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Level.75 ホットプレートパーティー

Level.75 ホットプレートパーティー

 レイニーは見知らぬ少年に孤児院まで連れて来られると、孤児院の中からたくさんの子供たちが出てきて、レイニーや少年、アルの周りを取り囲んだ。きゃっきゃとレイニーの服の裾を引っ張ったりする子供たちにレイニーとアルが困惑していると、孤児院からシスターを出てきた。

「す、すみません!ほら、皆寒いから孤児院の中に入りなさい。」

「はーい!」

 シスターの注意に子供たちが元気よく返事をすると、我先にと孤児院の中に戻って行った。嵐のように過ぎ去っていった子供たちにレイニーとアルがポカーンと口を半開きにしていると、シスターが少年の首根っこを捕まえた。

「シド!どこに行っていたかと思えば…。この人達に悪さはしていないでしょうね!?」

「……孤児院の料理作ってもらおうと思って…。」

「ちゃんと理由は話しましたか?」

「うッ…、それは…えと、後から話そうと…。」

「はぁ…。本当にこの子がすみません!」

 シスターに"シド"と呼ばれた少年はバツが悪そうに正直にレイニーを半ば強引に連れ攫ってきたことを白状すると、シスターが深い溜息を吐いた。そしてレイニーとアルに向かって頭を下げた。そして少年の頭もがっと掴んで一緒に下げた。

「そ、そんな大丈夫ですよ!あの、つかぬことをお聞きしますが、孤児院の運営が難しくなっていませんか?」

「え…?」

 レイニーは孤児院の建物の壊れ具合を心配した。今は寒い冬の時期だし、子供たちは孤児院の中にいるとはいえ、寒さで凍えていないか心配だったのだ。そのことを話すとシスターは苦笑いをして"そうなんです…"と話し始めた。

「お恥ずかしい話、私たちのここの孤児院は国の援助を受けていなくて…、この時期も皆で身を寄せ合って凌いでいるんです。」

「それで俺がこの間、冒険者ギルドの総本部でプラチナランクの進呈式で有名なやつが料理の監修をするっていうから、国の偉い奴らだけじゃなくて、俺たちのような人にも飯を作ってもらおうと思って…。」

「だからって、攫って来いだなんて言っていません!」

「……ごめんなさい…。」

 シスターからの叱責を受けたシドという少年はぷいっとそっぽを向きながらも、小さな声で謝った。そんなシドの態度にシスターがまた眉を吊り上げて叱ったので、レイニーはシスターに"もうそれくらいで…"と言うと、シスターはため息を吐いた。

「巻き込んでしまってごめんなさい。私はここハインツィアの孤児院でシスターをしています、ミルネットといいます。この子はシド。孤児院の中でも最年長の16歳です。」

「…ども。」

「初めまして、ミルネットさん。私はピーゲルという街で喫茶店を営んでいるゴールドランク冒険者のレイニーといいます。こっちはダークエルフのアル。」

「は、初めまして…。」

 アルは目が覚めたばかりでこんな事態に巻き込まれているので、人見知りが発動し、レイニーの後ろに隠れてしまったのだった。

「もしかして、喫茶店と言うのは、喫茶レインという…?」

「はい、ご存知でしたか?」

「ええ。シドが言った通り、プラチナランク冒険者の進呈式の会食の料理の監修をするのだと、大通りの市場で聞きました。それがレイニーさんだったんですね…。」

「そうなんですね…、意外に私の名前が出回っているようですね…。」

 レイニーは苦笑いをしつつも、今回の騒動を大きくしないためにも一つの提案をした。

「あの、孤児院の子供たちに料理を振る舞いましょうか?」

「えっ、い、いいんですか!?それはとっても嬉しいのですが…。レイニーさんも忙しい身では…?」

「いえ、私も平日は予定が空いていますし、お店の従業員も呼べば子供たちへの料理も作れると思いますんで!」

「あの有名な喫茶レインの料理が食べられるなんて…、嬉しいです!」

「まずは日にちを決めましょうか。1週間後でもよろしいですか?」

「はい!大丈夫です。こちらで用意する食材とかありますか?」

「食材や料理で使う器具や調味料はこちらで用意しますので、ミルネットさんの方は何も準備しなくて大丈夫です。ただ1週間後、子供たちと一緒に楽しみに待っていてください!」

「何から何までありがとうございます!子供たちにも話しておきますね!」

 こうしてレイニーはハインツィアの孤児院の子供たちに料理を振舞うことにした。きっかけが半ば誘拐じみた話だったが、連れ去った本人のシドも反省しているようだったし、レイニーは許すことにして、1週間後に振舞う料理について考えながら、レイニーはアルと一緒にピーゲルの街へ帰ったのだった。

 ピーゲルの街に帰ってから、レイニーはアルをザルじいに紹介してしばらくの間、アルをこの家に住まわせてもいいか聞くと、ザルじいは二つ返事で了承してくれたので、アルはレイニーたちの家族になった。その後にレイニーはすぐさまナシュナにピーゲルの街に来てもらうよう、召集の手紙を出した。

 そして翌日、ハインツィアの孤児院で子供たちに料理を振舞う約束をしたことについて、臨時の喫茶店の会議を開くことにした。レイニーは勝手に決めてきてごめん…と謝っていると、ナシュナが答えた。

「寒い中い過ごしている子供たちにも温かい料理を食べさせてあげたいですもんね…!私はレイニーの考えに賛成ですよ。」

 ナシュナがそう言ってくれたので、レイニーは嬉しくなってナシュナの手を取って"ありがとう!"とぶんぶんと上下に振って喜びを伝えた。だがリトは渋い顔をしていて、レイニーは何かやらかしてしまったかと思った。

「レイニーは危機感がないのか!?16歳の男に連れ去られたんだぞ!?冒険者なら振り払わなくちゃダメだ!」

「ご、ごめんなさい…、あまりにも強い力で引っ張られて…普通には手を離してくれなさそうだったから、最終手段で電気を流して振りほどいたけど…。」

「レイニーはゴールドランクなんだぞ!しっかりしてくれ!」

「うう…、ごめんなさい…。」

 リトはレイニーの身の安全を心配してくれていたのか、説教を繰り返した。ナシュナが間に入って"リトさん、そのくらいで…"と言ったので、レイニーの方を見ると反省しているようで、しゅんとうなだれていた。そんなレイニーの姿を見て、リトは咳払いを1つすると、話題を孤児院の子供たちへの料理提供の話に切り替えた。

「はぁ…、連れ去られた縁とはいえ、俺も子供たちが腹をすかせたまま、孤児院で身を寄せ合って過ごしているのは心配だ。俺もその日は休みにして孤児院に手伝いに行く。」

「ありがとう、リト!」

 リトからも許可を貰えたレイニーはザルじいからも賛成の意を貰えたので、その日に作る料理について皆と話し合った。その結果皆で楽しくワイワイ料理を楽しむのなら、ホットプレートを使った料理だろうということになり、ザルじいの開発したホットプレートを数台持って孤児院の子供たちにお好み焼きや焼きそば、ペッパーランチを作ってあげることになったのだった。

 ――――――

 そして1週間後、レイニーたちは冬にしては珍しく、晴れ間が見える日に孤児院を訪れた。

「ミルネットさん、私たちの喫茶店のメンバーを連れてきました。今日は皆でホットプレートという調理器具を使いまして、パーティーをしたいと思います!」

「ほっとぷれーと…?初めて聞く調理器具ですから、それでレイニーさんたちの美味しい料理が食べられるのなら、大歓迎です!今日はよろしくお願いします!」

 シスターのミルネットに今回のホットプレートパーティーの説明をすると、早速レイニーたちは子供たちが見守る中、パーティーの準備を始めた。準備にはシドも手伝ってくれた。だが、準備をするときに、シドとリトが鉢合わせになると、二人の間には緊迫した空気が流れた。レイニーとナシュナがはらはらとした表情で見ていると、リトは数秒、一度シドの顔を睨んでから何事なかったかのように、シドの横を通り過ぎてホットプレートを運び出した。レイニーたちは喧嘩とかが起きなくてよかった…とホッと胸を撫でおろした。

 そして準備が滞りなく進むと、レイニーたちはホットプレートに電源を入れて、早速お好み焼きや焼きそばのの調理に取り掛かった。ホットプレートは熱くなるので、子供たちを近付けさせないようにとミルネットに指示すると、シドも子供たちのストッパー役として、別部屋で待っている子供たちの元に向かってくれた。

 そしてレイニーとザルじいがお好み焼きと焼きそば、ペッパーランチを作り上げると、シスターのミルネットに誘導されてホットプレートの上でジュウジュウと音を立てて、美味しそうな香りを放つ料理を見た途端、喜びが爆発したように、一気に子供たちがレイニーたちが焼く料理たちを分けてもらえるよう、列をなし始めたので、レイニーは行儀の良さに驚いていると、子供たちが早く早く!とせがむので、レイニーは苦笑いをしながら、子供たちにお好み焼きを取り分けてやったのだった。

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