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Level.79 炎華一刀両断

Level.79 炎華一刀両断

 アルシュッド王国のイグリス騎士団が来たことで後方支援部隊にいる冒険者たちは歓喜した。

 クルエラ率いる指揮官が常駐するテントではイグリス騎士団の副団長のセリナ・アラベルが戦況の把握をしていた。

「ふむ…なるほどね…。ゴールドランクとプラチナランクの冒険者を潰すためにワイバーンダークナイトたちが密集して来てる…それでゴールドランクの冒険者が1人後方支援部隊行きになってしまったと…。」

「そうなんだ。彼女は私たちの軍の中でも大切な存在だ。彼女が復活出来るよう、後方支援部隊の回復班は最善を尽くしてくれている。」

「粗方状況は分かったわ。本当は団長が来てから判断したいところだけど、あの人がいつ来るか分からないから、早めに我が騎士団を前線に向かわせた方が良さそうだわ。」

「そうしてくれると助かる。」

 そうしてセリナが率いるイグリス騎士団は小竜と呼ばれる普通のドラゴンよりも小さな竜に跨って前線へと飛んでいった。指揮官としてセリナはクルエラと共にテントに残り、戦況を把握することにした。

 ――――――

 一方。ワイバーンダークナイト軍ではソーシャス将軍が前線に到着し、従える水属性のブレスを吐くワイバーンに攻撃をさせつつ、部下たちに指示を出していた。

「これから指揮は私が執る!ゴールドランクとプラチナランクの冒険者を根絶やしにしろ!A〜C隊は魔力を貯めてアレの発動を急げ!」

 ソーシャス将軍の的確な指示の元、ワイバーンダークナイトたちはより一層密になってプラチナランクのリトやライクスレイクス兄妹、そしてキュリアに向かっていった。そしてワイバーンダークナイトたちの中でいくつかの部隊が層になって配置すると剣を天に掲げて魔力を貯め始めた。その邪悪な魔力に前線にいたリトたちは急いで撤退をし始めた。魔力を貯め始めたワイバーンダークナイトたちの様子は直ぐに指揮官であるクルエラの元へも情報が届いた。

「ワイバーンダークナイトたちが動き始めたか…。撤退を急がせろ、奴らが何かしでかして来る前に。」

「はい!」

 クルエラの指示で前線の冒険者たちが撤退していくのを見てソーシャス将軍は舌打ちしつつも、層を成して魔力を貯めている部下に合図した。

「ブラックホール、放て!」

 ワイバーンダークナイトたちが剣を天に掲げていたのをサッと振り下ろすと、その剣の先に黒い球体が姿を現した。それは次第に大きくなり、周りのものを全て吸引するブラックホールとなった。

「わぁああ!!!」

「た、助けてくれ〜!!」

 ブラックホールは逃げ遅れたワイバーンダークナイトや冒険者たちを飲み込み、大きくなっていった。

 その頃リトたちはブラックホールの吸引する風に煽られないように一時地面に着地し、剣を地面に突き立てて、飛ばされないように必死になっていた。だが、そんなリトに遠くから飛ばされて来た冒険者がぶつかり、その拍子にリトが地面に突き刺していた双剣が地面から抜かれてしまい、リトはブラックホールに吸い寄せられ、宙を舞った。

「(このままじゃ、吸い込まれる…!)舐めんなよッ!!!」

 リトは双剣に魔力を最大限溜め込むと、レイニーの"雷の一閃"からヒントを得て作った斬撃系の魔法攻撃を発動させた。

炎華一刀両断(えんかいっとうりょうだん)!!!」

 リトの放った火属性の斬撃はスパンッという心地よい音と共にブラックホールを切った。これには敵軍のソーシャス将軍もブラックホールが切れるわけがないと思っていた。

 だが、リトの攻撃は魔力を最大限使ったこともあってか、その技の名前の通り、炎を纏った双剣がブラックホールを一刀両断した。

 ブラックホールの魔法はフワッと空気に溶けて消え、吸引する暴風も止んだ。だが、リトは魔力を体中からかき集めてあの技を使ってしまったので、魔力切れで体に力が入らず上手く飛行リングで飛ぶことができなかった。このままではリトが地面に激突してしまう…というところで、ライクスがリトの足首をガッと掴んで地面への激突を防いだ。

「リト、よくやった!だが、魔力切れだろ?俺らがなんとかして食い止めるから、リトは自分の回復とレイニーの容体を見て来てくれ!頼んだぞ!」

 とライクスが言うと、ライクスは自分の身長よりも高いアックスを振り回して次々とワイバーンダークナイトたちを倒していった。リトはふらふらとした足取りで地上に着地すると少しずつだが走って後方支援部隊まで下がったのだった。

 魔力切れとここまでのワイバーンダークナイト軍との戦いでリトはかなり疲弊していたようなので、仮眠室で眠ってもらいながら魔力回復のポーションの効き目がフルに効く時間になるまで休ませることになった。仮眠をするためのテントに行く途中、リトは回復班の班長を務めているエミュレットにレイニーの居場所を聞いておいたのだ。

 点滴治療中のレイニーはすやすやと眠っており、エミュレットの話によればそのうち目が覚めるでしょう、とのことだった。心配だったレイニーの顔を見ることが出来てリトは安心した。そして、自分も魔力と体力の回復をしなければならなかったので、仮眠室に移動して、少しの間戦線離脱をしたのだった。

 ――――――

 一方。戦場では敵味方両方をブラックホールの魔法により数を減らしてしまった両陣営の睨み合いが続いていた。ソーシャス将軍は先ほど自分の部下たちが長い月日をかけて作り上げたブラックホールの魔法を発動したのに、1人の冒険者の斬撃で一刀両断されてしまうとは思っていなかった。沸々と湧き上がる怒りにソーシャス将軍は深呼吸をして気を落ち着かせていた。

 ――――――

 冒険者軍の陣営では戦場に現れたソーシャス将軍の首をどうやって取るか、と言う話になった。そこでクルエラが思いついたのは不意をつくことだった。その話をするためには後方支援部隊で物資供給班で仕事をしていた男性にクルエラは声をかけた。

「グリム殿!」

「えっ、クルエラ様!?なんの御用でしょうか?」

 グリムと呼ばれた男性は自分が何か間違いをしてしまったかと思って少しびっくりしていた。まぁ、そうだろう。魔物と戦うことのない物資供給班で転移魔法陣をひたすら描くのがグリムの仕事なのだから。

「グリム殿は転移魔法陣を描くのを得意としていると聞いている。良かったら私の作戦に参加してくれないだろうか!」

「え…、いいんですか?」

「ああ!君の一族の力を借りたいのだ!」

「ありがとうございます、クルエラ様!このグリム・アリステッド、必ず役に立って見せます!」

 ガッツポーズでクルエラの言葉に答えたグリムは直ぐに指揮官のテントに向かい、今回の作戦の概要をクルエラが参加する皆に話した。

「今回はグリム殿の転移魔法陣が重要になってくる。テレポートするのはキュリア殿、そして今仮眠から戻ってくるであろう、リト殿。グリム殿には転移魔法陣を2つ作って欲しい。」

「分かりました。」

「でも、クルエラ。ソーシャス将軍の周りには護衛のワイバーンダークナイトたちがいるわよ…、どうやってあれを突破するの?」

「今回は私が前線に出て、その周りの護衛を吹き飛ばしてくる。私が前線に向かい始めたらグリム殿は転移魔法陣を描き始めて欲しい。セリナが戦場把握をして、タイミングを見て直ぐにリト殿、キュリア殿をテレポートさせてくれ。ソーシャス将軍の頭上を狙ってくれよ?」

「クルエラ様の頼みとあれば、寸分狂わぬ転移魔法を発動させましょう!」

 グリムが意気込んで魔界の地面にガリガリとチョークで魔法陣を描き始めると、クルエラは飛行リングに魔力を込めてフワッと飛ぶと凄まじい速さで前線まで飛んでいったのだった。

 リトが仮眠用テントで30分ほど仮眠して、テント内の固いベッドでバキバキになった背中や腰をほぐしていると、そこにキュリアがやって来た。

「あれ、キュリアさんも後方支援部隊に来ていたんですね!」

「リト、起きたばかりで悪いけど、クルエラ様からの伝言があるの。それを伝えるわ。次のコチラからの作戦の鍵はグリム・アリステッドさんが作る転移魔法陣。それを使ってソーシャス将軍の魔石を狙って近接戦闘に持ちかけるの。」

「ふむ…、それで俺とキャリアさんが抜擢されたってわけですね。了解です。それでクルエラ様は…?」

「もう既に前線に行ってソーシャス将軍の取り巻きをなんとかしてくれるらしいけど…。」

「俺たちはグリムさんって人が書いてくれてる転移魔法陣のとこで待ってればいいんですね!クルエラ様を信じましょう!

「そうね。」

 リトとクルエラが戦場の方角を見ていると。巨大な竜巻が2本ほど小竜の巣に現れたのを視認できた。

「どうにかする…ってああいうことだったんですね。」

「クルエラ様は少し大雑把な一面があるって聞いてたけど…。」

 リトとキュリアが苦笑いをしながら戦場に現れた巨大な竜巻にワイバーンダークナイトたちは気流が乱れて飛べなくなったり、竜巻に巻き込まれたりして陣形が乱れていった。冒険者側の方はあらかじめクルエラが来たことで前線から少し下がってもらっていたらしく、冒険者側での竜巻の巻き込み事故は起きていないようだった。

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