Level.82 強敵
Level.82 強敵
作戦会議の中で一番重要視されたのは、あのガルテ総統の小竜をいかにして倒すか。そして小竜を倒した後でのガルテ総統との戦いを優位に進めるか、だった。
「先の結界を張った騎士団四天王からの情報によりますと、ガルテ総統の魔石の位置は右目の眼球。小竜の魔石は左前脚の付け根だそうです。これを狙って壊すしか道はありません。」
「だが、近寄っただけで、並の冒険者は蹴散らされてしまう…。どうにかして不意を突き、ガルテ総統と小竜を離れさせて討伐する他は…。」
セリナが騎士団四天王からの伝達をレイニーとクルエラに話すとクルエラが如何にして不意をつくかどうかの話をし出した。そんな話にレイニーは1人唸っていた。
「不意を突く…。今の戦場は空中戦です。だから、地上からの攻撃をガルテ総統は予想していないと思います。だから、誰かが地上からガルテ総統の飛んでいる位置まで攻撃をしてガルテ総統を小竜から落とさせる…あわよくば小竜の魔石を壊せられれば…、少しは勝機が見えるかもしれません!」
「だが、レイニー殿、地上から空の戦場まで距離があるが…。」
「私たち冒険者には遠距離のスペシャリストがいるじゃないですか!」
「…?はっ!もしかして…。」
最初は誰だか分からずクルエラは首を傾げていたが、遠距離のスペシャリストと聞くと思い当たる人物が思い浮かんだようなので、クルエラはすぐ戦場にいる相手にこの作戦の要であることを伝え後方支援部隊にまで下がってもらうことにしたのだった。
それから数十分後。後方支援部隊、指揮官テントに現れたのはプラチナランク冒険者のレイクスだった。
「レイニーさん、無事に目が覚めて良かったです!さっきの紫色の雷はレイニーさんのだったんですよね?」
「はい。契約した精霊の力で撃てました。それで早速なんですが、レイクスさんにはひとつお仕事を頼みたいのです。」
「私が力になれるのならなんでも言ってください。」
レイクスには地上からガルテ総統の小竜の魔石がある位置目掛けて遠距離魔法の中でも威力の高い魔法攻撃で貫いてほしいとのことを頼んだ。
「任せてください!私ならそのくらいの距離ドンピシャで貫いて見せます!」
胸をトンッと叩いて作戦に賛成してくれたレイクスだったが、クルエラが心配な点を1つ話した。
「この作戦では絶対に地上を移動してガルテ総統の小竜目掛けて攻撃をしようというのを相手側に悟られてはいけないということだ。」
「それなら、私がアーグナー団長の代わりにガルテ総統の相手をします。その間にアーグナー団長に作戦のことを手短に伝えていただき、アーグナー団長と交代後直ぐに地上からレイクスさんの遠距離攻撃を発動してください。」
セリナが前に出て自分がガルテ総統と戦うと言うと、友人であるクルエラが待ったをかけた。
「セリナ!あの怪物のようなガルテ総統にあなた1人では…!」
「何も1人で挑むわけないじゃない。プラチナランクとゴールドランクの皆さんにも足止めをお願いして地上からの攻撃に気付かれないようにほんの数秒、怒涛の魔法の攻撃ラッシュをやればガルテ総統でも地上のことは気にしていないはずよ。」
クルエラの心配をよそにセリナは高ランク冒険者の力も借りることを話すとクルエラはそうか…と苦笑いをした。
「それじゃあ、作戦の内容はクルエラ様がアーグナー団長に伝えるということで!レイクスさんは私たちの怒涛の攻撃ラッシュが入り始めたら、トップスピードで地上からガルテ総統の飛んでいる真下まで移動してくださいね!」
「分かりました!」
そしてそれぞれ指揮官テントから出ると、レイニーは飛行リングに魔力を込めて、ふわりと飛んだ。続くようにセリナも小竜に跨って飛び立った。クルエラは1人地上でアーグナー団長に伝達係そして、今回の戦いの総指揮を任されているのだから、命の危機を迎えてはならない。クルエラに辿り着かれる前にガルテ総統を倒さなければならなかった。
そして、セリナの合図と同時にレイニーはバシュッとトップスピードで弾丸のような速さでガルテ総統の元に飛んでくると、その飛行スピードのまま、槍を構えて横一線に"雷の一閃"を放った。
だが、レイニーの槍はガルテ総統が操る小竜が槍を口で受け止めていて、雷の一閃は発動キャンセル状態になり、シュンッという音と共にエフェクトが消えた。
「(ワイバーンの口で雷の一閃が止められるなんて!!)くっ…!」
レイニーが雷の一閃を放った直後、セリナがアーグナー団長に後方支援部隊に戻るよう伝達することが出来たようでアーグナー団長はガルテ総統の前から退場した。
そして新たに集まったゴールドランク、プラチナランクの冒険者がガルテ総統の周りに集まっていた。ここまで早く高ランク冒険者が揃ったのはクルエラが伝達をしてくれたからなのだなと思い、レイニーは作戦の要のレイクスの存在には気付かせないために皆で一気に攻め始めた。
皆の一斉攻撃のおかげでレイニーは小竜に咥えられていた槍の刃先から離されると、直ぐに自分のガルテ総統への集中攻撃の輪に加わった。
後方支援部隊に程近いところで大勢の冒険者が一丸となってガルテ総統に向かって行き、一つの大きな球体になり始めていた。その様子を見るとクルエラがテントで待機していたレイクスに頷いたことで合図を送った。
そして、レイクスが腰を低くしてダッシュをしてガルテ総統のましたまで地上を走り始めた。
それから数十分。レイニーたち高ランク冒険者たちがガルテ総統と戦って思ったこと…。それは圧倒的強さと頭の回転が早く次の攻撃への対処が上手く、反撃も的確という冷静さ。少しの間でも戦ってみてそれをひしひしと感じていると、先ほどアーグナー団長が1人でこのガルテ総統と渡り合えていたのが凄まじいのだと、レイニーは実感した。
そして、レイニーがガルテ総統が騎乗するワイバーンの翼目掛けて槍を突き刺すと、ワイバーンがガクンと体が傾き、飛ぶバランスが悪くなったのだとレイニーは気付いた。そして周りのみんなに「翼を狙ってください!」というと、冒険者たちは翼を蜂の巣にするがの如く、次々とガルテ総統のワイバーンの翼に風穴を開けて行った。もはや飛ぶための風を受ける翼がこうも穴だらけになってしまってはガルテ総統を乗せて飛ぶのか難しいようで、ワイバーンは必死に翼をはためかせて飛ぼうとした。
そんな時、地上から一陣の矢がガルテ総統の小竜の左前脚のの付け根を貫通した。
「!!!(レイクスさんがやったんだ!)」
レイニーが歓喜していると、魔石を貫かれたガルテ総統のワイバーンはそのまま砂のようにサラサラと空気に溶けていなくなった。騎乗していたワイバーンが消滅したことでガルテ総統は魔界も人界と同じく引力が働いているのでガルテ総統はそのまま地上に向かって真っ逆さま。地上に激突しただけではガルテ総統は死なないと直感しているレイニーたちは直ぐに落ちていくガルテ総統を追った。ガルテ総統は地面に激突する寸前に体制を整え、腰に付けていた大剣を抜くと、地面に向かって風魔法を起こして剣先に小さな竜巻を付けるも、その竜巻と地面がぶつかった瞬間、爆風が巻き起こり、その衝撃でガルテ総統はふわりと体を浮かせて安全に地上に着地した。
ガルテ総統の周りには先ほどの風魔法のミニ竜巻の影響で土埃が舞い、ガルテ総統は目を閉じて気配を察知しようとした。その瞬間、ガルテ総統が大剣を持って横薙ぎに一線引くと土埃から出てきたリト、ライクス、キュリアの3人の剣先を大剣でって受け止めてそして押し返した。
そのついでか、大剣をブォンッと振り回して土埃を切り裂くとガルテ総統の周りには冒険者たちが集結していた。
「皆、かかれ!」
イグリス騎士団の副団長のセリナの合図と共にレイニーたちはガルテ総統を四方八方から攻撃を仕掛けたのだった。




