Level.77 切って落とされた火蓋
Level.77 切って落とされた火蓋
シドが喫茶店のメンバーになって早1か月が経とうとしている頃。レイニーの元に冒険者ギルドからグランドクエストへの招集の手紙がやってきた。
「これが魔神軍最後の一枠か…。」
「レイニー…。」
ザルじいが心配そうな顔でレイニーの方を見ていたので、レイニーは笑ってザルじいのことを見た。
「ザルじい大丈夫だよ。今回もしっかり勝って帰ってくるから。」
「ああ。無事に帰ってくるんじゃよ。」
「まだ出発じゃなくて、説明会召集の手紙だよ。気が早いってザルじい。」
「ほっほ、そうじゃったな。」
そんな話をしてから、レイニーは手紙に書いてあったハインツィアでのグランドクエストの説明会に参加すべく、ここ1か月で再び作りあげた新品のテレポート結晶を使って、ハインツィアまで飛んだ。
ハインツィアの冒険者ギルド総本部では沢山の冒険者たちがひしめきあっていて、レイニーはここで説明会があるのか…と周りをきょろきょろと見た。
説明会の時間が近付いて来たので、レイニーは会場の総本部の講演会ホールへと入った。そこでレイニーは目立つ銀髪を見つけると、声を掛けた。
「リト!」
「お、レイニー!ゴールドランクだもんな、レイニーにも召集の手紙が来たんだな。」
「うん。ハインツィアに着いてから、人が沢山で会場に入るまで知り合いに会えなくて、少し心細かったんだよ。」
「ははは、今回のグランドクエストは魔神軍四天王最後の一角だもんな。」
「そうだね…。過酷な戦いになりそうな予感がするよ…。」
「ああ。」
リトの隣の席に腰かけてリトと今回のグランドクエストの話をしていると、ステージに今回の総指揮を執る総本部の本部長のクルエラが立った。
「冒険者諸君。今回はグランドクエストの招集に応じてくれてありがとう。今回はグランドクエストで戦ってきた魔神軍四天王、最期の一角…、ワイバーンダークナイト軍と戦う。今回も前回に引き続き、ドラゴンのノアリー殿に魔界に向かってもらい、敵の動向を探ってきてもらった。ノアリー殿、説明を。」
「紹介に預かった、ドラゴンのノアリーじゃ。今回のワイバーンダークナイト軍じゃが、数は10万。小竜を操るため、今回の戦いは空中戦が主になるじゃろう。飛行リングを所持していない者は、後で冒険者ギルド近くの武器屋で販売しておるから、必ず所持するように。そしてワイバーンダークナイト軍じゃが、その中には階級が存在しておるようじゃ。普通の兵士から、その上に将軍、更に元帥、そして…、総統がおる。我らドラゴンよりも小さいがワイバーンを操る奴らの中でも、ガルテ総統という者が扱う小竜は火属性のブレスを得意とし、飛行スピードも高いと聞く。今回は苦戦を強いられるだろうが、今回も我らが勝利を掴むため、我もこれから魔界での調査を入念に行う。皆、当日はよろしく頼む。」
ノアリーの説明を受けると、会場のあちこちから"今回も大変そうだな…"とか"勝てるんだろうか…"と言った不安の声まで漏れ始めた。だが、壇上のクルエラはそんな声を払拭するかのように、大きな声でこう言った。
「諸君が不安な声になるのも頷ける…。だが、ここで折れてしまっては魔神軍たちにこの人界を襲わせることになる。私たちはこの人界の人々を守るために、魔神軍と戦うのだ!名声などを気にせず、ただ人を守ることだけに命を賭してほしい!どうか、私の声に賛同してくれ…!」
そういって、壇上で頭を下げたクルエラに、レイニーは席を立ちあがって拍手を送った。そしてそれは隣に座っていたリトにも伝播し、次第に拍手は会場全体に広がった。クルエラの言葉に皆、賛同してくれたのだと証明された瞬間であった。
――――――
そしてハインツィアでの説明会から1か月後。この1か月の間にレイニーは防具屋で年明け前に狩ったスリーピングアウルの素材を使って、防御力が上がった、スリーピングアウルの外套や前と同じ青色のワンピースを着て、最後にスリーピングアウルの爪などから作られた頑丈な胸当てのプレートを装備した。
「よし。」
装備を万全にして、レイニーが部屋を出ると、そこには不安そうな表情のザルじいがリビングで待っていた。コーヒーを飲んで気を落ち着かせようとしていたらしいが、レイニーが部屋から出てくるのを見ると、不安な気持ちは絶頂になったようだった。
「レイニー、絶対に帰ってくるんじゃよ?」
「うん。必ず…必ず帰ってくるから…。待ってて、ザルじい。」
レイニーとザルじいが抱き締め合って、無事に帰ってくる約束をして、レイニーは家を出発した。テレポート結晶で、ハインツィアに辿り着くと、冒険者ギルドの総本部前の広場にはたくさんの冒険者が集まっていた。
レイニーが最後に腰のポーチの中身を確認していると、ポンポンと肩を叩かれた。レイニーが不思議がって振り向くとそこには、エミュレットがいた。
「エミュレットさん!お久しぶりですね!」
「レイニーさんも、今回のグランドクエストに絶対参加すると思っていました!頑張りましょうね!」
「はい!」
レイニーがエミュレットと一緒に最近の精霊たちの様子の近況報告をしているとリトが合流し、3人でグランドクエストで魔界に行く時間まで談笑をしていた。
そしてグランドクエスト開始時刻になると、広場の入り口にお立ち台が設置され、クルエラが壇上に上がった。
「諸君。今回は集まってくれてありがとう。これより、魔界への大規模な転移魔法を発動させる。発動範囲はこの広場全体だ。皆その場を動かずに待っていて欲しい!それでは転移魔法発動!」
クルエラの合図と共にレイニーたちが立っていた広場の石畳が淡く光った。そして白い光に包まれてレイニーたちは魔界へとテレポートされたのだった。
レイニーが目を開けると、そこは久方ぶりの昼とも夜とも分からない不気味な色をした空が広がっている魔界だった。レイニーたちの大規模テレポートは成功したようで、あの広場にいた者全員がテレポートできたようだった。そして甲冑に身に包んだ、クルエラとドラゴンのノアリーが声を上げた。姿は見えないが、彼女らの声を頼りにその方向を見た。
「ワイバーンダークナイト軍が根城としているのは、小竜の巣と呼ばれる小高い丘の上にある。周りには崖があったりして危険だ。皆飛行リングは持っているな?それを使用するのは、戦いが始まってからにしてほしい。それでは小竜の巣まで走って向かう!」
冒険者軍の先頭をクルエラが務め、冒険者軍は次第に皆が走り出した。レイニーとリト、エミュレットもそれに続くように走り始めたのだった。
やがて見えてきた崖に囲まれた小高い丘が見えてきた。
「あそこが小竜の巣…。」
レイニーたちが走るのをやめ、クルエラの指示で、その場に後方支援部隊のテントが設置され始めると遠距離魔法が使えるレイクスが先頭となり、魔法使いたちが小竜の巣の上空に飛んでいった。そして…。小竜の巣目掛けて魔法攻撃の雨を降らせた。ものすごい衝撃音と共に小竜の巣はハチの巣のように穴だらけになり、ワンテンポ遅れて、小竜の巣からワイバーンダークナイト軍が続々と出てきた。
そしてクルエラが采配を振った。
「全軍、進撃!」
その合図と共にレイニーたちは飛行リングで空を飛び、襲い掛かってきたワイバーンダークナイト軍との戦いの火蓋が切って落とされた。
――――――
戦いが始まった頃、穴だらけになっていた小竜の巣の中ではワイバーンダークナイト軍の総司令官でもある、ガルテ総統が巣の最奥で椅子に座っていた。ガルテ総統のいる最奥までは魔法の雨が入って来ず、ガルテ総統は無傷だった。ガルテ総統は静かに目を開けると、戦況の報告を受けた。
「ガルテ総統!ご報告です。この小竜の巣の上空に人界の冒険者軍の魔法使いどもがおりまして、そこから魔法の雨を降らせた模様!只今、わが軍の少数部隊が先陣を切りました。お次の作戦はいかがなさいますか。」
「…新設されたというプラチナランクの冒険者どもの位置は。」
「はい、上空に一人、レイクス・ホークという女が…、そして少数部隊と戦っている中に3人おります。」
「まずはプラチナランクやゴールドランクの奴らを殺せ。」
「はっ!」
ガルテ総統が下した指示に部下である者が頭を下げて直ぐにガルテ総統に指示された内容を他の仲間にも伝えると、ガルテ総統は再び目を閉じて、自分が出る幕はないと考え、静かに戦いが終わるのを待っていた。
――――――
移り変わって最前線の戦場では、レイニーたちゴールドランクの冒険者や、プラチナランクであるリトやキュリア、ライクスがその武器を思う存分奮ってワイバーンダークナイトたちを屠っていった。次々と湧いて出てくるワイバーンダークナイトたちにレイニーたちは舌打ちをした。
「やっぱり数が多いな!」
「私が雷の槍で活路を開きます!ライクスさんとリトは小竜の巣へ!」
レイニーがそう言うと、雷光の槍に魔力を込め始めた。それを見て、ライクスは"よっしゃ、リト、行くぞ!"と声を掛けてきた。そして、レイニーが魔力を込め終えると、一塊になっているワイバーンダークナイトたちを一直線に貫く、雷の槍を発動させた。
「雷の槍!!!」
ドガァン!!と大きな落雷の音と共にレイニーは雷光の槍を一直線に投げて雷の槍でワイバーンダークナイトの中に活路を開いた。そしてレイニーは直ぐにワイバーンダークナイトたちの間をすり抜けて、雷光の槍を回収すると、ライクスとリトがワイバーンダークナイトたちの中に斬り込んで行った。




