えてもらえますか?」

レイニーは少し言いづらそうにしつつも、そのお客さんから花の都についての詳細や位置などを地図を見ながら教えてもらい、その人たちは退店していった。

 その日の営業終わりの掃除の時間でナシュナが何やら帳簿と睨めっこしながら唸っているレイニーに気がついた。

「レイニー、どうしました?何か帳簿付で引っ掛かることでも…?」

「あっ、ナシュナ。実はこの喫茶店のメンバーでピクニックに行こうかなと計画してて。」

「ぴくにっく…ですか?」

「そそ。お弁当を持って景色が綺麗なとこに行ってみんなでそのお弁当を食べて親睦を深める…みたいなイベントなの。私のいた世界では春とか天気のいい日はピクニック日和って感じでね。今日もお客さんから花の都って場所を教えてもらったし、私が先に事前に見に行ってみてからピクニックに行こうかな〜って。」

「花の都…、フロレンティアって場所ですか?」

「ナシュナ知ってるの?」

「ええ。私も何回かシリウスと一緒に行ったことがあります。」

「どうだった!?」

「とてもお花が綺麗に整備されてて、とても素敵な景色でしたよ。あの花たちに囲まれてのお弁当…きっともっと美味しく感じるのでしょうね!」

 レイニーはナシュナが花の都に行ったことがあると言うと食いつきが良くなり、花の都、フロレンティアの話を少しだけ聞き出すことができた。

 それから次の日も喫茶店の営業をし、レイニーはその週の平日はフロレンティアに実際に行ってみようと考えた。

 レイニーは平日になるとスリーピングアウルから作られた防具を装備してピーゲルの冒険者ギルドを訪れて、掲示板に貼られたクエストの中からフロレンティアでの内容になるものを探した。

「(花の都、フロレンティアはっと…)あった!」

 レイニーが高いところにあったフロレンティアでのクエストの受注書面を掲示板から引きちぎると、クエストカウンターに持って行った。

「シルビーさん、よろしくお願いしまーす!」

「はいはい。あら、フロレンティアに行くの?」

「はい。近々喫茶店の従業員のメンバーでフロレンティアに行ってお弁当を食べようかと!」

「そうなのね!フロレンティアは本当に花たちがイキイキしててとても綺麗な街なのよ。今日のクエストも頑張りながら偵察というより、観光を楽しんできた方がいいわよ。」

「ふふっ、そうですね。じゃあ、行ってきます!」

「はい、いってらっしゃい!」

 レイニーはシルビーから受注完了のハンコを貰うとその書面を綺麗に折りたたむと腰のポーチに入れて、フロレンティア行きの馬車を探した。冒険者ギルド前の広場には馬車の停泊場があり、レイニーはフロレンティア行きの馬車を見つけると、それに飛び乗った。花の都、フロレンティアまでの馬車の移動は2,3時間で、レイニーは同乗していた冒険者たちと談笑しつつ、フロレンティアを目指して馬車に揺られた。

 ようやくフロレンティアに着くと、レイニーは"わぁ!"と思わず声を出してしまった。レイニーの目の前には色とりどりの花たちが咲き誇り、花の甘い香りがふわりとレイニーの花を掠めた。

「う〜ん!花のいい香り…!ここは春に来てみて正解ね!えっと…、クエストの内容は…。」

 レイニーはフロレンティアの街の入り口でさえ、花が咲く花壇で可愛く配置されており、レイニーはその香りを嗅ぎつつ、腰のポーチからクエストの書面を見た。そのクエストの内容は…。

「青いバラの花弁の納品…。青いバラって咲いてるのかな…?」

 レイニーはこの広大な花畑の大地の中から、青い薔薇を探し出さなくてはいけないと知ると、サーッと血の気が引くのを感じた。

「ううん、ここで挫けてはダメね!青いバラ、なんとか探し出さなくちゃ!えっとバラ園のエリアは…」

 レイニーは直ぐに立ち直ると、近くにあったフロレンティアの地図看板を頼りにまずは青いバラがありそうなバラ園の区画を見て回ることにした。

 歩いて30分のところで花畑がバラに変わったのを見て、レイニーはこの中になら1本くらい青いバラがあるんではないのだろうかと淡い期待を込めて花畑をくまなく探した。

 ――2時間後――

「見つからない…!!これだけ探しても青いバラが1本も見つからないなんて…!本当にここにあるのかなぁ…。」

 レイニーはバラ園の区画の入り口にあるベンチに溶けるように凭れ込み、小さなため息を吐いた。

 そんな時レイニーは近くに人の気配がしてバッとベンチに座る姿勢を正した。警戒して隣を見てみると、バラ園の生垣のそばで草取りをしている老人がいたのだ。

「(このおじいさん、いつのまに私の隣に?ってそれよりも、この管理人そうなおじいさんに聞けば青いバラの場所も…!)あの!」

「ん?なんだい、お嬢さん。」

「私冒険者をしております、レイニーと言います。おじいさんをこのフロレンティアの管理人さんとお見受けしまして、お尋ねします。青いバラはどこに咲いていますか!?」

 レイニーがベンチから立ち上がってお爺さんに尋ねてみると、おじいさんは笑顔だったが、青いバラの話が出た瞬間に少しだけ表情が険しくなり全身を見た気がした。だが、直ぐに笑顔になって、こう言った。

「青いバラをどうするおつもりですか?」

「私が今日受けたクエストの内容が青いバラの花弁の納品なんです。でも、バラ園を探しても青いバラだけが見つからなくて…。」

「そうでしたか。ここ、フロレンティアでは景観を保護するために花を摘み取っていくのを禁止する条約があります。ですから、クエストの内容も花弁の納品なんでしょうな。お嬢さんの誠実さを見込んで、私の秘密の花園にご案内しましょう。」

「秘密の花園?」

 おじいさんが"よっこいしょ"という声と共に立ち上がると、レイニーの手を借りながら、花畑の間に整備された道を進み、次第に木々に囲まれ、清流のせせらぎが聞こえてくる、水車小屋に辿り着いた。

「すごく綺麗ですね、この空間…。」

「私が手塩にかけて育ててきた、花たちです。この奥の秘密のハウスでは新種の花の改良も行っています。青いバラはそこです。」

 レイニーはおじいさんの後を追って、水車小屋の裏手側にあるハウスへと案内してくれた。するとそこにはたくさんの見たこともない花たちが咲き乱れており、この街に来た時以上の美しさに目を奪われた。

「お嬢さんがお探しなのはこれかな?」

「あっ!青いバラ!本当に花弁1枚でも持って行っていいのでしょうか…?」

「花弁1枚くらいなら大丈夫ですよ。そう何回もクエストの内容に使われると困りますが…」

 そう言って苦笑いをするおじいさんにレイニーは満面の笑みで、こう言った。

「大丈夫です!緊急事態が起きない限り、私はこの花園のこと、誰にも言いませんから!」

「それはありがとうございます…。私の名前を教えてませんでしたね、名前はスルバといいます。訳あってこのフロレンティアの花壇の世話を任されています。」

「私も自己紹介が遅れました。私はレイニー。プラチナランク冒険者です。」

 そして2人は固い握手を交わすと、スルバの周りに何か小さな小人がうろちょろするになった。レイニーがその子たちを目で追って、自分の近くに来るとかまいたくなっていると、スルバが何かに気がついたようだった。

「このフロレンティアに守り神のような存在の小人が生息しているんです。小人は自然豊かな神殿に住み着くと聞いていましたが…。もしかしてレイニーさんには小人が見える人ですか…?」

「はい、私精霊2人とも契約結んでいたので、さっきからふわふわ小さな姿で飛んでいいるのが私の精霊です!」

 「そうでしたか。精霊と契約を…。小人も精霊と似たようなものですからね。小人たちも精霊を従えるレイニーさんのことを気に入ったようですね。」

 レイニーの周りをトコトコと歩き回る小人を見て、スルバは嬉しそうに目を細めた。

「私、近々自分の経営する飲食店のメンバーとフロレンティアに出かけるつもりでして。またお会いするかと思いますが!」

「分かりました。またお会いできるのをお待ちしております。」

「はい!」

 こうしてレイニーは無事青いバラの花弁を一枚摘むとスルバと別れてピーゲルの街に帰ったのだった。

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